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このやり取りが、密やかな噂となる。
その噂は、ついに廉頗の耳にも届いた。
藺相如と従者の話を聞いた廉頗は、足下が揺らぐような衝撃を受けた。
(国に尽くすを忘れ、自らの名誉のために席次を争うなど、なんと愚かであったか)
客に介添えを頼むと、懺愧にたえぬ思いで、藺相如の家の門前に駆ける。
肌を出して荊の笞を背負い、大声で叫んだ。
「この鄙賎なる者は、あなたの寛大なる、お心を知りませんでした。」
そして、這いつくばるかの如くに頭を下げる。
謝罪の叫びを聞き、家から出てきた藺相如は、肉袒負荊(当時の謝罪)して地面に頭をつけた廉頗を見る。
「廉将軍よくぞ、いらしてくれました」
声を掛けて、うずくまる廉頗に近づくと、笞を払い、手をとって門内へと招きいれる。
藺家に入るや、そのまま二人は国家について語り合い、互いを知るのである。
藺相如と歓談して間近で知ることにより、その高潔さが分かった廉頗は感動した。
「相如殿のためならば我が頸(首)を刎ねられても、かまいませぬ」
心の震えるままに藺相如に声をあげた。
「私も廉将軍のためなら、頸を刎ねられようと悔いることはありません」
柔らかく微笑んだ藺相如も、廉頗に同じ思いであることを伝える。
こうして、藺相如と廉頗は刎頸の交わりを結ぶのである。
こののち、二人はまさに両輪の如く、国難に協力しながら趙を支えてゆく。
やがて、藺相如と廉頗により、趙国は最良ともいえる時を迎えるのであった。