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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第四節 おかえり、ただいま
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10 さらなる味方を

 しばらく誰も口を開かず沈黙が続いた。

 荒れ狂っていたベルも何も言わない。


「……だれがおっさんだよ」


 そう弱く言ってトーヤがベルの頭をやはり弱くはたいた。


「いてえよ……」

 

 ベルも弱くそう言う。


 まだしばらく沈黙が続いた。


「あのな」


 やっとアランがそう言った。


「なんだよ兄貴」

「おまえがどんだけシャンタルを大事なのか分かった。そんでシャンタルもどんだけおまえを大事なのかがな」


 そう言って、今は黙って目をつぶっているシャンタルを見る。

 銀の髪に銀の輪が光り、一層精霊かなにかのように見えている。


「だからそうやってぶつかるんだよ」


 アランがため息をつく。


「シャンタルもな、あんまりこいつ刺激してくれんな……」


 シャンタルは返事をせず、動きもせず、そのままの姿勢でいる。


「まあな」


 トーヤも言う。


「そういうこった。だからまあ、少し落ち着け、な?」


 そう言うと、アランがチラッとトーヤを見て、


「あんたが一番ふわふわしてるように俺には見えるけどな」


 そうチクリと言う。


「いや、それは面目ねえ……」


 正直に認めて謝る。


「言われてみれば、俺が一番分かってなかったのかもなあ、そのへん」


 ふうっとため息をつく。


 自分は八年前に数ヶ月ここにいただけだ。

 ただ、その間にあったことがあまりに濃密で、何もかも自分基準で考えてしまっていた。

 宮が、なんとなく変わったこと、それは感じていた。だが、それは、この先に残る仕事、それを無事に終えるためにどうすればいいのか、それに関わることとしか受け止めてなかったかも知れない。個人的な一部の問題を除けば、だが。


 だがシャンタルには故郷なのだ。

 あまりにシャンタルが飄々(ひょうひょう)として、何も感じないような顔をしてるからつい忘れるが、そうなのだ。

 そして、今、トーヤがどうなっているか分からないと様子を見ているマユリアやラーラ様は、シャンタルの大事な家族なのだ。


「すまんな」


 トーヤはシャンタルに向かってそう言う。


「何を謝るの?」

 

 やっとシャンタルがそう言う。


「いや、おまえの気持ち、もっともっと考えてやるべきだった、すまん」


 トーヤはそう言って頭を下げる。


「ベルの言う通りだね」


 シャンタルがそう言ってくすり、と笑った。


「何がだよ?」

「いや、トーヤはずるいよね」


 そう言ってまた笑う。


「そうして謝られたら、許すしかないじゃない」

「そうか」


 トーヤも笑って言う。


「それで、結局どういうことにすんだよ」


 ベルが横を向いたままで言う。


「言っとくけどな、シャンタルはおれらの家族なんだよ。だから置いてくなんて選択肢はねえからな、分かってるか?」

「うん、分かった」


 シャンタルが素直にそう答える。


「だから二度とあんなこと言うなよな!」

「うん、分かったよ」

「今度言ったら絶交だからな!」

「うん、分かったよ」


 理屈としてはおかしいのではないか、とアランは心の中で思っていた。


(絶交すんなら置いてってもいいだろうに)


 だが、今そんなことを口にしたらどんな目に合うか想像もできない。


 そう思って横を見ると、明らかにトーヤも同じことを思っているようで、アランを見てやれやれというようにはっと息を吐いてみせた。


「まあ、バカは気楽でいいよな」


 ぼそりとアランにだけ聞こえるように言い、アランが笑う。


 ベルとシャンタルはただひたすら「絶交だぞ」「分かったよ」を繰り返していて、男2人の苦笑には気がついてはいない。


 そんな2人を見ていると、トーヤは少しホッとした気持ちになり、同時に、


「しかし、ますます大変なことになっちまったなあ……」


 と、つぶやいていた。


「そうだな」

 

 アランにも分かったようだ。


 八年前も困難と言えば困難な仕事であった。だが、宮の上層部の全面的な後押しがあった上でのこと、しかも次回交代の時に戻る、という目的があった。

 

 だが今回は違う。 

 一体何をどうすればいいのかがさっぱり分からない。

 しかも宮の内部もなんとなく落ち着かない状態である。


「どうしてほしいんだよなあ、マユリアたちは……」

「ほんとにな」


 今だに2人で「分かったな」「分かったよ」と同じことを繰り返しているベルとシャンタルを尻目に、男2人がため息をつく。


「なあ」


 と、いきなりベルが声をかけてきた。


「リルやダルに言うんだろ?」


 一応、ダルには会ってみようとは言ってはいた。

 リルは保留だが。


「ミーヤにはまだそれは言ってない。時間がなかった」

「はあ、たよんねえなあ」


 ベルがやれやれ、と両手を上げて呆れたように言う。


「ただ、ミーヤは今もまだ半分は月虹兵の係らしいから、つなぎは取れると思う」

「半分?」

「なんか、今はほぼ『外の侍女』が月虹隊専属みたいになってて、その宮側の取り次ぎがミーヤだそうだ」

「へえ」

「だから、ダルがいつ宮に来るかとか、そういうのは分かるみたいだな」


 そういうことで、とりあえずミーヤに手紙を書き、トーヤの部屋に置いてくることにした。


 手紙の置き場所は決めてある。

 もしも、他の人が何かの都合で入ったとしても、すぐに目に付く場所ではない。

 その夜遅く、闇に紛れてトーヤはそこに手紙を隠して戻ってきた。

 鍵穴を横にしておいて。

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