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 家の近くを通る国道は夕方くらいからずっと渋滞している。昨日も混んでいたが、今とは比べものにならない。町外れにある大きな駐車場に車を駐め、バスで神社まで行くことを市が推奨しているが、それでも渋滞は緩和されていないようだった。

 渋滞が発生するような時期にはバス専用レーンが出現する。バス専用レーンといっても、二車線の車道の真ん中に赤いコーンを並べるだけだ。果ての見えない車の列の横をバスが何事もなく通りすぎてゆく。その様子を以前、母と一緒に見たことがあった。

 渋滞とは無縁な家の中でその様子を思い出した。

「昨日のうちに買い物しておいてよかったね」

「うん」

 こんな会話も毎年のことだと思っていたが、大晦日を自宅で母と過ごすのは何年ぶりかのことだった。母は許可をもらって一時帰宅の最中だ。

 昨日は母と一緒に近所のスーパーに行った。車は耀が運転した。店内は年末の落ち着かない雰囲気で、少し浮足立ってしまった。普段なら買わないようなものを買ってしまいそうだった。

 母と相談しながら買い物をした。荷物は耀が全部持とうとしたが、結局半分ずつ持つことになった。こうしていると、彼女がまだ小さかった頃、母の持つ買い物かごに勝手にお菓子を入れて、それを棚に戻されたことを思い出した。

 その頃は、母のことを見上げていた。背が追いついたのは、いつのことだったろうか。

 予約しておいたおせちを受け取ってから、家に帰った。大晦日は父が忙しいので、その日に年越しそばを三人で食べた。

「今年もお父さんは頑張っているんだろうね」

 と、母が言った。大晦日の夜、母娘はリビングでこたつに入ってテレビを眺めている。

「うん。でも、明日は休みって言ってたし」

「帰ってくるまで、起きてようか?」

「朝になるから、ダメ。寝なさい」

「えー、じゃあせめて今日のうちになにか作ろうよ。買ったものだけだと味気ないし」

「食べ物なのに味気ないって、なんか複雑だ」

「よし、料理だ」

 こたつを出て、台所に並んで立った。が、何を作るかはこれから決める。

「お正月らしくないものでもいいんじゃない?」

 耀が提案した。

「そうだね、でもそれだとなにを作っていいやら」

「かといって、あまりにかけ離れているのもどうかと思う」

「例えば?」

「ショートケーキとか」

「売れ残りか、とか言われそうだね」

「材料ないしね」

 冷蔵庫には昨日買った食材がある。

「お父さんの好きなものにしようか、無難に」

「そうだね」

 母の提案に娘は頷いた。調理をはじめて、明日温めなおせばいいというところまで準備した。

 入院するまで、家事は母に任せきりだった。こうして二人で台所に立つのは、はじめてかもしれない。

 いつの間にか、耀の背丈は母よりも高くなっていた。

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