傭兵たちと最後の獣
お待たせしました。
それではどうかお付き合いくださいませ
「........だから悪かったって。いつまでヘソ曲げてんだよ」
「........フン」
「勘弁してくれ。敵が出てきたらどうすんだよ」
「傭兵が1人でやればいいと思うよ?ボクはボクでやるから」
大佐、ただいま不貞腐れ中である。あまりにも露骨に機嫌が悪いため、俺はこうして敵地にも関わらず大佐の機嫌を元に戻すのに必死なのだ。........そこまで怒ることでもないだろ。
「え、なにそれひどい。そこ踏むなよ?」
「ん、よっと........だって傭兵はボク1人でもいいんでしょ?ならボクは傭兵を助けないから。........そこ、ブービートラップ」
「ぬ、どっこらせっと........。バカ言え、依頼人ほっぽって今さら逃げ出せるかよ。あと上」
「ふぁ!?ビックリした........信じていいんだよね?そのセリフ、あと横」
「ホゲェ!?竹槍はねぇだろ竹槍は。........結構付き合い長いのにこの信用のなさ、俺は悲しいぜ」
「自業自得でしょ」
こんなアホみたいな会話をしてはいるが、ただいまトラップによる熱烈な歓迎の真っ最中である。
通路に縦横無尽に仕掛けられたロープや重量センサーを避けながら進むが、どうしても作動させてしまうトラップもある。
それらも起動スイッチと同様に足元に限らず、壁や天井からも縦横無尽に出てくる。そんなダバダバと出てくるトラップをいなしながら前進を続けるが、レーザーセンサーみたいなトラップがないのがせめてもの救いである。2人並んで進むのが精一杯のこの狭い通路にこのトラップの密度はこれまでとは比較にならない執念を感じる。どうやらよほど侵入者を通したくないらしい。
「し、しかし大佐よ。その薙刀捌きはどこで習得したんだ?デスクワーク派の大佐には少しばかし似合わないと思うんだが........」
「ん?ああこれね」
少々強引に話題を変えたが、気になっていたのも事実だ。
グレーゾーンで少しだけ見ただけだったが、大佐の戦闘技術は並大抵のものではない。飛び道具は弾くし、自身の間合いに持ち込むまでの一連の動作には無駄がない。それだけの技術を習得するには俺みたいにアホみたいな時間を戦い抜くか、才能と良い師に恵まれ、たゆまぬ努力を重ねる必要がある。最も後者は例え要素が揃っていたとしても一流と呼ばれる域にたどり着けるとは限らないのだが。
「ウチはお母様が厳しい人でね、子供の頃からいろんなことを叩き込まれたんだよね」
「その薙刀もか?」
「うん」
........どんなだよ、大佐の母ちゃんって。わかるのは大佐の師匠ってことは鬼強いってことくらいか?
「なのに料理は下手くそなんだな」
「うぐ........ボクも散々言われたよ。何で料理だけは上達しないのかって」
「何でだろうな?」
「あれは何よりも複雑だよ。あれで稼ぐ人がわからないね」
「慣れだろ。大佐も俺くらい長生きすりゃ一流シェフだぜ?」
「え?何だって?人間やめろって?」
「怖い怖い怖い、その顔やめて」
ジョークじゃん!そこまで怒ることないだろ!そんなことで人を殺せる顔しないで!
「しかし、そんな母ちゃんなら会ってみたいもんだな」
「え!?........そんないきなり言われても困るよ///」
........あー、今の発言は少々あれだったか?なんか大佐もくねくねしだしたし、やっちまったことは明白だ。
「なんか勘違いしてると思うから言うけどな、俺は大佐の師匠にあってみたいってだけだぜ?」
「!?........~~~っ!!」
「........大佐やーい」
「このバカ!」
「へぶち!」
盛大に平手打ちをかまされた。まあ予想はしてたが、やっぱり痛い。そんなことを逃げる大佐を眺めながら考えていた。........ってちょっと待て、ここで置いてかれたら辛いだろうが!あ~ほら見ろ!片っ端からトラップ作動させやがって。喰らうの俺じゃねぇか!
