短冊にのせて
どうも、暁巳蒼空です。今日が七夕だったということに気づき、駆け込み投稿です。普段は恋愛チックな作品を書かないので面白いかどうかわかりませんが読んでいただけたら幸いです。
「あーあ、今日も疲れたな―」
一歩前を歩く君は、薄れかけた夕暮れ空に向かってつぶやく。
「でも楽しいんでしょ?部活」
一歩後ろから私は答える。振り返ることなく君は答える。
「まあな。大会前だしやる気も十分!」
近づきもしないし離れもしない。言葉は交わすけど目は合わせない。これが私たちの距離だ。変わることのない昔からの距離だ。
一緒に帰るし話もする。けれど、決して交わらない。明日も明後日も交わることはない。近くにいるのにずっと遠くを歩いてる。きっとこれが私たちの『距離』なんだろう。
だいぶ暗くなった駅前の商店街を歩いていると、広場に大きなものを見つけた。
「おっ!ササじゃん。てことは今日七夕か.....」
「あれ?今日だったんだ。すっかり忘れてた」
振り返って笑う君に、小さく笑い返す。
嘘だ。本当は覚えていた。去年もそうだったし、一昨年も。その前の年だって覚えていた。でも、覚えていたのは私だけなのかな。
そういえば、小さい頃は浴衣を着て、短冊を持って、そうして君を待って。そうやってずっと星空を眺めていたっけ。
「ん?どうしたんだよ?そんな表情して」
「なんでもない。ちょっと昔のことを思い出してた」
「なんだよそれ」
そう笑って君はまた一歩前を歩く。君はもう忘れちゃったかな。ずっと昔の約束を。
織姫と彦星のように離れ離れになっても、白鳥にのって天の川を超えていく。絶対に離れたりしない。そう言ってくれたのに君はもう忘れちゃったんだね。ずっとずっと、私と君は近いのに遠いままだよ。
無言のままに大きなササを通り過ぎて、お店を過ぎて、出口がすぐそこまで来て、そして―――
「なあ、やっぱ戻んねぇ?ササん所」
「え?」
突然君は立ち止まって言った。
「お願い書いて行こうぜ。昔みたいに」
ふいに手を温かいものが包む。私の手を握って君は駆けだす。引っ張られるように私も駆けだした。
「うぉ!でけぇなササ。なんか懐いわ~」
さっきみた大きなササがあるところまで走って戻った君は、おもむろに言い出した。
「フッ。なにそれ。ここのササ毎年大きいじゃん」
ついつい吹き出してしまう。けらけらと笑うそんな私を見て、君は少しだけ顔をそむけるとやや赤くなりながら手を突き出した。
「んなことどうでもいいんだよ............ほらよ、短冊」
突き出された手には水色と桃色の二枚の短冊が握られていた。ずっと昔に可愛い色がないと駄々をこねた私のために彼が作ってきてくれたもの。それと全く同じものだった。
「でも、取りになんて............」
「いいからさっさと書け」
そう言って君は一枚を渡すと奥の方に行ってしまった。
「なんだ.......覚えてるじゃん馬鹿」
言葉を零し、ずっと奥に行ってしまった君を追いかけて走り出した。
「ねえ、お願いどうしたの?」
ササの下でどこにつけようかと悩む君に尋ねる。
「ん?今度の大会で優勝って書いたけど」
台座を持ってきて、一番高いところに結び付けようとしながら君は訊いてきた。
「書き終わったなら貸せよ」
笑いながら手を差し出してくる。どうやらつけてくれるらしい。でも大丈夫と断り、手ごろな所に結び付けようとしたとき...........
「流れ星だー」
どこかから聞こえた声につい顔を上げる。
満点の星のなか、天の川を超えて走る一本の『ひかりのみち』が見えた。
「ねえ覚えてる?ずっと前に初めてここに来た時のこと」
あの時もそうだ。今日みたいに満点の星空だった。短冊を結んで、二人で空を見上げて、そして―――
「忘れてねぇよ。あの流れ星は」
赤く染まった頬が見えた。私の顔をちらり見て、けれどもそっけなく君は答える。
なんだ昔のこともちゃんと覚えてたんだ。だったら忘れたふりしてないで最初から言いなさいっての。
「ねえ、私のお願いなんだと思う?」
台座から降りて私の隣に立っていた君に尋ねる。
「............なに書いたの?」
私から顔を逸らし、赤い顔を隠しながら君は訊く。
「内緒っ♪」
そう言って私は隣の君の手を取った。
『どうか君との距離が―――――』