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16 関係

(な、何! 一体!!!!!)


 ミーヤは必死で身を振り絞り、後ろから自分を羽交い締めにしている誰かの手を振りほどこうとするが、がっしりと固められていてできない。

 片手で口を、そしてもう片手で首元をぐっと締めつけられ、呼吸はできるものの声が出せない。


「うー! うー!」


 辛うじて出るのはそのぐらいの声、だが口を押さえられてるから大きな声は出せない。


 首元を押さえている手を両手で掴み、必死で引き離そうとするが、それほど力を入れていると思えない腕が引き離せない。よほどうまくツボを押さえているらしい。


「おい、何してんだよ!」

「何って、騒がれたら面倒だろうが」


 自分を押さえている誰かのさらに背後から、潜めた女性の声がそう言い、くぐもった男の声がそう言う。

 

 女性の声はさっき話していた中の国からきた侍女に似ているような気がする。助けてくれようとしてるのだろうか?


 女性の声に助けてと言おうとさらに体を捻る。

 動けない。


「いいから手、放してあげろよ!」

「けど手を離した途端大声で叫ばれちゃ、話もできんからな」

「いいから、かわいそうだろ!」


 言うなり、


 ぱかーん!


 何か、そう固くはないもので何かを殴る音がした。


「いてっ! 何すんだよ!」

「何すんだじゃねえよ、早く!」

 

 内輪もめをしているのだろうか。

 なんでもいい、誰でもいいから助けて、そう思っていたら、 


「俺だ」


 え?


「ちょっと静かにしてくれ」


 何かで口を塞いでいるのかちょっとくぐもってはいるが、この声……


 ミーヤが思わず両手を離し、体から力を抜く。


 聞いたことがある……


「俺だよ」


 知っている、この人は……


「トーヤだよ」


 無意識のうちに大きく息を吸い込んでいた。


「静かにしてくれよな、頼む」

 

 そう言って背後の誰かはそっとそっと手を離した。


 ミーヤは振り向き、今度はまた違う意味で声を上げそうになったが、辛うじて押し留めた。


「な、なんなんです、その格好は……」


 今のトーヤは「緋色の戦士」の扮装をしている。

 上から下まで全部赤と黒に包まれ、かろうじて見える左目も今は前髪でほぼ隠されている。


「かっこいいだろ?」


 そう言ってくるっと回ってみせたが、


「なんなんです、なんなんですか、一体!」


 ミーヤが憤慨して、それでも声を潜めながらそう言った。


「戻った途端に怒られたなあ」


 うれしそうに言うその声、間違いなくトーヤだ。


「あなたという方はいつもいつも」

「いや、悪かった」


 そう言いながらまず黒い鉢巻のような布を、それから顔の下半分を覆い隠している革と金属でできた仮面を外してみせた。


「な、そうだったろ?」


 ミーヤは丸く見開いた目でトーヤをじっと見た。


「戻ってきたんですね」

「ああ」

「八年ぶりですね」

「そうだな」

「それにしても……」


 じっとトーヤを見て、


「本当に、なんなんですかその格好は」

「これな、顔をケガしてるってことなんで、隠すためだよ」

「え、それじゃあ」

「ああ、包帯からこれに変えた」


 では、あの時廊下ですれ違った包帯に巻かれたケガをした男は……


「あの時、廊下ですれ違いましたよね」

「だな」

「あれから何日経ちます?」

「えっと何日だ?」

「その間ずっと黙ってたんですね」

「あー」


 仮面を外して「緋色の戦士」ではなくなった男が、申し訳無さそうにぽりぽりと頭をかく。


「すまん」


 ぺこっと頭を下げた。


 ずるい人だ、そうして素直に謝られたら何も言えなくなるでしょう。

 ミーヤはそう思いながら、怒った顔のまま黙って男を睨みつけた。


「あー」


 もう一度そう言ってからトーヤは、


「この部屋、まだ俺の部屋なのかな?」


 そう聞いた。


「そうです。マユリアの命で月虹兵のあなたがいつ戻ってもいいように、と手入れはしてあります」

「そうか。そんで、隣の部屋はどうなってる?」

「ダルの部屋のままですよ」


 その言葉に、トーヤがピクッと顔を少しひきつらせた。


「ダルって……」

「どうかしましたか?」

「いや、前はダルさんって呼んでたのになって……」

「ああ」

 

 ミーヤが合点がいったといった風に頷く。


「八年も経ってるんですよ? 人と人との距離や関係が変われば、呼び方も変わって当然でしょう?」

「え、関係?」


 その言葉にトーヤが固まると、その後ろから女性の声がした。


「え、距離や関係が変わるって、それ、ミーヤさんダルとできちゃったってこと?」

「え?」

 

 驚いてトーヤの後ろの人を見ると、思った通りさっき話していた中の国の侍女だが、その口調は全く違う。


 手にはテーブルの上に置いてあったはずの木の菓子皿を持っている。

 さっきの音はこれでトーヤを叩いた音だったようだ。


「あの……」


 ミーヤが戸惑った顔で伺うように見ると、侍女が「あ!」という顔になった。


「あーすみません、おれ、ベルって言います。本当は奥様の侍女じゃないです、ごめんなさい」

「え……」


 ミーヤは少しばかり考えてから、


「あの、侍女じゃないって、じゃあ」

「あ、おれ、三年前からトーヤと一緒に暮らしてます」

「え?」

「おい!」


 トーヤが驚いて声をあげる。


「そうなのですか」


 そう言ってミーヤがにっこり、と満面の笑みを浮かべた。


「え!」

 

  その笑顔を見てベルが思わず固まる。


(な、なんなんだ、笑ってるのになんかこの人めちゃくちゃこええ……)

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