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春秋戦国物語  作者: 梅を愛でる人
趙の両虎
11/52

刎頸の交わり

 だが、さすがに藺相如の異例の出世には、不平を感じる者が少なくなかった。


 なかでも特に廉頗は口舌の徒であると嫌っていたが、藺相如が上卿の筆頭となったことで、趙における席次が彼の下になってしまったのである。


(下賎の者でありながら舌三寸で王にとりいったのだ。趙国にあって野戦攻城の武勲並ぶ者なき自分より、そんな口舌の男が上位だなど許せぬ)


 ついに、廉頗の不満は爆発した。

 誰彼かまわず、つかまえては声高に放言した。


「賎しき出の奴の下など、恥ずかしくて立てぬ」


 憤激にその顔を歪め、更に言葉は激しさを増していった。


「藺相如に出会ったならば、何処であろうと必ずや辱しめてやるぞ」


 辺りを憚らず、怒声でこう言い放つのだった。


 藺相如は他の群臣の妬みは分かっていたが、相変わらず熱心に政務を執っていた。

 しかし、廉頗の放言を噂で聞くと、行動に変化がおきた。


 廉頗を避けるようになったのである。

 廉頗と共に朝見せねばならない日は、病であるとして家から出なかった。

 外出する際にも、廉頗を避け、彼の姿が遠くからみえると、車を退けて逃げ隠れた。


 従者たちは、そんな藺相如をみて嘆いた。


「我らが、家を離れてお仕えしたのは、君の高義を慕ってのことです。ところが、君は廉将軍の悪口を聞いてから、恐れて逃げ隠れております」


 従者たちの非難に、藺相如は静かに頷く。


「これは庸人(雇われ人)でも恥ずべき態度で、将相なら尚更のことです。我らはこれ以上、君にお仕えすることは出来ません」


 顔を顰めて、従者らは立ち去ろうとする。

 それを引き止めた藺相如は、恥じる様子もなく問いかけた。


「あなた達からみて秦王と廉将軍では、どちらに威があるだろう」


「それは、もちろん秦王です」


「では、その秦王を叱咤して、秦の群臣を辱しめたのだ。この相如、どうして廉将軍を恐れようか」


 押し黙る従者たちに、藺相如は優しく語りかける。


「私の考えるところ、強秦が軍旅を向けないのは、趙に両人がいるからである。この両虎が争えば、片方は無事ではあるまい」


 従者たちも理解して頷いた。

 そして藺相如は、いつもの気迫に満ちた様子で声をあげた。


  「私が廉将軍を避けるのは国家を先として、私讎を後にするためである」


 これを聞き、従者らは感嘆しきりで、藺相如に深く詫びたのである。

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