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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
趙の両虎
26/52

2

 秦は白起の亡きあとも、王翦(おうせん)や王賁などの良将によって、幾度も趙を侵した。


 防戦のみで懸命な趙にとっては、廉頗は大きな支えだった。

 翌年、廉頗は再び、楽乗と軍を率いて燕を囲む。

 この時は燕が礼を尽くしたことにより、講和して引き上げた。


 この五年後には、魏への討伐を命じられるや、繁陽を陥落させ、勢いのままに侵攻を続けた。


 だが、趙では孝成王が亡くなり、悼襄王が即位した。

 この訃報と共に、魏を攻略中の廉頗に楽乗との交替が命じられた。

 しかし、廉頗は老いても激情の人であった。


(孝成王が亡くなるや、ただちに交替を命じられるなど、楽乗の奸計によるものであろう)


 交替する為にやって来た楽乗の軍を、怒りのままに攻撃したのだ。

 楽乗の軍を敗走させた廉頗は、趙へ戻ることなく、そのまま魏へと亡命してしまった。

 しかし、魏王は信用することなく、亡命した廉頗を冷遇した。

 廉頗は趙での武勲に輝いた日々を思い出しては、浅はかな自分に苦悶した。




 廉頗が出奔したあとも、趙は変わらず秦軍に苦しめられたが、それは他国も同じであった。


 秦の侵攻をうけた魏では、悼襄王に近い郭開に黄金三千斤を贈り、魏の三城を譲ることを話して趙軍の助力を求めた。

 賄賂を受けた郭開は、魏の割城を受けるよう熱心に悼襄王を説き落とし、魏に五万の援軍を向かわせることに成功する。


 しかし、五万の趙軍は、王翦の指揮する秦軍によって散々に敗れるのである。

 またも秦軍による敗報が趙に届くと、悼襄王は群臣を集めた。


「秦の無法より趙を守る策を諸臣で評議せよ」


 秦の圧倒的な軍事力に絶望しているのか、悼襄王は愁いに沈んだ顔であった。


「昔、廉将軍が趙にあるときは秦兵を御することが出来ました。いま趙に良将はなく、廉将軍は魏にあります。どうしてこれを召さないのですか」


 群臣は口々に廉頗の名をあげて、思い出すままに過去の武功を数える。

 悼襄王としても以前から廉頗を呼び戻したかったこともあり、すんなりと群臣の意見をいれた。


 評議が決まったところで、郭開が進み出た。

 先の敗戦の原因をつくった郭開だが、何事もなかったのように異を提した。


「廉頗殿は、すでに齢七十であります。軍旅に耐えられるかどうか…。まず使者を遣わして、確認するのが宜しいでしょう」


 悼襄王は、郭開の意見を尤もだと思い、呼び戻す前に使者を出すことにした。


 しかし、廉頗と郭開は犬猿の仲であった。


 使者に黄金を与えた郭開は、廉頗を誹謗するように言い含めて送り出したのである。

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