「大佐待て!置いてくんじゃねぇ!うぉ、うぉおおおお!?」
ーーーーーー
「........あだだだ、エライ目にあったぜ」
大佐を追って進むこと5分ほど、俺の精神はすでに満身創痍である。
あの大佐、わかってやってるのかは知らないがご丁寧にトラップを作動させて進んでいきやがった。おかげでこの時点で落とし穴に2回、吊り天井に1回、横からの竹槍に3回遭遇し、なおかつ猛獣のような生物を3匹仕留めた。........どことなく物語に出てきそうなキメラっぽかったが、ありゃ一体何だったのか。
「お、いた」
通路のすぐ先に大佐らしき姿が見えた。俺の足音を聞いたのか振り向いたその顔は間違いなく大佐である。........さすがに偽物じゃないと思うが、いささか怖ぇな。
「あ、傭兵。遅かったね」
「........誰のせいだと思ってんだ?あ?」
俺は大佐の尻拭いのせいで足止めされたんだがねぇ。そこんとこどうなんだろうなぁ大佐様よぉ?
........とはいえ、ガタガタ言っても仕方ねぇわな、ここは1つ冷静にだな。
「で?こんなとこで何してんだよ」
「........これ、どうしよう」
そう言って大佐は前を指差す。そこには通路と同じ幅の縦穴があった。吹き抜けのようになっているらしく、風が流れる音がする。........これじゃ止まるしかないよな。
「どうしようか、これじゃ進めないよ」
「それもそうだが........この縦穴、覗いたりしてないよな?」
「え、してないけど........」
「それで正解だ」
大佐を下がらせてナイフを1本、縦穴の壁に向かって投げる。すると目の前を何かが高速で通り過ぎていった。圧倒的な質量を持ったそれは轟音をたてながら落下していく。
「........よかったな大佐。迂闊に覗かなくて」
「........(パクパク)」
おー、ビビっとるビビっとる。って当たり前か、今のだと首だけ出したらその瞬間首と胴体はお別れだからな。
「........と、とにかく、もう出した大丈夫だよね。トラップは不発だったんだし」
「どうだか、な!」
2本目のナイフを投げると、また何かが上から降ってきた。今度はちゃんと槍が大量に降ってくるのが見えた。
「考えてもみろ。今までの通路だってあれほどのトラップだらけだったんだ。ここに仕掛けてないとどうして言える?」
「なるほど、まして通過するのに一筋縄ではいかないこの通路なら仕掛けてないと思うよね」
「そうだな、現に大佐は引っ掛かりかけてたしな」
「一言余計だよ」
その後も2回ほどナイフを投げ、通算5回目でトラップは出てこなくなった。........4発も仕掛けてあるなんて執念深すぎだろ!
なんて思いながら縦穴を確認する。かすかに月明かりが入ってきている。上はそのまま外に繋がっているようだ。そこまでの横の壁に穴が開いているのはさっきのトラップのものだろう。
「........うへぇ、なんだありゃ」
問題は下だった。とにかく高い、目測だけでも100mは越えてるように見える。そんなどこまでも続いていそうな奈落の穴の先には紫ともピンクとも言いがたい光が見えた。とても禍々しく、妖しく、それでいてどこか魅力的な光だ。油断していると吸い込まれるように落ちちまいそうな言い知れぬ感覚に襲われる。
「........どう見ても目的地は下だよね?」
「だろうな」
「........行く?」
「大佐は帰ってもいいぞ?」
わりと冗談抜きで。
「いや、ここまで来たんだもん。最後まで、ね」
「あんた大将だろうがよ」
「いいじゃん。大将って言ってもお飾りみたいなものだし。ボクが死んでもこの部隊はそう簡単に瓦解したりしないよ」
「........」
でしょ?と首を傾けて微笑んでみせる大佐を見て、俺は内心不安だった。彼女にだって何か思うところがあるのだろうが、これから突入するのは本当の意味で死地だ。俺が大佐を護りきれる保証はないのだ。そんな場所にもし大佐が1人の戦士として行こうと考えているのなら、俺は大佐の心を問い直す必要がある。
「わかるよ。傭兵はボクが何を思ってこの先に行くかって考えてるでしょ」
「........」
「安心して。ボクが行くのはこの部隊を預かってるからだよ」
「........ほお」
なら聞かせてもらいましょう、大佐の心を。
「ボクが唱えた荒唐無稽なただの夢を、傭兵たちがここまで形にしてくれた」
「この馬鹿げた世界で掲げた、馬鹿げた夢を否定せずに協力してくれる人たちがいた」
