名探偵「犯人は女将さん、貴女だ!」助手「残念!不正解」名探偵「…え?」
名探偵――超有名人。いつくもの難事件を解決してきた。
助手――名探偵の助手。
刑事――その名の通り。
板長――被害者。旅館「ペケの屋」の女将の夫。
女将――容疑者その1。
男――容疑者その2。板長の元で修行していた。
女――容疑者その3。仲居。
~あらすじ~
依頼を終えた名探偵と助手はペケの屋で一泊することとなる。その翌日、密室で板長が殺されているのが発見された。図々しく犯人探しに協力する名探偵。彼は密室殺人のトリックを見事暴いた。そしてそれが可能だった容疑者は3人に絞られたのだった。
※※※
名探偵「このロープをかくかくしかしがすると…」
刑事「成る程!それなら密室殺人も可能だ」
名探偵「そして昨日の夜、これをできたのは貴女方3人だ」
女将「私を疑ってるのですか?」
男、女「……」
名探偵「いえ、疑ってなんていません。確信を持っています」
刑事「犯人が分かったのか!?」
名探偵「犯人は最初から分かってました。ただ、証拠が見つけるのに少し時間を要しただけです」
名探偵「犯人は女将さん、貴女だ!」ドヤッ
女将「私が主人を殺したって…そんな何を根拠に…」
女「女将さんが!?」
男「有り得ない。あんなに愛しあっていたのに…」
名探偵「その愛が原因なんです」
助手「名探偵、これが資料です」
名探偵「うむ。女将さん、貴女は周りからは順風満帆な人生に見えたかもしれない。しかし貴女には悩みがあった」
助手「旦那さん、死んだ板長に愛人がいたんです」
女将「……確かに、それは事実です」
名探偵「可笑しいと思ってたんですよ。昨日、挨拶に来た板長から明らかに女将さんとは違う香水の臭いがしたんでね」
刑事「1日で愛人の存在を突き止めるとは流石だ」
名探偵「そして最後に現場で板長と会っていたのも貴女です。こればかりは推測ですが、抗論になったんじゃないですか?」
女将「……ええ、そうよ!旦那とはそれが理由でよく揉めてたわ。だけどそれがなに!?私じゃない!」
男、女「女将さん……」
助手「失礼ですが、その腕時計をお借りしてもいいですか?」
女将「?」
名探偵「ありがとうございます。皆さん、此方に来てください」
助手「名探偵、ここです」
名探偵「ここがこのトリックの要であるロープを使用した場所です。ロープの跡があるのは言わずもがな。その横には小さな跡があります」
刑事「ま、まさか」
名探偵「そう、この腕時計と一致するんですよ」
女将「ち、違う。誰かの陰謀よ」
名探偵「この時計はお母さんの形見だから肌身離さず持っていると言っていましたよね」
女将「あ、貴方達は信じてくれるでしょ!?」
男、女「……ごめんなさい」
女将「ちょ、恩を忘れたと言うの!?私がいなかったから女なんて――」
刑事「悪足掻きは止すんだっ!!」
名探偵「もう一度言います。犯人は女将さん、貴女だ」
助手「残念!不正解」
名探偵「…え?助手君何を言ってるんだい」
助手「だって犯人は僕ですから」
名探偵「ちょ、え、だって動機がないだろ。私達は昨日初めてここに来たんだし」
助手「うわぁ、幻滅しちゃいますね。考え方が古いです。今時理由が無くても殺人は起こりますよ」
名探偵「だって、時計が…」
助手「少しは頭を使ってください。殺してすぐに密室にしなくちゃいけないなんて誰が決めたんですか。殺害した後、女将が寝てから腕時計を勝手に拝借して密室を作ったんですよ」
刑事「狂ってる」
助手「ちなみに今回ので、名探偵が真犯人たる僕にたどり着けなかった事件は10件目です」
名探偵「そんなに!?」
助手「まあ、これで僕の復讐も終わりました」
刑事「復讐?」
助手「僕は昔名探偵に潰された組織の生き残りなんです。板長に対する怨みは無くても、名探偵、貴方にはあったんです。あ、これだとやっぱり動機はあったんですかねぇ」
名探偵「君には失望した」
助手「僕だって失望しました。何が名探偵ですか」
刑事「……うわっ、急に煙が部屋中に!?」
助手「アディオース」
刑事、名探偵「く、待てっ!」
助手は行方を眩ませ、未だに捕まっていない。名探偵は女将に名誉毀損で訴えられた。そして和解に至ったもののマスコミに大々的に取り上げられたため低迷し、業界に残ることは出来なかった。一時期ヒーローの様に扱われた名探偵と助手の今を知る人は誰もいない。
助手「もっしもーし」
女将「あ、助手さん。海外はどうですか?」
助手「すっごい快適。そうだ。貰ったお金でそろそろ会社を立ち上げようと思ってるんだ」
女将「……ごめんなさいね。あんな嘘で犯人を代わってもらって」
助手「いいのいいの。名探偵はすぐタダ働きするから、こっちは金欠で死にそうだったんだよ。あそこで会ったのも何かの縁でしょ」
女将「本当にありがとうございました」
~終~