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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
趙の両虎
3/52

3

 噂すら耳にしたことない男の名に、恵文王は首を捻って尋ねる。


「はて、藺相如とは聞かぬ名であるが、その男は如何なる者か」


「かつて、臣が愚かにも罪を犯したことを、王は憶えておいででしょうか」


 と、繆賢が問い返した。

 記憶にあった恵文王が頷くと、藺相如を知った出来事を話はじめた。




 それは、繆賢が過ちを犯した時のことである。

 繆賢は罰を恐れて、(えん)に亡命しようとしていた。

 それを知り、藺相如が尋ねた。


「主は燕国に知人がおられるのですか?」


「以前に我が君と同行して燕国へ行った。その時に厚遇されたのだ。更には燕王にまで親交を求められたのだ」


 藺相如は、悲しげに首を横に振った。


「燕は強国である趙を恐れ、趙王の寵臣である主を厚遇したのです。もし、このまま燕に行けば、趙王の機嫌を損なわないように捕えられ、送り返されるでしょう」


「ううむ。まったくその通りだ。では、何か良い策はないだろうか」


 藺相如は厳しい顔で見つめた。


「いえ、策は不要です。肌脱ぎし、斧を首に乗せて趙王に謁見するのです。そして、趙王に全てを告げて、赦しを乞うのです」


 この先は恵文王にも覚えがあった。

 繆賢は、藺相如の意見に従ったのだ。


「王に罪を告げ、赦していただきました。今の臣が変わらず王のもとにあるのは、藺相如のおかげなのです」


 そう言って話を終えた繆賢は、藺相如を知勇の士であると信じて疑わない様子であった。




 話を聞いた恵文王は、すぐに藺相如を召し出した。

 だが、引見してみると、藺相如は身分の(いや)しさもあってか、みすぼらしい男であった。

 勇があるようにも思えず、繊細で優しそうな印象である。

 しかし、落胆を表情に見せることなく、藺相如に意見を求めた。


「秦より、十五城と和氏の璧の交換を求められた。予は璧を与えるがよいか、どう考える」


「秦国は強大であり、その申し出を拒むことは出来ません。いかに天下の至宝であろうと、和氏の璧は与えるべきでしょう」


 さも当然だとばかりに意見を述べる藺相如に、恵文王は続けて問い掛ける。


「されば、璧を与えたのちに、秦国の十五城が譲られぬとあればどうする」


「秦王が欺けば、秦の非道を天下が知ることになりましょう。我が趙は、天下に信義を示しましょう」


 恵文王は値踏みするように、藺相如を窺いながら声をあげた。


「だが、使者となる者がおらんのだ」


 藺相如は気負った様子もなく答える。


「ならば、私が使者となりましょう。璧を持って秦国へ向かい、十五城が譲られたなら秦王に璧を贈りましょう」


 恵文王の疑問の顔に、穏やかな笑みで言葉を続ける。


「秦王が不義を為して、十五城が趙国のものとならないなら、璧を(まっとう)いたします」

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