六
夏休みの終わり頃から大学祭の写真展の準備をしてきた。部員がそれぞれ写真を持ちよって、話し合いで展示するものを決める。展示する写真の大きさや枚数などはその後に決める。昨年、耀は写真を選ぶ話し合いに参加しただけで、主に出店の準備を担当した。
今年は、彼女が展示のレイアウトを担当することになった。夏休み明けに、そう決まった。
「めずらしいな」
休日の部活が終わり、部室を出た時に佐倉が言った。
「何が?」
「瑳内が名乗りでたのが。初めてじゃないか?」
「そうですよ。耀さんはこれで晴れて肉食系女子となりましたね」
後輩の鷹見が言った。鷹見と耀は家が同じ方向にあるので、帰りはよく一緒になる。今日は鷹見が二人を喫茶店に誘い、これから行くところだ。
「そうなの?」
「俺に聞かれても」
佐倉は困ったように言った。
「佐倉さんは草食少食系です」
「よく噛まずに言えるな」
佐倉は関心したようだった。発言の内容に関しては、特に反論はないらしい。
喫茶店は学校のある山の麓にある。自転車で五分もかからない距離で、坂を下っていくだけで着く。その坂の途中で左の道に入ると病院がある。
チェーン店の大きな喫茶店の脇に自転車を止めた。耀は、店に入る前に振り向いた。道の向こうに病院が見えた。
入り口で佐倉が待っていて、彼女と一緒に入った。
「鷹見は大学祭に来たことある?」
注文を済ませてから大学祭の話になり、佐倉が後輩に聞いた。
「はい。地元に大学がないので、どんな感じなのかも知りません」
「人の数が多いから当然だけど、高校のと比べると規模が大きいよ」
「プロの歌手とかも来るらしい」
耀が付け加えた。
「去年も来たんですか?」
「来た、らしい」
「ああ、去年はライブやってる時間に店番してたからな。それがなくても行っていたかはわからなけど」
佐倉が思いだすようにして言った。飲み物がきて、一旦会話が途切れた。
耀はミルクティ、佐倉はウィンナーコーヒー、鷹見はクリームソーダをそれぞれ口にした。
「どうして急にレイアウトをやりたいって言いだしたんだ?」
佐倉が耀に聞いた。
「理由かあ、理由ねえ」
耀はちらっと横に座る鷹見に目を向けた。彼女も興味があるようで、コップを置いて耀のほうを見ていた。
「レイアウトは面白そうだと思ってたのと」
彼女はそこで言葉を切った。少し、次の言葉を探してから、
「あと、当日に仕事のない役割は避けたかったから」
「当日はなにか用事があるんですか?」
「いや……、うん、そうだね。母が来るから、案内をしたいんだ」
正面に座る佐倉はそれを聞いて、納得したようだった。彼は耀の母が入院していることを知っている。しかし、鷹見にはまだ言っていない。
「そうなんですか。言ってくれたら当番とか代わりますよ」
「じゃあ、その時は言うよ」
「おまかせください」
鷹見は笑って言った。
喫茶店を出て帰路についた。佐倉だけ家が山の反対側で、鷹見と耀も喫茶店の前の十字路で別れる。が、スーパーで買い物をすると言って、佐倉は耀と同じ方向に進んだ。
鷹見と別れたあと、佐倉が、
「鷹見に言っておこうか? お母さんのこと」
「いや、私が言うよ」
「そうか」
高速道路の下をくぐるトンネルの入口で佐倉と別れた。耀はそのまま病院に足を向けた。
空を見上げて、雲が高くなったと思った。