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傭兵in異世界  作者: キリサキ隊長
戦の先に........
84/86

戦い終わって

主人公不在のため書き方が変わりますよ

日が東の空に全身を晒した頃、とある小高い丘の上に、一人の女性が立っていた。


「傭兵、もう1年になるね」


他に人はいないが、女性は静かに喋り出す。彼女の目の前には1本の十字架が立っている。女性はなおも言葉を続けるが、当然言葉を返すものはいない。彼女はひとりなのだから。


「君がいなくなって、君を覚えてるのも僕だけになって........」


軍服を身に纏い墓に向かって話続けるのはイツキ、元ガーンズ国軍大佐である。


「全く、戦争が終わったのに帰ってこないなんて一流の兵士としてまずいんじゃあないのかな?」


いくら罵倒しようとも返事はない、それは彼女自身も知っていた。今この世界にかつて生きていた男を覚えているのは彼女独りだけなのだ。


「大佐殿、そろそろ時間です」


いつの間にいたのか後ろには大きな体躯の男がいた。


「お迎えご苦労様、クレイグ」

「大佐殿、その墓は........」

「ん、戦友のお墓。今だ帰らないお馬鹿の墓」

「心中お察しします」

「君も会ってるはずなんだけど覚えてない?」

「........すみません、そこに墓があることを今知りました」

「そう........なら仕方ないね。行こうか」


イツキは踵を返しその場をあとにする。後には朝の陽射しに照らされた十字架だけが残った。


ーーーーーー


300年続いた戦争に終わりがもたらされたのは、今からちょうど1年前のことである。

旧ウィーズ軍司令官、マクリルとその一派にによって大量破壊兵器が運用されようとしているという情報を掴んだイツキとその部下たちは、少数精鋭の部隊でこれを急襲、首謀者マクリルと大量破壊兵器の撃滅に成功した。

膠着した戦況を打開しようと画策していたウィーズ軍司令部は逆に手痛いしっぺ返しを受け、なおかつ切り札を失うこととなった。

一方同じく疲弊していたガーンズもこれ以上攻めようとはせず、和平交渉を始めた。両者の利害が完全に一致し、ここに戦争は終結した。これが終戦までの流れである。


「もう1年ですか........速いものだ」

「そうだね........だけどボクらはまだ終わってないよ」

「はい、俺たち『英雄』がやらなければならないことは多い」

「その時までボクらは『英雄』でいなければならないからね。終わるときまで気は抜けないよ」


戦争な終わったあと、命を懸けて戦い抜いた彼女たちは世界の英雄として祭りあげられた。戦争がごく一部の利益のためだけに行われていたこともあり、戦争終結の立役者は両国から称賛された。

しかし当の彼女たちはそんなことはどこ吹く風と言わんばかりに考えていた。この状態を維持する手だてを。戦争が終わってからも、戦争終結の立役者たちはこの平和な世で戦い続けているのだ。


「ところでさ」

「何か?」

「誰かに見られてる気がするんだけど、知らない」

「........いえ?」

「そう........」


彼女たちは知らない。一定の距離を保ちながら一切の音をたてずに車を尾ける人影がいることを。


「........」

「........悪いな」

ーーーーーー


同日12時、ガーンズ首都のほぼ中央に位置する広場、通称メカロ広場はガーンズ史上かつてないほど人で溢れていた。広大な敷地の至るところに露天が立ち並び、上を見上げれば昼間でも花火が上がっている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


「皆さーん!盛り上がってますかー!!」


広場の中央に設置された特設ステージにて、やたらとテンションの高いMCが叫ぶ。ステージの最前列に座っているのが仏頂面をぶら下げた背広のおっさんばかりでも爽やかな笑顔なのは営業スマイルなのかはたまたそんなことを意に介さないほどこの行事が楽しいのか、答えは彼女のみぞ知るところだ。


「さあ、待ちに待ったこの日がやって来ました!それでは登場してもらいましょう!」

「終戦の英雄さんたちに!」


ドッと会場が沸く。MCの台詞を合図にステージの左右から数人の人が上がってくる。

歳の差が上は70歳台から下は10歳にも満たない男女たちだが、彼らは紛れもなく先の大戦の最前線で戦った者たちである。


「うぅー........なあアリスちゃんよぉ、ホントにこの服装じゃなくっちゃダメなのか?」

「ダメですよキルオン、今だけはきっちりしてください」

「くそーぅ、誰だこの服考えたやつ........」


着なれないフォーマルスーツの襟を引っ張りながら緑髪の青年、キルオンは隣のアリスに小声で呟く。山育ちでマナーに疎いと言わざるを得ない性分のせいか、今だかつてない視線にさらされ緊張しているのか。


