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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第四節 おかえり、ただいま
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 2 侍女頭の采配 

「あー、じゃあ、どうすっかなあ。ずっとここでこそこそ話すってのもなあ、逢い引きじゃああるまいし」


 言ってしまってからいきなり顔に血が上るのを感じた。

 ミーヤも同じことを感じたようで真っ赤になっている。


「と、とにかくだな!」


 トーヤは急いで話を変える。


「話せばほんとに長くなりそうなんで、なんとか話せねえかなあ。できればベルやアラン、それからあいつと、アルロス号の船長のディレンとも顔つないでもらってたら助かるんだが」

「本当に私が客殿へ行ければいいのですが、どうしましょうか」

「そうだな」


 トーヤがふっと言う。


「なんでキリエさんはあんたを引き離すような真似をしてるか、だな」

「え?」


 ミーヤが驚いてトーヤを見る。


「いやな、一番簡単なのはそれなんだよ、あんたを客室係に付けてくれることだ」

「確かにそうですね」

「それが、聞いてみたらあんたをあの日から見習い侍女の教育係に付けたという。それって多分急だったんだろ?」

「え、ええ」

「ってことは、俺らの正体知って、それであえてあんたを引き離したんだと思うんだよ」

「そうなんでしょうか?」

「まあ、その可能性もある、ってことだけで本当のところは分からんけどな。だがそうだった場合、それはなんでだ?」


 トーヤが左手をあごに当てて考える。


 その横顔を見ながら、ミーヤは胸が熱くなるのを感じた。


(本当に戻ってきたのだわ……)


 あまりに突然にあんな再会をし、すぐにわけの分からない状態になり、嵐のような感情の波に揺さぶら続け、そして、あまりにも絶望する出来事があった。


(それが、勘違いの上に起こったことだったなんて、本当になんて……)


 思わずミーヤがくすりと笑う。


「ん、なんだ? なんか俺、笑われるようなことしたっけ?」


 そう聞いてくる声も八年前のまま、まるであの日から今日までの間に八年なんて歳月がなかったかのようだ。


「いえ、あまりに八年前と変わらないもので」


 笑いながらそう言うと、


「そうか?」


 そう言いながらトーヤもホッとしたように笑う。


「でもそうだな、確かに変わってねえんだな」


 そう言って少し笑った後、


「めんどくさい問題抱えてるってとこもな」


 と、苦笑した。


 そうなのだ。

 普通に長い旅を終えて帰ってきただけではないのだ。


「ええ」


 ミーヤもそれは分かっており、真面目な顔になって答える。


「話は戻すがな、キリエさんがあんたを離した理由は2つ考えられる。まずは、俺らの正体がばれないようにだ」


 トーヤが左手の人差指を1本立てながら言う。


「できるだけ俺らのことを知る人間は少ない方がいい。できれば自分だけにすればなおいい、そう思ったんじゃないかな」

「確かに、知ってる人が増えるほど秘密が漏れる可能性は高くなります」

「そういうこった。そしてもう1つの理由」


 トーヤが左手の中指も立てる。


「あんたが自由に動けるように」

「私がですか?」

「ああ、俺らと関係がないと思われてたら目をつけられることもない。そしたら自由に動いてもらえる」

「それでなのでしょうか?」

「俺は、そうじゃないかと思う。それにはちゃんと理由がある」


 トーヤが続ける。


「あの時、廊下ですれ違っただろ?」

 

 この宮に来た当日のことだ。キリエは案内の侍女に何かを申し付けていた。


「あれは多分、大回りしてから行けと指示したんだと思う」

「大回り?」

「ああ。最初は客殿の1階の面会室か? そこに通されて、そこからキリエさんと面会のためにこの宮の1階、そこの一室に通された」

「この宮のですか?」


 ミーヤが不審そうな顔をする。


「おかしいですね、普通だったら客殿の面会室で面会なさるはずですが」

「やっぱりか」


 トーヤがまた苦笑する。


「やっぱりあの人はすげえなあ」

「どうしてそんなことを?」

「ああ、あんたを俺に見せるためだよ」

「私を?」

「ああ」


 トーヤが感心したようにため息をついた。


「もしかしたら、俺たちが戻る時にはなんらかの手を使って宮へ接触を図るんじゃないかとずっと考えてたのかも知れないな。なので、何か妙な出来事があったら、万が一のためにといつも色々気配りしてたんじゃないかな。もしも、本当に単に助けを求めて来ただけのやつなら、その時は普通に対応すりゃいいだろ?」

「そんなこと……」

「あの人ならやるだろう」


 トーヤが軽く上の方を向き、誰かの姿を思い浮かべる表情になった。


「それで、俺だと分かったから、あえてあんたとすれ違わせるために遠回りさせたんだよ。普通さ、あんなケガしてる人間、できるだけ歩く距離を短くしてやろうと思うだろ? それをぐるっと大回りだ」

「確かにキリエ様だったらそのぐらいのこと思わない方ではありません」

「だろ? もしも違ってたら、そのまま客殿へ回れ右して戻したはずだ。それをあえて逆方向へ行かせて戻らせた。ちょうどあんたが侍女見習いたちを連れて戻る時間だと知ってたからだ」

「キリエ様……」

「そんで、あんたが元気でいること、あの廊下に来れば会える可能性があることを知らせてたんだ。すげえ人だよな。あの人には本当に叶わねえ。だから、あの人が敵に回ることだけは避けたいんだよ」

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