傭兵と神
お久しぶりです
2か月ぶりですが更新します
「あー........痛ぇ」
目が覚めたらまさに、すべてが終わっていた。
「やべぇ、破裂しそう」
横たわりながら絞り出すように呟く。
結論から言えばあれだけの犠牲を払ったのに任務は失敗、それどころか最悪の結末を迎えようとしていた。
マクリルはさっきの戦闘で死亡したが、時すでに遅く奴のの置き土産は成った。術式を以て完全に顕現した神は器を求めて俺の中に侵入してきた。その時のショックで一時的に気を失い、目を覚まして今に至る。
まったくマクリルの野郎とんだ迷惑を押し付けて死にやがったもんだ。
「........んうぐぅ!」
何が迷惑ってこの神、激痛を伴って俺の心身を乗っ取ろうとしているのだ。他人の肉体に入り込んだ神はその身体を壊しつつ精神を喰らい、主不在となった肉体を己のものに作り替えるのだ。もはや新手のウイルス兵器である。
「ご主人!大丈夫ですか!?」
どっかに隠れていたであろう仙里が駆けつけてくれる。かつても同じものを見ていた仙里は俺がどんな状況にあるかをすぐに察した。
「ご主人........」
「いやー、ハハハ........こりゃ負けかねぇ」
「やっぱり........中に?」
「おお、俺が見てきた通りさ。お前もじゃあねぇか?」
「ええ、ハンクさんは泣き叫んでましたけど」
いや俺だって泣き叫んでのたうち回りたいんだけど。まるで体の内側を針で突き破られるような痛みは洒落にならん。
「なあ仙里よぉ」
「はい」
「俺はさ、死ぬのは怖かないんだけどさ、犬死にだけはごめん被りたいんだよ」
「ご主人はそういう人ですからね」
「そこで、だ。俺のおそらく最後の頼み、聞いてくれるか?」
この事態が最悪である理由は、真の意味で誰も得する奴がいないことだ。これでマクリルが生きていたら、神と成り果てた俺はマクリルに操られて奴が望む世直しとやらをやらされてただろう。魔方陣にも召喚には使われてなかった紋様があるし、神を操る術を確保していたはずだ。聞くかどうかは知らんけど。
しかしマクリルは倒れ、俺は神に食われるだけの身。この神は完全にスタンドアロンなのである。これがしょうもないもんなら放っとく所だが、はぐれとはいえ何でもできる創造神である。何でも口に入れる赤ん坊に核兵器のスイッチを任せるより何が起こるか見当がつかない。
「私にできることですか?」
「お前にもできる簡単なことだし、ここにいるお前にしかできないことだ」
「........わかりました」
「お前が今からやるべきことは何てことはねぇ、お前に預けるもんがあるってだけだ」
「........はい」
「いい子だなぁ、チョコ喰う?........」
「いりません」
「おろろん」
返答を聞くと懐から手帳とペンを出し、俺が必要と思ったことを書き連ねていく。俺がこれからすること、それで何が起きるかと言うこと、そして俺がどうなるかということを思い付く限り片っ端から書いていった。
「よっと........」
そして手帳をそのまま仙里の身体にくくりつける。仙里の小さな身体には少し大きな手帳であるが、これならどうにか運んでもらえそうだ。
「さて、仙里よ。今から俺が言うことを耳かっぽじって聞け、そしてこれから起こることを一片残さず覚えておけ」
「........はい」
「俺はな、神になることにしたぞ」
「え」
何いってるのこの人みたいな目をするんですけどこの狐。まあわからんでもないけども。
「神になって、全部なかったことにするぜ」
「そんなことが........」
「できるさ、創造神だぜ?」
無論、やったことのあるやつなぞいないのでできる保証は微塵もない。だが、この世界のあらゆるものを無から創った神の力ならばどうか?
「どうせ逃げられん。なら討って出るのが順当な流れだろ」
「........それでいいんですか?成功する方が奇跡じゃないですか」
「生憎と俺は人間でな、無から有は作れん」
そう、人間にできるのはせいぜい有を増やすぐらいだ。だからこその神なのだ。
「散々俺らを振り回してくれたんだ。少しは役に立ってもらわんとなぁ、あ?」
「これから負け戦、とは思えませんね」
「これが敗けをひっくり返す秘訣ってやつだ。覚えとけ」
ただ辛いだけなら諦めない。狭き門は閉じた門じゃねえからな。もっとも、引き際の見極めも大事だがここで言う事でもないわな。
さて、ぼちぼち始めようかね?
「んじゃ、始めるわ」
「........じゃあ私は行きます」
「え、見てくれんの?」
「ご主人が負けるのは見たくないので」
「えー........」
なんと薄情な飼い狐か、やる前から負けると思ってやがる。思わず目を伏せる。目はくらくらするし、やるとは言ったものの色々思うものはある。あ、やべ、涙が出てきた。悲しかねぇし嬉しくもねぇが、涙が溢れて止まらない。
「次は........平和な世で会おうや」
それでも顔をあげて一言、恐らくは最期の言葉を言う。だが、顔をあげると目の前には誰もいなかった。
「........薄情者め!」
........これが辞世の句かよ、だせぇ。
ーーーーーー
今、俺は俺の中に立っている。もう見慣れた白い空間であるが、自身の内を視覚で捉えたやつは俺くらいのもんだろう。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「........うっは、こりゃあ強烈だ」
俺の中に俺の知らない誰か、いや"何か"がいた。姿も見えなければ一切の音も発さない。これが俺の意識下でなければ五感では感じ取れない、そんな感じがした。
それでいて何が恐ろしいって、それが放つもの全てだ。俺の中にある圧倒的な異物であるにも関わらず、そこにいるのが当たり前のような整合性を醸し出している。
それだけじゃない。親しみや威圧感、歓喜や恐怖、安心や不安、相反していようがなんだろうがお構いなしに撒き散らしている。
なるほど、創造神は全てを超越するんじゃなくて内包してるって訳だ。まさに全知全能って?
「おいそこのお前!」
認識して2秒で未知との遭遇と言えども、呑まれてはいけない。呑まれてたら勝てるものも勝てなくなる。
わざわざその方向 (いるんだかよくわからんけど)を指差して呼び掛ける。とはいえ聴こえてるかはおろか一挙一動を一切掴めないので反応は見られないので、まくし立てるように言いたいことを言うしかない。言い残しはヤだからな。
「神だかゴミだか知らねぇがな!おいそれと勝てると思うなよ!」
啖呵は切った、後は行くだけ。いや逝くだけか?生きてりゃ儲けもんってね。
終わると思った?まだありますよ~




