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荘王は爲賈を殺されたにもかかわらず、勝敗の明らかでない戦いに踏み切れない。
(若敖一族を滅ばさんと性急にすぎたか。いま暫く待たねばならんようだ)
荘王は和を結ぶべく、再び使者を向かわせる。
子越に会った使者は、荘王が和睦を望んでいることを伝える。
「敵対する意思のない証として大王は、文王、成王、穆王の公子を人質として送ります。
若敖氏には以前と変わらずに楚を支えて頂きたいと強く願っております」
子越の苛立ちは増した。
(見え透いている。立ち上がらぬよう我が一族の力を削り、再び滅ばす機会を狙うつもりであろう。ここまで来ては、元には戻れんことはわかっていよう)
子越の荘王への返事は否であった。
荘王も覚悟した。
もはや決戦あるのみである。
荘王は全軍に戦うことを布告して軍を動かす。
復讐に燃え、一族の存亡を賭ける子越も軍を進め、両軍は皇滸で対峙した。
子越は、豺狼の如くと言われた声で絶叫した。
「この楚は我が若劫一族のものぞ。あの愚かな王を蹴散らせい」
激しく鑼と太鼓が打ち鳴らされて、子越の戦車を囲むように全軍が突撃していく。
凄まじい勢いの子越の軍に荘王の軍は、出鼻を挫かれ守勢となった。
子越は車上から叫びたて、楔のように荘王の軍を割って進む。
荘王の軍からも武勇に自信ある者が次々と、子越の戦車を目指して殺到する。
しかし猛る子越を止めることすら出来ない。
「我が一族に逆らう愚か者共が、まとめて踏み潰してくれるわ」
血にまみれた子越は、さらに勢いを増し、車右と共に群がる兵を打ち払いつつ進んでいく。
荘王は崩れそうな自軍を必死でまとめていたが、それでも敵軍に押されて次第に兵が退いていった。
子越は荘王を見据えてさらに勢いのまま突き進む。
猛進するや、ついに荘王を射程に捉えた。
「覚悟せよ」
悪鬼のような笑みを浮かべると、子越は憎悪を込めて弓を射た。




