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11 架空の暗殺者

 楽しいお茶会の時間は続いたが、


「シャンタル、そろそろお昼寝の時間になりますよ」


 ラーラ様にそう言われて、小さなシャンタルが残念そうに、


「とても楽しかったです。よかったらまたお話してくださいね」


 そう言うのに、


「はい、必ず。そしてエリス様からお衣装をお届けいたします」


 とベルが言うと、


「きっとね、きっと」


 そうして、名残惜しそうにラーラ様と共に寝室へと入っていった。




「とてもおかわいらしいお方ですね」


 ベルの言葉にマユリアが満開の花のようににっこりと笑った。


「ええ、そしてとても大事な方なのです」


 しばらく一緒に話をしていた間にその美貌に慣れたと思っていたが、天上の笑みに、またベルがどぎまぎとする。


「それで、シャンタルがいらっしゃる間にはお聞きできなかったことをお話していただきたいのです」


 微笑みを、少しだけ固い表情にしてマユリアが切り出した。


「なんでしょうか」


 アランが真面目な顔で答える。




『きっと色々知りたいことがあるだろう。お茶会は口実だ。何を聞きたいか分からんが、とにかく切り抜けてくれ、おまえらを信用してる』




「襲われたとのことですが、そのことを少しお聞きしたいのです」

「はい」


 やはりその話か、そうなるだろうと予測はしていた。 

 アランが取りまとめてその時の状態を話した。


「何しろ住まいを替えてすぐだったので、まさかと驚きました」

「私も話を聞いて驚いて飛んでいったんですが、まさか引っ越したその夜にそんなことになるとは思わなかったです」


 ディレンも一緒に説明をする。


「それで、ケガをなさった方、ルーク殿のケガの具合はどのような感じなのです?」

「はい、顔はこう」


 と、アランが目のあたりから口元までスッと一本、線を引いてみせる。


「切られていまして、右目がどうなるのかちょっと分かりません」

「まあ……」


 マユリアが絶句する。


「口はそれでも、ただ切れているだけなのですが、話せないのは他に理由があります」

「他の理由とは?」

「実は、毒霧のせいで喉をやられました」

「毒霧?」


 マユリアが不吉なものを見たような顔になる。


「ええ。毒液を細かい霧のような状態にして相手に吹きかけるのです。エリス様に向かって吹きかけたので、ルークがそれから守ろうとして自分が少し吸い込んでしまいました」

「そんな恐ろしいことが……」

「ええ。もしもエリス様が直接吸い込んでいたら、お命はなかったでしょう。」


 実際に暗殺者にそのような攻撃をする者はいる。今回はその逸話を拝借した。


「それで、ルーク殿は大丈夫なのですか?」

「幸い、その正体に気づいてほとんど吸い込むことはなかったもので、命には別状ないんですが、しばらく声が出せないかも知れません」

「恐ろしいことです……」


 マユリアが目をつぶり、少し下を向いた。

 その仕草すら絵にとどめておきたいほど美しい。

 

 アランは遠のきそうになる意識を必死で引き戻し、話を続けた。


「俺だったら間に合ったかどうか分かりませんが、何しろ腕の立つやつなので、そういうことができたわけです。そんなヤツが身を挺して守ったおかげでエリス様はなんとかご無事だった、そういう感じです」


 架空の襲撃話を、なんとか「ルーク」の包帯の状態とおかしなところがないように、との苦肉の策である。

 だが、そんな話を真剣に聞いて、そして感じ入ってくれているマユリアに、それはもうアランは深く深く申し訳なく思った。


(すみません、ですが今はまだ何も話せないんですよ)


 ディレンもアランのそんな気持ちを汲み取ったのか、軽くアランの肩に手を置いて頷く。


「それで、これはもう普通の場所にいてはお守りするのは無理だ、という話になりまして、ディレンさんに相談をしたというわけです」

「ええ、それでオーサ商会のアロさんに無理を言って、なんとか宮で守っていただけないかと話を持ちかけ、おかげで保護していただけました。ありがとうございます」


 ディレンが頭を下げ、アランとベルも後を追って頭を下げる。


「なぜ、そこまでしてお命を狙われるのでしょう」


 マユリアが当然の質問をしてくる。


「それは、お国の事情でして……」


 アランが口ごもる。


「本当なら、どこのどういう方かさすがにあの、マユリア、やシャンタルには申し上げないといけないのでしょうが、その、色々と難しい問題がありまして……」


 さすがにマユリアの名を口にするのに少し躊躇(ちゅうちょ)した。


 その様子を見てマユリアが軽く笑う。


 やはり天上の美だと、こんな状況でも思わずアランがうっとりとした目で女神に見惚れる。


「そのあたりについてはお聞きいたしません」


 そんなアランにますます優しい瞳を向けるので罪なことだ。


「おそらく、そのためにキリエは自分一人の責任であなた方を引き受けることにしたのでしょう。実直な侍女頭の思いに報いるためにも、そこはこう」


 と、優雅に右手の人差指を唇に当てる。


 ほおっと、アランとディレン、そしてベルも甘い息を吐いた。


「で、よろしいでしょ?」


 そう言って、いたずらっぽくクスクスとマユリアが笑う。


 その姿の香り立つような優美さ。

 魅了された3人は言葉もなく頷いていた。

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