傭兵&大佐VS天才狂人
大変長らくお待たせしました
それではどうかお付き合いくださいませ
「........来る!」
俺たちが回避行動を行うのとそれが飛び出してくるのはほぼ同時だった。ヒューがいるであろう紫のモヤから出てきたそれは頭は犬で胴体は猿の異形の獣だった。しかも2体。
「なんだこいつは!?」
「知らないよ!」
2体出てきたってことはこいつがヒューってことはなさそうなんだが、ヤツはいったいどんな能力を持っているのかがイマイチ理解できない。
それにこの地形は圧倒的に不利だ。何せ遮蔽物が一切ないし、逃げ場もなければ足元を崩して隠れ場所を作ることもできない。万が一床ぶち抜いたりしたらとんでもないことになる。
「フン!」
「セイ!」
ただひとつ幸いだったのは出てきたクリーチャーは強くなかったってところだ。始末するのに手間取ることはなく、クリーチャーはあっさりと真っ二つになった。
『器の方は言わずもがな、大佐殿もやり手ですね。では........』
バサァ!と羽ばたく音と共にモヤが払われる。
白衣は無惨に破け身体に引っ掛かっているだけの状態で、その下には鳶色の羽のようなものに被われていた。腕は2本とも翼に変形しており、脚は猛禽類の鋭いそれに変貌している。そして何より変化が著しいのは、変身前はまるで生気のなかった眼がギラギラとした獰猛な目付きに変わっていたことだ。ギョロギョロと獲物をみるその目は狂気が滲んでいた。
「ヒヒヒ........さて、それでは始めましょう。私は『天才狂人』ヒューと申します」
「天才なんだか狂人なんだがどっちかにしろよ!」
突っ込みを入れるがヒューはそんなことは聞こえないとばかりに飛び上がり俺らの頭上を一回り旋回する。それが合図だったようだ。
壁に無数の穴が開き、中に潜んでいたらしいクリーチャーが大群で出てきた。最低でも2つ、多い個体で4つの動物の特徴を持った。統一感のまるでないその大群は統制のとれた動きで俺たちを攻め立てる。
「見かけによらず頭がいいなこいつら!」
「くっ........しかもこいつら、ボクらを引きはなそうとしてる」
斬っても斬ってもどんどん湧いてくるこの敵はその統制と数の暴力で俺たちを包囲、分断するように立ち回る。
指揮しているのは間違いなくヒューだろうが、かつかつなこの状況で飛行するヒューに攻撃を仕掛けるのはさすがに無理だった。
ーーーーーー
「........くそったれめ」
「ハァッ、ハァッ........」
大佐と俺でトータル100匹は斬ったかってところで俺たちは完全に分断された。周りには大小さまざまのクリーチャーが見えるばかりで、お互いの姿すら見えない。
疲弊した俺たちを見てヒューが動く。今まで旋回して様子を探るだけだったのが、いきなり急降下を仕掛けてくる。そしてヒューの動きに呼応して、今まで俺を包囲していた連中の大半が大佐の方に向かう。野郎、大佐を押し潰す気か!
「お前ら、大佐を援護しろ!」
「「「了解!」」」
分厚いクリーチャーの壁とヒューに阻まれ、俺に出来ることは手元に予備戦力として残しておいた手勢を大佐の援護に差し向ける事くらいだった。
(死んでくれるなよ........)
