俺らのパーティに魔王がいる。
四コマ用のネタとして用意していたのですが、絵を描けない事に気付いたので短編にしました。
「頼む。俺も連れて行ってくれ!」
「…本当に?君が来てくれるなんて心強いよ!」
冒険者として生計を立てられるようになってから数年。
俺は幸運にも、勇者と出会うことができた。
魔王を討ち滅ぼす神託を受けた勇者が誕生したらしい、と聞いたのは半年ほど前。
どうしてもそのパーティに参加したくて情報を集め、ルートを予測して追いかけた。
その道中、大型モンスターに手こずっている冒険者に加勢すれば、なんとそれが彼の勇者だったのだ。
どうやら訓練を兼ね、ソロで小銭を稼いでいたらしい。
俺はここぞとばかりにパーティ加入を申し出た。
そうすれば意外にも勇者は二つ返事で了承してくれたのだ。
加勢したことで信頼を勝ち取れていたらしい。
「丁度パーティメンバーを探してたんだ。助かるよ」
「俺の方こそ!パーティに入れなくて困っていたんだ」
その理由は勇者パーティを追いかけていたからなのだが、それを抜きにしてもあながち嘘ではない。
俺の獲物は弓だ。ジョブで言えばハンターに分類される。
魔物の注意を逸らしたり、仲間をフォローするのが役割だ。
しかしファイターのようなタフさもなければ、ソーサラーのような火力もない。
器用貧乏と言われがちで、ダンジョンに潜るだけの効率を求める一時的なパーティにはなかなか入れてもらえないのだ。
何故このジョブにしたのか?
ただ適正が高かった。それだけの理由だ。
適正ジョブは他のジョブよりもステータスが優遇されるし、経験値の入りも良い。
しかし適正であってもモンスターを狩って卸すような仕事をする人以外にはあまり選ばれない。
『不遇』と言われてしまうジョブの1つだ。
それでも俺は腕に自信がある。
ソロでもギルドで実績を残してきたし、立ち回りは一級の冒険者にだって引けをとらない。
彼らの役には十分立てるはずだ。
「僕らの泊まっている宿に案内するよ。仲間が待ってるんだ」
「ああ、よろしく頼む」
夢にまで見た勇者パーティに参加することができて、俺は有頂天になっていた。
…まさか、それをすぐに後悔することになるなんて思ってもみなかった。
「ヒーラーのユリアと申します。何卒よろしくお願い致します」
「魔王…ごほん、ソーサラーのヴァルドだ。よろしく」
「……ん?え?え??」
案内された宿には、見目麗しい男女がいた。
女性はこの国の姫。王国随一の回復魔法の使い手で、噂に違わず清楚で可憐だ。
ふんわりと笑うその姿は見ているだけで癒される。
そして隣にいるのは…明らかに魔王だ。
美男子ではあるが魔族特有の赤い瞳、それに頭部には立派な角が生えている。
彼の纏う禍々しいオーラは、魔力のない俺でも後退りしてしまう程に強い。
服装も巷の冒険者が着るような安物ではなく、とても高価な布を使っているのが遠目でもわかる程だ。
というか自分で魔王って言ったよな今。
「え…なんで魔王…」
「ああ、ヴァルドは魔族とのハーフらしいんだ。この角も立派だし、まるで魔王みたいだよな」
「ふふ、それにとても強いのです。なんとあの古代魔法が使えるのですよ!まるで魔王みたいですよね」
そう言ってキャッキャと笑う勇者と姫。
いやもうそれ魔王だよな?
なに言ってんだこいつら?
これ魔王討伐パーティだよな!?
「そう手放しに誉められると面映ゆいものがある…」
魔王もなんで満更じゃない感じで照れてるの!?
じり、と一歩後ろへと下がる。
…異常だ。
この異常な光景は、これは俺の理解できる範疇を越えている。
そうだ、せめて一度ここから離れよう。
今の宿に帰って、頭を冷やして…状況を整理しなければ。
「あの、俺一回…」
「貴方のお名前を聞いても?」
「えっ、えっと…ジェイクだけど…そんなことより!」
「ジェイク!とても素敵なお名前ですね。これから一緒に頑張りましょう」
「えっはい。いえっあの!」
姫が有無を言わさず俺の手を取り、その柔らかな両手で包んだ。
微笑む顔は慈愛に満ちた天使のようだが、今の俺にはまるで無慈悲だ。
「ほら、ヴァルドも」
勇者はそう言って明らかに魔王であるソーサラーを促した。
俺はそのまま姫に促され逃げ場を失ってしまう。
くそっ、余計なことしないでくれ!
