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荘王は闇のなか、次々と纓のちぎられるのを感じると、蝋燭に火を灯させた。
蝋燭が灯り正殿が明るくなると、荘王は纓の切れた群臣たちを見回し、満足そうにうなずくと改めて宴を再開させた。
妻女よりも士を尊ぶという荘王の言葉に、感動した群臣たちは心置きなく酒宴を楽しみ、朝まで賑やかに歓を尽くすであった。
この酒宴ののち楚が、大国である晋と戦った時のことである。
戦が始まるや、一人の楚兵が常に楚軍の先頭に立って果敢に突撃していく。
先頭に立つ楚兵は、五度戦って、五度とも敵将を討ちとるという、凄まじい活躍であった。
この勇士のおかげもあり、勇躍した楚軍が晋軍を退けると、早速に荘王は彼を呼んだ。
「今日は素晴らしい働きであった。そちの活躍で晋軍に勝利できた。感謝する」
称賛の言葉をかけて兵士をまじまじと見たが、記憶を辿っても何者か思い出さない。
釈然としない荘王は、ひざまずく兵士に訊ねた。
「私の薄徳のゆえに、そなたのような勇者を思い出せぬ。これまで優遇した覚えもなく、何故に死を恐れず、これ程までに戦ってくれたのだ」
兵士は顔を伏せて答える。
「臣はすでに大王に恩を受けております。かつて酒宴のときに、お后様に纓を引きちぎられた無礼者であります。あの時、大王の隠忍により臣は誅殺されませんでした。臣はその時から、命を懸けて大恩に報いる日を待ちわびておりました」
そう言って、地を打たんばかりに激しく頭を下げた。
疑問の解けた荘王は、この勇者の武勲を声高く讃えると、全軍をあげて戦勝を祝った。