大佐の姿こそ見えないが、クリーチャーが野太い悲鳴と共に宙に舞ったりしてるのでとりあえず健在なようだ。........今はそれよりも目の前のヤツを何とかしなけりゃいけない。
「敵勢力の分断は戦略の基本です。そんな顔で私を睨まないで頂きたいですね」
「そこに関してあえて文句は言わねぇが、お前が相変わらずいけすかねぇ野郎だってのは変わらん」
「ほぉ、ではあなたは私を倒すおつもりだと?」
「問題あるか?」
「いいえ?なぜならあなたは論理的に考えて私を倒せるはずがないのですから」
「そうかい、ならその鼻っ柱をへし折られてからおんなじ言葉を聞かせてくれ」
言葉を切ると同時にライフルの引き金を引く。が、それはいとも簡単にヒラリと避けられた。いくらお前が化け物じみてるからってライフルを避けるってどうなってんだよ。
「私を知らない貴方には私に触れることすらできないでしょう。適度に痛めつけさせていただきますよ」
今度はヒューの急降下が迫ってくる。猛禽の鋭い脚爪は俺を引き裂かんとばかりに立っている。
「クズめ!これでも喰らえ!」
その辺にいた適当な人型クリーチャーを腕力強化で投げつける。派手に回転しながら飛んでいくクリーチャーをヒューは俺の代わりに掴んだ。お陰で俺はヒューの爪から逃れることができたが、楽観は出来ない。上を取られてるだけでこちとら圧倒的に不利なのだ。
「なるほどそれが魂の力ですか........実物は聞いたものよりも強力なものですね、認識を改める必要がありそうだ」
「よく喋る鳥野郎だな」
「ええ、では喋るついでにクイズをひとつ。人間の隙を作る上でもっとも有効なものはなんだと思いますか?」
「知るか!」
撃ちながら吐き捨てるように叫ぶ。それでもヒューの人を見下したかのような笑みは止まらない。第一、そんなもんは人それぞれだ、真面目に考える方が馬鹿馬鹿しい。
「おおよそあなたの考える通り、この問いに答えはいくつもあります」
「!?」
え?読まれた?
「ですがあえて1つ答えを出すとするならば........ 」
その台詞とともにヒューがさっきから掴んでいたものに変化が起こる。
それはメキメキボコボコと本来は鳴るはずのない音をたてながら苦悶の表情を浮かべる。やがてそいつは絞り出すような悲鳴ともとれる声をあげ絶命した。
「人の理解を越えたことをして見せることでしょう」
いや、正確には死んだかどうかよくわからない。なぜならさっきまでそいつが捕まれていたヒューの爪には、代わりに凶悪な形をした剣が1本握られていたからだ。
「........っ」
確かに理解を越えていた。俺の視覚が正常なら、俺の目の前で有機物だったクリーチャーが無機物の剣となったのだ。人間が知る限りのあらゆる理を無視した所業が俺の目の前で起きた。もはや魔法云々ではどうしようもないようなことを目の前の敵はピクリとも動かずにやってのけたのだ。
「知は力なり、と言いましてね?これが私の戦い方です。逆に言えば、無知は弱者なのです」
「........それは知ってる云々を越えてるぞ」
「そうでしょう。ですが、あなたが私を理解できない限り、あなたは私に蹂躙されるしかないのです」
........悔しい話だか、ヤツの言い分は割りと的を射ている。俺とヤツとじゃ情報量の差が圧倒的だ。俺は手探りでヒューの攻略法を探す間、ヤツは的確に立ち回るだろう。しかもこっちは大佐を援護しなくちゃならねぇ、こいつにいつまでも構ってるわけにはいかないのだ。
「せいぜい焦ってください。そうすればそれだけ私は楽に勝てますので」
「........言わせておけば!」
引き金を引こうとしたそのとき、なぜか俺の身体は横に吹っ飛んだ。思考やら呼吸やら全ての機能が一時ストップする。
何事かと思えば、どうやら俺は単純にクリーチャーに殴られたらしい。無数の獰猛な眼がこちらをギラギラと見つめているのが見えた。
「おやおや、どうやら終わったようですね」
「........何?」
ヒューの一言が聞こえた、終わったと。俺は何を言っているのかがイマイチ理解できない。俺はこうして生きているし戦える。まだ終わってはいない。
それにヒューはこちらを見ていない。その眼はクリーチャーの大群の向こうに向けられているように見えた。........そして全てを悟った。
「........退けぇええ!!」
その時、俺の視界が真っ赤になった。上げた雄叫びとも言える叫び声とは裏腹に、自分の意識は驚くほど冷静だった。俺の身体がまるで別の人間のものであるかのように目の前の有象無象を斬りまくる。
確かめずにはいられなかった。俺の立てた最悪の予想が外れていることを願いながら俺はクリーチャーの壁を怒りに身を任せながら削っていく。
その間、ヒューは終始手を出さなかった。ただ、水溜まりの中でもがく蟻を眺めるような眼をしながら俺を眺めていた。
「........!!」
壁を抜けたその先に、俺は見てしまった。横たわる仲間の中に、1人だけ血溜まりを作って倒れ伏すものがいた。
時間をかけた挙げ句このぐだぐだ、お許しください。
それではこの辺で失礼します




