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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
趙の両虎
9/52

3

 しかし、予想していた藺相如は慌てず、僅かな手勢ではあったが、恵文王を逃がせるように布陣した。

 暫く秦軍を注意深く観察したが、変わった動きをみせることもなかった。

 そして、会見は何事もなく終わり、危惧していたようなことは何もなかった。


 安心したのか恵文王は、緊張が少し解けた様子で藺相如に微笑みかける。

 だが、藺相如は厳しい表情を変えず、祝宴の準備が進んでいくのを鋭く見ていた。


 そのまま会見は祝宴となって、酒食を楽しみながら昭襄王は上機嫌であった。

 恵文王に酒をすすめながら声を掛けた。


「趙王は音楽が好きだと聞いているが、両国の友好を祝って、(しつ)(楽器)を演奏していただきたい」


(無礼な。一国の王に楽人の真似をさせるのか)


 恵文王は内心で憤ったが、友好の為とあって表情を殺して演奏した。

 すると秦の御史(ぎょし)(記録官)が進み出た。


「趙王、会飲の場にて秦王に瑟を奏する」


 高らかに告げて、筆記したのだ。


 趙王はさすがに顔を顰めた。

 このことが秦の国史に記録されたということは、永遠に歴史に残るのである。

 史書を読めば、まるで属国の王が、秦王の機嫌をとったとしか思えないだろう。


 この様子をみた藺相如は、酒瓶(かめ)を持ち、昭襄王の前に進んだ。


「秦では、瓶を叩いて唱和すると聞いております。是非とも両国の友好を祝って、大王に叩いて頂きたい」


 昭襄王はこれを聞き、不機嫌な顔を隠さずに藺相如を睨んだ。


(それは秦でも王侯のするようなことではない、ましてや他国の家臣が命ずるとは)


 口にはしなかったが、昭襄王は怒りで目が眩みそうであった。

 だが、藺相如は更に近寄る。


「大王との距離はわずかに五歩しかありません。我が頸血を注ぎましょうや」


 自ら首を()ね、血潮を浴びせることで、昭襄王の無礼を批難するという意味か。

 それとも、昭襄王と共に死ぬということか。

 どちらにせよ命懸けの脅迫である。


 昭襄王の側近が色めきだって騒ぐが、藺相如に大喝され、その迫力にたじろいだ。

 仕方なく昭襄王は苦々しげな顔をしたまま、瓶を一度だけ叩いた。

 すかさず、藺相如は趙の御史を振り返る。


「秦王、友好を祝い趙王のために瓶を叩く」


 藺相如は強く声をあげ、御史に記録させた。

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