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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
荘王
34/52

泣かず飛ばず

 楚の王として即位して間もなく、荘王(熊旅)はさらわれた。


 そのいきさつは、令尹(れいいん)(宰相)の子孔が、軍を率いて国を空けたのがきっかけであった。

 国に残った公子(しょう)が、子儀(しぎ)と謀って城に立て籠ったのである。

 そして、遠征先の子孔を亡き者にしようと画策したが、子孔は無事に軍を率いて戻って来た。


 こうなっては勝目はないと、慌てて逃げることにしたが、そのついでといった感じで荘王をさらったのだ。

 逃走を謀ったふたりだったが、やがて盧の町で殺され、連れまわされた荘王はようやく解放された。


 信じられぬことに荘王の王としての歴史は、誘拐されたことから始まったのである。



 楚は王族によって殆どの要職が占められていた。

 つまり、王家の血族である重臣たちの力が強く、なかでも若劫(じゃくごう)氏などは王室と変わらない力を持ち、王であっても機嫌を損ねるのは危険であった。


 荘王は聡明であったが、我が身がさらわれたことで、かろうじて玉座にある自らの危うさを痛感した。


 無事に首都の郢へ戻った荘王は、驚くべき布令を発した。


「一切の諫言を禁ず。反する者は死罪とする」


 意見すれば殺すという、荘王の無茶な宣言は本気であった。

 左右に抜き身の剣を持った執行人を侍らせたのだ。

 群臣は一様に戸惑ったが、死罪とあっては意見は出来ない。


 荘王は誰からも異論が出ないのを確認すると、なんと遊興を始めたのだった。

 宴会は連日続いた。

 楽人たちに演奏させ、多数の侍女をはべらせた荘王は浴びるが如く酒を呑む。

 さらに宴席に群臣らも招き、美女をつけて、歌舞音玉を共に楽しんだ。


 荘王は政務をとることなく、宴会は、来る日も来る日も終わることなく続いた。

 宮殿は酒席の場となり、賎臣たちの楽園となった。

 心ある者は呆れたが、苦言を呈すれば殺されるとあっては眺めているしかなかった。


 当然の如く楚国の腐敗は進み、国力は凄まじい勢いで衰える。


 この先の見えぬ淫蕩三昧は、数ヵ月どころか、信じられないことに三年も続いた。


 賢臣、良臣たちは、このような荘王のもとでも政務を続けていたが、もはや離反寸前であった。

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