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18 今どこに

「どうぞもっと気楽に。あなたの娘のリルには本当にお世話になりました」

「は、はい!」


 リルの名を出され、余計に元気よくなってしまったアロに、マユリアもラーラ様も、そして小さなシャンタルも微笑ましく笑ってしまった。


「お元気な方ですね」

 

 小さなシャンタルに可愛らしく笑いながらそう言われ、ついにアロは感激で涙ぐむ。


 おそらく、これがこの国の国民ならば当然の反応なのだろう。


「このアロ、これほどの栄誉を感じたことはこの人生でございません。シャンタルに、このように親しくお声をかけていただけるなど……マユリアにも……」

 

 ついにその目からポロポロと涙が溢れる。


「あの、これを」


 ベルがそっとハンカチを差し出した。


「すみません」


 受け取ったハンカチで涙を拭きながら、


「これは、この意匠は」

「ええ、あの島のものです。奥様から船の方みなさまにお配りになられたものです」

「なんと……」


 涙を止めるどころかかえって溢れさせてしまった。


「アロ様」


 ベルがそっと声をかける。


「どうぞ涙を止めて、笑顔でお茶をいただきませんか? せっかくの席ですもの」

「ええ、ええ、ええ……」


 必死で涙を止めようとするアロを見て、ベルは心の中では、


(ほんっとに困ったおっさんだよ、はよ泣きやめって、ほら)


 と、突っ込みを入れてはいたが、それでも、感激の涙をあふれさせるアロを見て、なんとなく羨ましくも感じていた。


 アロがようやくしゃくりあげながらも泣き止むと、じっとその様を笑顔で見つめていたマユリアが、今度は緋色と黒に包まれた男に目をやった。


「ルーク殿ですね。今日は体調はいかがでしょう?」


 そう声をかけると「ルーク」は、軽く会釈をし、大丈夫だというように何回か頷いてみせた。


「まだお声が」

「はい」


 代わりにアランが答える。


「少しばかりは出ることは出るのですが、あまり出さぬ方がよいので失礼をいたします」

「分かりました。辛くなったらいつでも遠慮なく言って下さい。休む場所もございますし」

「ありがとうございます」


 そうしてまた前回と同じく和やかにお茶会は始まった。

 

 今回が前回とちょっと違うのは、お茶会が始まる前にベルがシャンタルにエリス様からの衣装を着付け、その姿でお茶に参加したことである


「シャンタル、大丈夫ですか? こぼして汚したりなさいませんか?」


 心配そうに言うラーラ様に小さなシャンタルが、


「気をつけます」


 そう言って、うれしそうに衣装をシャラシャラと揺らして見せる。


「本当にあまり暑くはないんですね。薄くて軽い生地だからかしら」


 自分もエリス様のように頭から絹のベールをかぶり、不思議そうにそう言う。


「お可愛らしいです」


 ベルがニコニコしてそう言う。


「ありがとう」


 ベールをめくり、満面の笑みをにっこり浮かべる小さなシャンタルは本当に愛らしかった。


 今回の話の中心はアロであった。

 以前、トーヤたちと話した時のように、「アルディナの神域」へ行った時の話を面白おかしく話す。


「リルはお話上手でしたが、それはお父様に似たのですね」

「ありがとうございます!」


 マユリアやシャンタルに声をかけられる度、飛び上がるように喜びを表現するアロに、みなもつられたように笑う。


「これからはもっと2つの神域の行き来が盛んになりますよ。そのための一端を担えたことを大変誇りに思っております。そして、そう思い立てたのはこの宮におられたトーヤ殿のおかげです」


 そう言って、トーヤと話したことを懐かしそうに話す。


「そうだったのですか」

「はい、こういうものは誰か勇気のある者が名乗りを上げないと、それにはオーサ商会がとてもふさわしい、そう言われてすっかり乗せられてしまいましたが、今となっては乗ってよかったと思っております」


 アロは一休みするようにお茶を口にする。


「トーヤ殿が、途中に立ち寄れる島でもあれば補給もできるし、一月以上もずっと海の上と言われるより、もっと海を渡ろうという人も増えるのではないか、そうおっしゃったのです。それで、他の方にも意見を伺おうと、あちらから来られた船の方で経験のある方の意見を、そう思って話を伺ったのが、そこのディレン殿というわけです」

「まあ、そのようなご関係だったのですね」

「そうなのです。そこから今回のエリス様ご一行のこともお引き受けし、ふつつかながらもお助けしたいと思いまして、ご無理をお願いしたというわけです」


 アロが神妙な顔で頷きながらそう言う。


「では、エリス様が今ここにいらっしゃるのはトーヤがいたから、ということにもなりますね」

「ええ、そうなりますな」


 マユリアの言葉にアロが同意する。


「マユリア、トーヤってどなた?」


 シャンタルが不思議そうに尋ねる。


「『月虹兵』の最初の2名のお一人ですよ」

「ああ」


 言われてシャンタルも思い当たったようだ。


「そういえばダルとトーヤでしたよね、最初のお二人」

「ええ、そうです」

「でもわたくしはお会いしたことがありません、どこにいらっしゃるのですか?」

「トーヤは」


 マユリアが少し考えるようにして言う。


「宮のお役目で少し遠いところに行っているのですよ。でもおそらく、もうすぐ戻ると思いますよ」

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