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傭兵in異世界  作者: キリサキ隊長
傭兵たちの最終決戦
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孤独の傭兵

「........」


黙って前進する、俺にはそれしかできなかった。大佐が倒れ、他の道を行った連中とも連絡がつかない。

本当ならとっくに撤退である。外の方も段々と敵が増えてると報告があった。


「........ちくしょう」


俺は非力だ。目の前で大佐やジョニーをやられて、先生を泣かせて、キルオンたちにさんざん無理をさせてきた。いくら1人で12594人を束ねられると言っても、最終的に俺は何も守りきれやしなかった。


『だがよ、あんたは神じゃねぇんだぜ?』

『そうだ、人外みたいな実力はあってもお前は人間だ、そうだろ?』

「だか、お前らだってわかるだろう?要人を討たれ、俺は孤立、完膚なきまでに敗けだ」

『じゃあ何で進んでるのよ?』

『部隊は敗けても貴方は負けてないのでしょう?』

「........」

『なら腐るな、生きて帰ってから嘆け』

「........わかったよ」


励ましてくれたこいつらだって余裕はないはずだ、絶賛迎撃中のはずなのだ。そんなやつらに気を使わせてしまった。........やりますか、気合い入れ直して。


ーーーーーー


歩いていたらまた広いところに出た。さっきの場所とよく似た広い円形の広場である。強いて違うところをあげるとしたら、目の前にバカでかい扉があるってことかな、発光してるやつ。

ふと上を見ると月が見えた。この上は吹き抜けになっていたが、だいぶ深いようで月が胡麻のように小さく見える。

その時、通信の呼び出し音が聞こえた。今まで不通だったのに、ここに来てようやく繋がるようになったらしい。


「........俺だ」

『あ、繋がった!よかったぁ~』


先生の声だ。どうやらまだ正門は破られてないらしい、ヤバイと報告を受けてはいたがまだ持ちこたえられそうだ。


「先生、大佐はどうだ?そっちについたろう?」

『それが........』

「何だ?」

『ごめんなさい........』

「........マジか」


先生は明確に答えないが、その一言で十分理解できた。


「........マジかぁ」


と同時に俺のなかに粘り気がある黒々とした感情が渦巻く。久しく感じてなかった絶望、怒り、やるせなさ、後悔、そして悲しみ。そんな感情を1つの大鍋にぶちこんで煮詰めたようなもんだ。


「大佐はよぉ、何て言ってた?」

『え?』

「なんか、言わなかったか?」

『........何も言ってねぇよ』

「そうかい」

『だけど笑ってたぞ』


ハハ、そりゃあいいや。能天気な大佐らしい最期じゃんか。


『他のみんなとも連絡がつかない。ニールとネールで呼び続けてるけどうんともすんとも言わないんだ』

「........今は俺1人って訳かい」

『まだそう決まった訳じゃ........』


確かに俺と同じで電波障害で繋がらないだけかもしれない。だが、今ここにいない味方はやられたと思った方がいい。


「今俺の前にバカでかい扉があってな。いかにも親玉がいそうな雰囲気を醸してるんだが」

『まさか、一人で行くのか!?』

「味方は待てない。外の大軍だってそう長いこと足止めはできねぇんだぜ?」

『........』

「生きてるやつが死んだやつの願いを叶えなきゃならん。俺は大佐やジョニーの願いを叶える義務がある」

『........だけど、それじゃあ死にに行くようなもんだろ』

『みんないなくなって悲しいんだ。アンタにだっていなくなってほしくないよ........』


この先生、あたかも俺が犬死にするかのような物言いである。なめられたもんだね。


「じゃあこうしよう。俺の部下が今から他の連中を探しにいく、全員見つけたら先生たちはここから離脱しろ」

『なっ........』

「確かに俺たちは敗けた、潔く退くべきだろう」

「だが、このまま指くわえて見てるのは癪なんだよ」

『........でも』

「異論は聞かねぇ、じゃな」


先生の言い分を聞く前に通信を切断する。まあ、あと10分くらいで回収できるだろう。それまでに気になっていたことを片付けますかね。


「で?誰だか知らんがいつまでそこにいる気だ?」


振り返ることなく入り口に声をかける。とりあえず気配で何かしらがついてきてるのはわかってた。声をかけられて動揺してるようだが、出てくるそぶりは見せない。


「あそ、ホラよ」

ドゴオオオオン!!


生憎と今の俺は虫の居所が悪い。とにかくむしゃくしゃするもんだから腹いせにロケット弾をぶちこむ。........つくづくキレてるな、俺。


「けふ、けほっ........何するんですか」


聞こえてきたのは聞きなれない声だったが、高い声だ。女の声とも声変わり前の子供の声ともとれるような声だ。........誰だ?煙で見えん。


「........ご主人~、どこですか~」


何さご主人って。ここ俺しかいないんだけど。


「........何者だ?」

「あ、見つけました!」


声をかけたら探し物が見つかったようだ、よかったなどこの誰だか知らんけども!

