3
子越の強弓より放たれた矢は、荘王の前に据えられた台座の鑼に突き刺さる。
荘王の窮地をみた側近の兵士たちは、慌てて子越を阻むように厚く守った。
だが、子越から放たれた次の一矢は守る兵士の隙間を縫って、荘王を僅かに掠め車蓋を突き抜けた。
この矢は、かろうじて崩れずに戦っていた荘王の軍には決定的だった。
恐怖にかられ全線に渡って退却をはじめた。
「文王が息を攻めて手に入れた三矢を伯(子越)は二矢盗んだが、すでに矢は尽きた」
荘王は退却する自軍の兵士に、あらん限りの大声で叫ぶや、鼓を激しくならして進軍する。
子越の矢は尽きた、という声が聞こえるや退き足を止めて、荘王と共に全軍が再び盛り返す。
長駆の突撃で疲れを感じていた子越の軍は、思いがけず立場を逆転され、いたるところで突き崩されると、一歩、また一歩と退き、遂に壊走をはじめた。
子越は退却する兵を狂ったように斬り捨て、崩れる自軍を立て直さんとする。
「退けば斬る! 返さんか」
そう叫びながらも、退く兵の波に呑まれていく。
結局、子越の軍はこのまま崩れ、ついに乱戦のなかで子越は矢を受けて死んだ。
荘王はこの勢いのまま領内を転戦し、楚において最大の豪族である若敖氏、そして闘氏、成氏を滅ぼして内憂を一掃した。
この戦いにより、王権を確立した荘王は、さらに軍備を充実させ、溢れる野心を実現すべく中原の覇者を目指すのであった。




