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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
荘王
44/52

2

 籠城すること十七日、襄公は攻め寄せる楚軍に耐えられなくなった。


「すぐに和睦を占え」


 この命令に群臣たちも反対しなかった。


 天下に嘲りをうけ、晋から怒りを買うことになろうと、鄭の存亡がかかっている。


 だが、占の結果は凶であった。


 さらに襄公の願いも虚しく抗戦は吉であった。

 祖廟に国の滅亡を哭泣して、楚軍に玉砕せんとすれば吉であるという。


 この占いが国民に伝わると、鄭人は、みな哭泣した。


 和睦の使者が来ることを予想していた荘王は、いつもと違う鄭に異質なものを感じていた。


 やがて城外に布陣した荘王からも、城壁の上で泣き崩れる鄭兵の姿が見えた。


 これを哀れに思った荘王は、考えがまとまらずに軍を退がらせた。


 だが、鄭人が城壁の修繕のはじめたと聞くと、


「覚悟を決めたらしい。晋を後ろ楯に抗戦するようだ」


 そう言って、軍旗を上げさせると再び進軍して、鄭の都を囲んで攻め立てた。


 鄭の防戦は続いた。


 晋に幾度も急使を出して援軍を求めるが、いまだに晋軍は現れない。




 晋は、六卿と呼ばれた豪族たちの勢力が大きく、彼らは互いに反目して、政治はまとまらなかった。

 鄭からの援軍要請も、意見が対立し、紛糾の末にだした結論は非情にも見殺しであった。


 繰り返される背反により、鄭を信用しておらず、今回もすぐに楚に降ると考えたのだ。


 しかし、鄭は滅亡を賭けて戦っていた。

 楚の軍兵に都が囲まれたまま、激しく抵抗する。


 そして、決死の防戦は驚くことに三ヶ月も続いた。

 だが、どれほど懸命に戦っても晋からの援軍はなく、死力を尽くした抵抗もここまでだった。


 城門から、もろ肌を脱いだ襄公が降伏の古式に従い、羊を引いて荘王を迎えた。


「王よ、もはや鄭は違背なく楚に従うでしょう。大徳をもって過ちを赦して頂きたい」


 荘王は、眼前にひれ伏す襄公を見下ろす。

 群臣らは、これまでの鄭の裏切りをあげて、口々に滅ぼすよう進言した。


 荘王は、ゆっくりと襄公に近付くと手をとった。


「鄭君は、よく人にへりくだることが出来る。必ずや疑いなき心で鄭の民を治めるであろう。どうして、その祭祀を絶やすことができようか」


 そう言うと、荘王は自ら旗をかかげた。


 これ以上、襄公に恥辱を与えぬように、軍を指揮すると三十里退がらせたのだった。

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