「........ま、気持ちは分かりますけど」


その隣にいたアリスもまた、自分達がこれから宣言することに緊張していた。

正直彼女は大戦の最終決戦をよく覚えていない。手製の武器を携えて相方のキルオンと共に前進したところまでは覚えているが、そこからの記憶は極めて曖昧だ。戦争終結の決定打を目の当たりにしたはずなのに彼女の記憶は極めて不明瞭だ。特に最近は何かを忘れている気がしてならない、自分達は何かを失ったはずだと思えてならない。そんな不安を抱きながらこの場に立つのは、彼女としては不本意きわまりないものだった。


「........」


そんなアリスを横目で見ながら、隣にいた黒光りの老人ガルシアは内心でため息をついた。この中での年長者である彼は他の者の変化にいち早く気づいていたし、自身も恐らくは同じだろうと考えていた。

何か忘れている気がする。時間がたつほどに強くなるこの感覚は最早気のせいなどではなく確かな喪失感となりつつあった。しかし自分達はこれほどの喪失感を味わいながら、何を失ったのかを思い出せない。それがもどかしかった。

そしてガルシアあ視線を一番端にいる人物、イツキに向ける。彼女は何か知っている、そう思うにはそんなに時間を要さなかった。彼女だけが迷いなく、確固たる意思のもとに尽力している。その姿は自分達の知らないことを知っていると受けとるのは不思議な話ではない。


「ね~イツキ~」

「帰りたい~」

「これ、あたしらは出なくてよくない?」


そしてイツキは何かを知っていると考えていたのはガルシアだけではない。ニールとネール、この10歳にも満たない姉妹ですら感じ取っていた。全員が感じている喪失感の中でもこの2人は特別大きな物であった。両親がいなくなりイツキが母親の代わりとなったのはよく知っているが、最近はイツキがいても何かが足りないと、他の人よりも具体的に感じるようになった。それは自分達が失ったらしいものがとても身近で、なくてはならないものであったことを心が覚えているようだった。

隣のヤチヨもまた同じである。何か大切なものを失った気がしていた彼女は半年ほど前、1度だけイツキを問い詰めたことがあった。


『アンタ、あたしらに何か隠してるだろ』


問い詰められたイツキは一瞬だけ驚いたような顔をし、すぐに困ったような顔になった。


『うーん........ボクから説明してもいいけど、にわかに信じられない話だからなぁ』


帰ってきた返事は要約するなら『知っているがお前じゃわからん』である。元々気の長くないヤチヨは激怒したが、問答の末にあることをイツキに言われ、納得することにした。


『いずれ"彼"の方から来るさ。そのときになったらみんな思い出すと思うよ』


いずれわかる日が来るのであれば、答える気のないイツキを問いただして苛つくよりも、ひとつの楽しみだと思って待った方がいいとヤチヨは思った。


ーーーーーー


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」


各々が場違いな思い悩みをしているところで、イツキがマイクをとる。ここに立っている目的を果たさなければならない。


「皆様がここに集まってきた理由を私は存じているつもりです」


これから始まるのは彼女たちの悲願の第一歩である。果てしなく険しい道ではあるが出来ないわけではない、そう己に言い聞かせて早1年である。


「私は形式ばった冗長な前置きはできません。故に簡潔に、要点のみを述べさせていただきます」


そしてイツキは自分達の想いを語りだした。自分達は戦争終結、そしてその先にある平和を目指したこと。そして1年前に節目を迎えたこと。そしてこの日、自分達は新たな試みに挑戦する、どうか力を貸してほしいと。

最初こそ英雄がなんかやると言う野次馬根性でその場にいた者ばかりだが、徐々に空気は適度な緊張感を帯び、大衆は悉くイツキの言葉に聞き入っていた。そしてイツキは、この場における核心たる宣言を行う


「今ここに我々は宣言します。英雄として、そして争いを忌む1人の人間として、この世界にたったひとつの国を打ち立てると!」


高らかに響くイツキの宣言に、大衆は驚きを隠せなかった。彼女たちは今ある二つの国をまとめあげる、そう宣言したのだから無理もない。

これこそが彼女たちが導きだした完全平和への答えなのだ。争いが起こるには少なくとも2つの陣営が存在し、その『対となる存在』がいる限り争うのが人間の性である。ならば、対するものをなくせばよい、それが彼女たちの結論である。

無論、今だかつてない規模の計画であるが、イツキは確かな手応えを感じていたし、実際に計画のための根回しは概ね終わっている。だからこそ彼女の横にいる者たちも今日までついてきてくれていると彼女は確信していた。


「その宣言、しばし待っていただこう」

「!?」


しかし、それに待ったをかける者もいた。








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