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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第四節 おかえり、ただいま
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11 ダル隊長

「ダルに会うのか……」


 その夜、トーヤはまたベッドの中で眠れずにいた。

 先日、ミーヤに会うことを考えた時にも眠れなかった。

 あの時はディレンもいて3人だったが、今日はアランと2人だ。アランはとっくに夢の中に入っていて、心地よさそうに寝息を立てている。

 

「俺も年なのかねえ……」


 ぼそっとつぶやく。

 

「いやいや、まだ25だぜ? 何言ってんだよ俺」


 そう自分に言い聞かせるが、ダル本人が変わっていなくても、この八年の間にアミと結婚し子どももできたと聞いた。あの頃のように、同じように話せるものなのだろか。それが不安になる。


 この国で過ごした最後の10日間、オーサ商会の船で「サガン」の港に行くまでの10日間に色んな話をした。


「絶対元気で戻ってきてくれよな、待ってるからな」

「ああ、待っててくれよな」


 ミーヤとの約束とはまた違う形で、何度も何度もそう約束した。

 ミーヤとの約束と同じぐらい大事な約束だった。


「あいつも覚えてるのかなあ……」


 トーヤはため息をつきながら、何度も寝返りを打ち、そうしている間にやっと眠ることができた。




 昨夜遅くに手紙を置いてきたが、今朝、夜が明けてからベルが散歩の振りをして一応部屋へ行ってみたら、もう返事があった。


 そのへんに手紙を置いておくわけにはいかない。もしも、何かで誰かが入ってきて目についたら困る。それでミーヤと場所を決めておいた。そこを探ると折りたたんだ紙が入っていたのだ。

 

「早かったなあ」

「夜中のうちに見にきてくれたんだな……」


 トーヤがそう言って手紙を開く。


 返事はトーヤが置いてきた紙の続きに書いてあった。手紙を確認し、そのままそこに返事を書いたのであろう。

 手紙には今日の昼にダルが宮に来ること、来たら自分の部屋に入るだろうことが書いてあった。 


 トーヤが手紙を置きに行ったのが日付が変わる少し前だ。

 一体何時ぐらいに来てくれたのかと少し気になる。

 深夜に一人、見つからないように来てくれたのだろうか、それとも早朝に。どっちにしても、そうしてくれたことがうれしく、そして申し訳なく思った。


「人のいない時を見計らってダルの部屋に行ってみる」

「って、ダルの部屋の鍵も開けられるのかよ」

「当然だ」


 時刻はまだ朝早く、朝食を済ませたばかりの頃だった。


「アランが一緒に来てくれた方がいいかな」

 

 この先、ダルと接触しやすいのはアランだ。会わせておいが方がいい。




 昼より少し前にアランと2人で廊下を進む。


「相変わらず人がいねえな」

「それでも、交代の時とかには出入りが多いみたいだぜ」

「そうなのか?」

「ああ、アーダがそう言ってたってベルが言ってた」


 どんな理由でも人がいないのは助かる。

 空いたままだったトーヤの部屋の鍵をかけ、ダルの部屋の鍵を開けて入る。


「ここも変わんねえなあ。ちょっと物が増えたか?」


 トーヤが見回してそう言う。


「まあ、なんにしてもダルが来るまでじっとしてるしかねえか。けど、どうやって会うかなあ、ミーヤにやったみたいにはできねえし」

「それな」


 アランが厳しい顔で言う。


「ベルに聞いたけど相変わらず無茶するよなあ」

「いや、だってな」

「いくら会うのが恥ずかしいったって、気の毒だろうが。もうちょっと大人になれよな」

「はい、すいません……」


 どうもこの頃アランに叱られることが多くなった気がするが、それだけのことをやっているので反論もできない。




 時間が経ち、昼を知らせる鐘が鳴り響いた。

 昼食を持ってくるアーダには、2人が寝てしまったので後で食べると言っておいてもらうことにしてある。


 昼からそう時間が経たないうちに、扉の鍵を開ける音がした。


 誰が入ってくるか分からないので、一応ベッドの横のカーテンに身を隠す。以前、ミーヤたちがトーヤを驚かせるのに隠れていたのと同じ場所だ。


「じゃ、後のことは頼むね、俺はちょっと部屋で用があるから」

「分かりました」

「それから、終わったらみんなそれぞれ解散していいから」

「隊長はどうするんです?」

「俺は今日はここに泊まるかも」

「分かりました」


 月虹隊の部下なのだろうか、誰かに指示を与え、そう言って一人で部屋に入ってきて鍵をかけた。


 ダルだ。

 八年前と変わらない。


「よう」


 トーヤは「緋色の戦士」のままダルの前に出た。


「トーヤ!」

 

 ダルは駆け寄ると迷うこと無くトーヤに飛びついて、


「よく戻ってきたな!」


 そう言った。


「おまえ……」

 

 驚かせるつもりがトーヤの方が驚かされた。


「なんで分かったんだよ!」


 「緋色の戦士」の姿を見ただけでは誰か分からないはずだ。


「ミーヤが連絡をくれたからね」

「ミーヤが?」

「うん、ずっと前から決めてたんだよ、トーヤが戻ってきたらこうして連絡しようって」


 今朝、月虹隊の連絡係からその連絡が届いた。


「見ただけでは普通の連絡なんだけど、ちょっとだけ細工をしてあって、トーヤが姿を見せたらお互いにそうして連絡しようって決めてたんだよ。カースに来るか、宮に来るか分からないからな」


 ミーヤからそんなことは聞いていない。

 もしかしたら、いきなり驚かされたトーヤへの仕返しなのか?


「やられたな……」


 トーヤは思わず苦笑していた。

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