絶纓の会
内政に軍事にと目覚ましい活躍を見せる群臣を集め、荘王はその働きに感謝して盛大な酒宴を開いた。
「諸将に集まってもらったのは、日頃の労をねぎらうためだ。今宵は政務や戦を忘れて、酒を呑み大いに楽しんでくれ」
楽人たちに演奏させ、後宮からも従女たちを呼び寄せると、諸将の酒食の相手をさせた。
始めは、みな遠慮がちだったが、荘王から酒を賜ると宴は徐々に盛り上がった。
若劫氏を初めとした内戦のあとも、鄭や陳、群舒などを攻めて、みな一様に休む暇もなく、今宵の荘王の心尽くしに感謝しながら宴を楽しんだ。
豪華な料理と酒が次々に運ばれ、美女の酌に酔っ払った者たちが、笑い合って賑やかに騒ぎたてる。
その様子を見た荘王も、后の樊姫と満足そうに微笑むのだった。
だが、宴もたけなわという頃、強く風が吹くと蝋燭の灯が全て消え、正殿は真っ暗になってしまった。
このことに慌てる者はなく、諸将は火が灯されるのを待ちきれぬと言って、淡い月明かりを頼りに愉しげに酒を楽しんでいた。
しかし、樊姫のこの場に不釣り合いな叫び声が聞こえるや、正殿は何事かと静まりかえった。
暗闇に樊姫の声が響く。
「先ほど、私の召し物に触れた無礼者がいます。この暗闇で何者かわかりませんでしたが、その者の冠の纓(紐の結び目)を引きちぎりました。明るくなり、下劣なる者がわかれば厳しく罰して下さい」
后に不埒な行いをしたなら、さすがに酔っていたからでは済まない。
荘王は樊姫の話を聞くと、蝋燭に火を灯すことを禁じてから言った。
「諸将に酒を振る舞い、酔わせて礼を失わせたのは私だ。妻妾の貞節を明らかにするために、士に恥辱を与えることなどできようか」
そして、暗闇のなか左右に控えるであろう側近に命じて、大音声で群臣たちに伝えた。
「今宵の宴で冠の纓を引きちぎらぬ者は、王は喜ばぬとの仰せである」
これを聞いた群臣たちは、一斉に自らの纓をちぎる。




