2.買い物
3体の魔物はピクリとも微かな動きを見せる気配がなかった。羽虫が人間の手に叩きのめされたかのように容易く、一瞬で決まった。この様で無言で眺めるライデス。そしてジェリー・ウマーノ。おいおいそんな実力なのか?と呆気取られている。フチメイの耳障りな叫び声を発する。
「こ…こんなの何かの間違いに決まってるわ!何か卑怯な手を使っているに違いないわ!」
そして魔物達にも目を向ける。
「この恥知らず!あなた達に1000枚分も払って落札したのよ!どうよ!悪い冗談はよしなさいよ!」
詐欺被害に遭ってしまったのだとそう自覚している。それを穴に埋めようと怒号とやら必死で急いている。オークションのクリーンオフは6時間以内だ。もう何をしても遅いがな。
「この女もアートにしようかしら」
「止めろチェリー。今回は魔物同士のみだから」
「ああそう」
と口を零したジェリー・ウマーノは路上へと繋ぐ通路へ向かい始めた。その後をライデスはフチメイの存在を置いて追うのだった。この時のフチメイは魔物を壁から剥がすのを必死で引くのであった。
「逃げるわよ!早く復帰するのよ!」
今日のライデス達は野菜を売りに来たのではなく、逆に種を買いに訪れていた。カボチャ。ニンジン。タマネギ。と数々の名を数えて買い集めた。
ライデスは自分がこれにしようと思った品を目にして買う。ジェリー・ウマーノは全く選ぼうともしない。植物系というのは何でも食べるそうだ。米なども食べる。だがタンパク質は嫌う。
理由は脂っこい味だからと。
餌代も馬鹿にならないな。まして人間と一緒にいるような物だ。俺は…1人での生活には耐え難くなってきた。まあ人間みたいだから。俺は25になるが女との同居歴0、独身だった。
この魔物の生態なども可愛いだけかと思っていた。だが購入した後の性格がガタリと一変してしまった。俺にウィンクしていたのも誘っていたんだ。この野郎め。
それにオークション時には詳細な生態などの説明がなかった。“どこから来たのか生態も分からない正体不明の魔物”と主催者の語っていた記憶が蘇生する。自らの身をオークションの品に渡したんだと。だから他の魔物みたいに檻に囲まれていなかった。
「人間様に舐めてるんだな」
フーッを鼻を吹かすライデスだった。ジェリー・ウマーノはチッチッと差し指を振って否定する。
「舐めちゃいないわ~よ。見切ってるんのよ。人の心の弱さを」
「ほー。人間と同じの心持ちの魔物か」
「そうよ。私だって実はね~」
それだけで内容が途切れてしまい、ジェリー・ウマーノは腰をくねらせて振るうのだった。
「あ~あ。服が欲しい~」
「新しいのか?チェリー。それも服だろ」
チェリー。ジェリー・ウマーノに対しての呼び名だった。
ライデスの見る限りではブラジャーのようなインナーにフリル付きの透けたドレスを着こなしている。胴体や脚などの身が露出度が高めだった。
「服。そうだよ。ゼリー状のね」
そう示す為、ジェリー・ウマーノはドレスをゴムみたいに伸ばすのであった。
「色の変化もない。腐ってもない。でも一着だけじゃあ物足りなくなっちゃったのよ」
一着だけ。と乞いの口をライデスにかけるジェリー・ウマーノだった。ウームと困り果てたライデスは頭をポリポリとかいた。
正直貧乏なんだがな…服は1着だけじゃないがな。俺の方がより服を持っているから、拒否したらしつこく問い詰めてくるだろうな。仕方ないと一思いに意識を振った。
「いいだろう」
懐中から金貨5枚取り出した。
「1着だけだぞ」
わあ-と丸い口を開けるジェリー・ウマーノ。機嫌を上げた顔がライデスはそれを見ていた。まるで幼女みたいだと。
ただジェリー・ウマーノは金よりも、金を授けた側をじっと見つめていた。
何か言い出そうしていたのか。…いや…魔物が謝意込める訳ないか。動物は恩知らずだからな。
ジェリー・ウマーノは早速と服屋を探しにライデスから離れ去ったのであった。