などと考えていたので、俺は煙の中からなにかが出てきたのに気づくのが遅れた。誰かではなく何かと形容すべきだったのと、それが俺の予想より小さかったのもあるかもしれない。


「やっと追いついた、速いですよご主人」

「........え?」


........俺は思うんだ、本当に驚く場面って見馴れたものの予想外のへんかだとおもうんだよ。この世界で戦って、そこそこ奇想天外摩訶不思議な目にあった俺としては、今さら未知に対する驚きはそんなにない。

つまるところ何が言いたいかと言えば、まさか目の前の呼んだおぼえのないやつが言葉を発しながらここにいる現実は、さすがの俺もビビった。


「お前は仙里ィ!?」

「そうですが何か?」


まさに「キィェェェアアァァァシャアベッタァァァァ!!」である。頭のいい狐だとは何となく思ってたけど、喋るなんて俺聞いてない。


「お前喋れたの?」

「はい、今まで自重してましたけど」

「何でさ?」

「喋ったら皆さんが引くかと思って」

「あー........」


思えば無さそうでありそうな面子だよなぁ。先生なんかくまなくいじり回しそうだし。........仙里レイプ目待ったなしだな。


「何しに来たの?お前」

「私も皆さんをサポートしようかと思ったのですが、置いていかれましたので」

「寝てたしな」

「普段は叩き起こして弄ぶくせにですか?」

「今は遊びじゃないのだよ」


だいたい俺の頭で寝るようなやつに何が出来るのか。ファンタジーよろしく魔法のひとつでもぶっ話してくれるとでも言うのか。


「私の知識量を甘くみてますか?」

「お前誇れるだけの知識があんの?」

「私はこう見えても2000年は生きてるんですよ」

「そうか。俺の方が歳上だな」

「うっ」


お前、俺を相手に長生き自慢してどうすんのさ。俺がどんだけ生きてるか知らないわけでもないだろうに。


「この世界では私の方が圧倒的に先輩です」

「わお、そう来たか」

「ここで何が起きてるかはだいたい把握できてます」

「おお、そりゃあすごい」

「........あんまりスゴそうに聞こえませんけど」

「気にするな」


あー、やっぱ1人でいるより楽でいいや。さっきまでイライラしてたのがスッとして来た。


「........お前の知識はこの先でもホントに機能するんだろうな?」

「創造神召喚の術式は前にも見たことがあります。問題ありません」

「前?そりゃいつだよ」

「ハンク魔導師の時に」


かつての英雄様か。それならどうすればいいのかってのは対処できそうだな。


『隊長、味方の収容を完了しました』


........きっかり10分である、さすがに仕事が早いな。


(で?何人生きてた?)

『........申し訳ありません、全滅です』

(........そうかい)

『隊長........』

(何も言うな、聞きたくない)

『回収部隊は外の戦闘に復帰いたします』

(........頼む)


まあ予想はしてた。だけども悲しいなんてもんじゃない、今すぐ泣き出したいくらいだ。だが今はそれよりやることがある。


「........先生、聞こえるか?」

『聞こえてるよ........』


通信越しの先生の声はさっきよりも更に沈んでいる。よく聞けば先生とは別に嗚咽のような声が聞こえてる、ニールとネールだろうなぁ。


「........ついたろ?退け」

『........』

「泣きべそはてきのいないところでかけよな」

『泣いてねーよ誰も』

「通信越しに嗚咽が聞こえるんだが?」

『........うるせぇよ、何であんたはケロッとしてるんだよ!』


先生は絞り出すような悲痛な声を出す。机を叩いたのか、バン!と音もした。


「ケロッとしてるように聞こえるか」

『そうだよ!あんた以外みんな死んだんだぞ!なのに何で涙も流さずに指図できるんだよ!?』

「喚いてなんになる?」

『っ!』

「俺が敵前でみっともなく泣きわめけば皆は帰ってくるか?」

『それは........』

「俺はよ、傭兵なんだよ。依頼人がくたばったところで流す涙なんかないし、金にもならねぇ」

「俺は依頼を遂行するだけだ」

『そんなこと........!』

「もう切るぞ。せいぜい俺に幻滅することだな」

『『刃人~』』


いきなり先生以外のぐずぐすの声が唐突に聞こえた。いつもの間延びした声じゃない辺り、相当追い詰められてるな。........最も、家族同然だったやつが冷たくなってるとありゃ一生のトラウマだろうからな。


『刃人はいなくならないよね?』

『生きてるよね?』

「........そうだなぁ、保証はできんな」

『やだよぉ、そんなのぉ........』

『皆といてよぉ』

「........切るぞ」

『いやぁ!やだぁ!』

『置いてかないでぇ!帰ってきてよぉ!』

ブツッ!


通信を切断し、耳から通信機をはずして踏み潰す。........もう聞こえないはずなのに、まだ耳に残っていた。


「ご主人、大丈夫ですか?」

「........微妙だ」

「嘘つくのがうまいんですね」

「嘘は言ってねぇよ?依頼人や赤の他人に流す涙は持ち合わせてねぇが.......」


俺の頬を何かしらの液体が伝って落ちた。チキショー、誰だ上から水撒いてるやつは。


「戦友のために流す涙くらいは持ち合わせてるつもりだ」


おまけに目も霞むと来たもんだ。全く迷惑な話だぜ。














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