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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
荘王
47/52

5

 楚将の潘党は、遥か前方に舞う砂塵に気付くと、顔色を変えて急使を送った。


 早馬により孫叔敖が受けた報せは、晋の援軍の到来であった。

 荘王の孤軍が晋の三軍に攻めたてられる様を想像して、孫叔敖の恐怖は絶頂に達した。


「聞けい。大王は窮地にあるぞ。晋の援軍が現れた。駆けよ駆けよ、大王をお救いいたせ」


 叫ぶ孫叔敖の恐怖が伝わったように楚の全軍が突撃した。




 やがて荀林父が率いる晋軍にも、近づいてくる趙旃たちの兵士が見えた。


 和睦の成立をねぎらいに出てきた荀林父は、呆然とする。


 目を凝らすと、楚の兵馬に追われて退却しているのだ。


 やがて人の形が見えるほどになると、とても退却などといえるものではなく、ただ死の恐怖から逃げているのが分かる。


 予想を外れた事態に、ただ遠望していた荀林父は、さらに驚愕する。


 先立つ楚軍の一団からわずかに遅れて、長大な砂煙があがる。


 その砂煙を従えて、楚の三軍が狂ったように突撃してきたのだ。


 この理解が及ばない光景に、もはや戦うことなど頭になかった荀林父は、退却の命令を出すのみで精一杯であった。


 晋の軍兵も、戦意など置き捨て、我に返ったように退却する。


 だが凄まじい勢いで楚軍が突撃してくると、晋軍は瞬く間に崩壊し、兵士らは我先にと敗走をはじめた。


 もはや軍として機能することはなく、怒号をあげて迫る楚兵から、ひたすら逃げ惑う。


 この恐るべき殺戮の場から一刻も早く去るため、隣の晋兵より駆けることしか出来ない。


 続いて逃げる晋兵らの頭に浮かんだのは、黄河であった。


 荀林父も逃げながら、同じことを考えた。


「最も早く渡河した者に褒美を出す」


 だが、晋の全軍に告げられた、この命令は、さらに事態を悪化させた。


 この布告により、踏み留まろうとしていた将兵も、臆面もなく逃げだし黄河に向かう。


 もはや晋の三軍は、かろうじて士会の率いる上軍が戦っているのみで、中軍と下軍は総崩れであった。

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