地の底にて傭兵が見たもの
「........うおぉ」
巨大な門を抜けたその先は、この世と形容するのが難しいとさえ思わせる場所であった。
今まで見てきたような円形の広いスペースに中央が少し高くなった祭壇のようなのがある。その上にはこれまで見てきたような何かしらの気のようなものが塊となって留まっている。
そしてその塊を背に立つ1人の男がいた。紛れもない、今回の首謀者たるあんちくしょうである。
「マクリル!」
「........おお、来たか」
この野郎、余裕綽々である。待ってましたと言わんばかりの声と顔はとてもムカつく。
「わざわざ器になりに来たのかね?」
「はっ、笑わせんな」
この野郎は会うたびにこれである。いい加減にしてもらいたいね全く。
「それよかぁなんだソレは?」
「おぉ、君にも見えるか!やはり我は間違っていなかったのだ」
え、何それ見えないもんなの?
その気は桃色で卵形だった。しかしゆらゆらと揺れていて不定形、ひどく虚ろである。それでいて存在感ははっきりとしているのだからこの世のものとは形容しがたい。........まさか。
「........それが、お前の求めたものか?」
「そうだ、これこそが私の求めた神である!」
自信満々に語るマクリルの顔は、シワが目立つにも関わらず若々しささえ垣間見えるような、ギラギラした顔をしていた。尋常じゃねぇ........。
「ご主人、何が見えるのですか........?」
ふと肩にしがみついていた仙里が口を開く。どうやらこいつには見えないらしい。マクリルから目をそらさず、なるべく仙里を目立たせないように応対する。
「お前には見えないか?あの桃色卵」
「何ですかその毒々しい卵」
「見えないかぁ........」
「100年前にも見てませんよそんなもの」
やっぱりマクリルの言う通り、本当は見えないもんか。........気になる。
「それが神だと?俺の世界じゃ科学で似たようなことができたがなぁ」
「我の作り出した術式と子供騙しの技術を一緒にするな」
「へーへーそりゃ悪ぅござんした」
「だが気になるようだな、己に見えてそこの仙狐には見えぬ事実が」
へっ、バレてら。
「どうせ『君』は死ぬのだ、君の疑問に答えよう........これは、概念だ」
「は?概念?」
ビックリどころの騒ぎじゃねぇ、概念って何言ってんのさこの爺さん。
「神は常に我々を見ているというフレーズを聞いたことはあるかね?」
「あ?」
「それは、神が天上から我らを見守っているわけではない。神は我々のすぐとなりにいるのだ」
野郎、こっちの話を聞きゃしない。自分の言いたいことを言い終わるまで止まらないやつだわ。
「神は不可視の概念という存在として世界と同化しているのだ」
「それを人の世に顕現させるにはまず世界と同化する神の欠片と、それを受け入れる器が必要なのだ」
「器は知っての通り君だ。そして神を集めるために我が産み出したのが『獣おろし』だ」
「」
「彼らは魂を力としていたのではない。世界から少しずつ集めた神の欠片を利用していたのだ」
マジかよ、ヒューやネクロみたいな魂を書き換えたり死骸を操ったりできたのはそういうことなのか。信じるべきか否かねぇ........。
「彼らは元々君と同じように異世界から我が連れて来た者たちだ。器の候補者だったのだよ」
........今とてつもなく聞き捨てならない話を聞いたんだが。こいつが?異世界から連れてきた?
「なら、俺をこの世界に連れてきたのも貴様か」
「いかにも、君は7人目でありそして我が求めた器であった」
「おかしいじゃあねぇか、ならあの6人は何でお前の手先として異能の者に成り下がってんだよ?」
「意のままに操れる手駒が欲しかった、記憶を消してな。それだけだ」
「野郎........」
反吐が出る。てめえの勝手のために6人が主のためと喜びながら俺に殺されたんだぞ?
「彼らは尊い犠牲の末に任務を全うした。だからこそ神はこうして我らの前に視える確かな存在としてな」
「尊い犠牲、ねぇ........」
俺はな、犠牲って言葉を吐くやつが大嫌いだ。自分のために他人を使い死なせてもさしてなにも思わない、そして息をするように犠牲なんて言葉を吐けるやつが俺は気に入らない。
「さて、もう君も聞き終えたろう?そろそろ始めようか」
途端にマクリルが膨れ上がったように見えた。後ろにある神らしい物にひけをとらない気迫が、やつがやる気であることを物語っていた。
「安心せよ、殺しはしない。君には生きて神となってもらわなければならぬからな」
「アホが、叩きのめしてやる!」