恐る恐る魔王と向き合えば、にこりと笑われた。
まるで敵意のないその顔に、ん?と疑問を抱く。
もしかして本当に魔王ではないのかもしれない。
まさか…いやでも自分で言ってたしな…。
そんな俺の気持ちも知らず、彼はニコニコと手を差し伸べている。
…そうだ、こんなところに魔王がいるわけがないじゃないか。
魔王にしては友好的だし、きっと俺の勘違いに違いない。
頭を振って不安を追い出す。
こちらもなんとか笑顔を作って伸ばされた手を握った。
魔王…ヴァルドは目を細めて、俺にだけ聞こえるような声でぼそりと呟いた。
「滅びよ」
「おい今こいつ滅びよって言ったぞ!!」
握った手から強く禍々しい魔力を感じ、慌てて放した。
やっぱり魔王だろこいつ!!
「うふふ、もう、ヴァルドさんったら」
「ははは、ヴァルドはお茶目だなあ」
「お茶目!?お茶目かこれ!?」
勇者と姫の二人は気にした様子もない。
なんでだよ!あんた選ばれし勇者じゃないのかよ!
「じゃあ僕も改めて。ユートです。これからよろしく」
今度は勇者が爽やかな笑顔で俺の手を握る。
その手を取れるんじゃないかと思うほどに勢いよく上下に振られた。
俺としてはあまりよろしくしたくないんだが!
ひきつった表情でそれを受け入れていれば、不意に勇者の向こう側に立っている魔王と目が合う。
その瞬間、魔王は俺を鼻で笑った。
「…ごめんやっぱ俺このパーティ無理だわ」
「ええっ!?」
こんな魔王じゃなくても性格の悪い男がいるパーティなんて冗談じゃない。
踵を返して帰ろうとするも、勇者は手を離してくれない。
「頼むよ!皆そうやって仲間になってくれないんだよ~!」
「前例あんのかよ!?」
何人いたかは知らないが、このパーティに加入しようとしたのはどうやら俺だけではないらしい。
皆、メンバー全員で顔合わせをすると逃げ出すそうだ。懸命な判断である。俺も逃げたい。
道理であの勇者パーティにハンターがすんなり参加できたわけだよ!
「私からもお願いします。私達には貴方の力が必要なのです…どうか」
「うっ…そういわれても…」
姫は祈るように手を組み、潤んだ瞳で俺を見上げた。
これにはかなり心がぐらつく。可愛い子のお願いは聞いてあげたくなるのが男の性だ。
そこにはもちろん下心があるのだが。
「ふん、我としてはどちらでも良いが…二人がここまで頭を下げているのだぞ。何故汲んでやらぬ」
…お前がいるからだよ!!
と思ってはいても口には出せない。
先程は思わず突っ込んでしまったが、あまりに機嫌を損ねては俺の命が危ない。
まして今の状況では3対1だ。
押し黙る俺を見た魔王は、ぐっと俺の肩を掴んで耳に顔を寄せた。
「…どうやら貴様は勘が良いようだな。安心しろ、今すぐ何かを起こすつもりはない。だが逃げ帰っても構わんぞ?…口を封じられる覚悟があるならな」
底冷えするような低音が耳元で響く。
その音、その意味を理解してぞわりと肌が粟立った。
…勇者パーティに魔王がいるだなんて情報は聞いたことがない。
けれど、今まで何人も逃げ帰っている。
それは、つまり。
「…っ!喜んで参加させていただきます!」
「本当ですか?わあ、ありがとうございます!」
「何言ったんだヴァルド?」
「報酬を教えただけだ」
喜ぶ姫に手を握られたが、俺は力なく笑うことしかできなかった。
最強の勇者パーティ。
それぞれのジョブのエキスパートが集まり力を合わせて魔王を倒したという伝説。
子どもの頃、その伝説を聞いてからずっと憧れていた。
残念ながら俺は勇者の神託も適正も授かれなかったけれど、今度魔王が復活したら勇者と並んで戦うんだと夢を見て。
必要とされるために、エキスパートを目指せるニッチな適正ジョブを育てた。
それなのに。
「よーし、皆で力を合わせて魔王を倒そう!」
「ええ!」
「おー」
「……」
いるじゃん…魔王ここにいるじゃん!!
俺の理想のパーティの夢は、加入した時点でガラガラと音をたてて脆くも崩れ去ってしまったのだった。
…そしてその後。
既に勇者と姫がデキていると知った俺は咽び泣いた。
その時に魔王は慰めるように肩を叩いて、黙って話を聞いてくれたのだった。
こいつ、意外と良い奴かもしれない。
ファンタジーって難しいです。