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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
趙の両虎
16/52

4

 やがて、秦軍から放たれた間者が、土城を守るのみで動かぬ趙軍にまぎれ込んだ。

 趙奢は、これを知ると、間者を捕らえることもなく、食事を与えてもてなし、送り返したのである。


 間者は、この趙軍のようすを秦の陣営に復命した。

 秦の将軍たちは報告を聞くと笑みを浮かべる。


「そもそも邯鄲を去ること三十里で軍は動かず、ただ防塁を増すのみとは。もはや、閼与は趙の地にあらず」


 秦軍が趙の領内深くまで侵攻して、首都の邯鄲を衝かれることをのみを恐れ、その備えをしていると想像したのだ。

 軍議を開くまでもなく、秦将たちの意見は同じであった。



 復命をうけた秦将たちが喜んでいた頃、趙奢は走っていた。

 間者を送り出すと、すぐに軍令を発した。


(よろい)を巻き、ひたすらに駆けよ」


 趙軍の全兵士は、甲冑をまきおさめ、身軽になると黙り走る。

 秦の陣を避け、走り通しであった。

 やがて、閼与から五十里の地に布陣したが、そこまで、わずか二日と一夜で辿り着いた。


 凄まじい速さである。


 そして堅く陣地を築くと、弓術にすぐれた兵を集めて防塁にこめた。

 秦軍は、これを知ると全軍で襲来する。


 趙の軍士である許歴が、軍事について諫めたいと願い出ると、趙奢は呼び入れた。


「秦軍は、まさか趙の全軍がこの地にあるとは思っていません。ですから攻める意気は盛んでありましょう」


 許歴は反応のない趙奢にたじろいだが、一気に言いきる。


「将軍は、軍陣を厚く、兵士を結集してお待ち下さい。さもなくば敗れるでしょう」


 許歴の献言を、黙って聞いていた趙奢は、冷たく答える。


「軍事について諫める者は、死罪にすると申しつけた。そなたは軍令に従うべきなのだぞ」


「どうか、死罪としてください」


「のちの命令を待つがよい」


 趙奢は表情なく声をあげ、決死の覚悟で青ざめている許歴を退出させた。

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