「キルオン、アリス、ニール、ネール、クレイグ、ガルシア大将にヤチヨ先生、........そして傭兵、君たちがボクの夢をここまで大きくしてくれた」
「だけどこれはボクの夢だ。みんなに寄りかかったままでいるわけにはいかない」
「だからせめて最後はボクが先頭に立つ。ボクが部隊を預かるものとして、みんなと肩を並べて戦うんだよ」
........思いっきり私情じゃんか、指揮官としては失格だ。だが、ここまで言われて追い返す気にもならなかった。言ってやったぜみたいなドヤ顔がイラッとくるけどそこは見なかったことにしとこう。
「そこまで言うんなら止めねぇけどよ。俺は必ずしも大佐を護りきれる自信はねぇから、そこんとこ覚えといてくれよ?」
「死なないよ。ボクがしたいのは死んで英雄になることじゃないもん」
「ならいい。さて、行きますか」
「え、どうやって?」
「こうやって」
「え?ちょ、わあぁ!」
大佐を抱き抱えて縦穴の壁に向かって縁に立つ。いわゆるお姫様抱っこの体勢を半ば不意打ち気味でやられた大佐の顔は真っ赤だ。この大佐、リアクションがいい。おかげでこっちは大分リラックスできた。
「ちょっと傭兵!ここをどこだと思ってるの!?変なことしないでよ!?」
「何されると思ったのかは触れないでおいてやるから騒ぐな。振り落とすぞ?」
そのまま大佐がおとなしくなってから一息に飛び降りる。これだけの高さから自由落下で着地するのは本来は無理だ。........バカ正直に落ちればの話だが。
「うわあああぁぁぁ........」
「うるせぇ、よく見ろ」
「あああぁぁぁ........あれ?」
俺たちはちょうど頭の位置がさっきまでの床と同じ高さになっていた。
種明かしをすれば何てことはない、ただ魂の力を使って不可視の足場を作ってるだけなのだ。ちょっとした力の応用で習得したこの技術は空中歩行とかに使えて中々重宝している。
このまま足場を出したり消したりで少しずつ下まで行くのが作戦である。ちなみに俺しか乗れないために大佐を抱えてるわけだが。当の彼女はなぜ抱えるのかと顔を真っ赤にしながら喚く。
「こんな方法があるなら下ろしてくれてもいいでしょ!?放してよ!」
「それでもいいがまっ逆さまだぜ?」
「!」
「おとなしくしとけ、な?」
「........うん」
墜ちると脅すと青くなり、しばらくすると真っ赤になる。中々どうして面白い。
ーーーーーー
「到着」
「う、うう........///」
ようやく本物の足場に降りたが、ここもまたヤバそうな場所である。円形の広間のような空間で、床一面に魔方陣のような複雑な紋様が刻まれている。そしてその魔方陣の中心に向かって部屋の端から何かの流れのようなものが注ぎ込まれている。そのせいでこの空間全体が紫の光に包まれている。
どうやら吹き抜けに蓋をするように俺たちがいる広間があって、そのすぐ下に何かがあるというのがこの空間の構造らしい。
「お待ちしてましたよ」
「「!?」」
いきなり俺たちのものではない声が聞こえた。その方向を見るとどこかに続いているであろう通路のところに、1人の男が立っていた。
白髪白衣に老け気味の顔、そしてこんなところにいる男は思い当たる限り1人しかいない。
「ヒュー........」
「器にガーンズの大佐殿、やはりここで正解でしたね」
「........まるで俺らがここを通るのがわかってたって口ぶりだな」
「悪いけど、今は君の相手は出来ないんだ。そこを退いてもらえるかな?」
大佐が台詞を言い終わるのと薙刀を構えるのは同時だった。その構えは一分の隙もなく大佐の本気がそこにあった。
「そう慌てないでください。まずはお喋りを楽しみましょう」
「こいつ........!」
「大佐、耳を貸すな。俺に任せろ」
「........わかった」
大佐の前に1歩踏み出し、ヒューと対峙する。辺りに漂い始めた緊張感が痛い。戦いはすでに始まっているのだ。
「何だ、舌戦がお望みか?古風なヤツだな」
「ええ、私は舌戦が大好きでしてね。彼を知り己を知れば百戦危うからず、と言いますから」
「なるほど、そりゃ理に敵った言い分だな」
「ええ、貴方にはお話ししたでしょうが、私は知ることに至上の喜びを感じる質でしてね。こうして今この世界における重要人物にお会いできたことに興奮しているんですよ」
「そうかい、ならしっかり見とけ。お前が拝む最後の顔だからな」
「残念ですがその言葉はお返ししなければなりません」
言葉を言い終わらないうちに、ヒューは紫のモヤに包まれた。毎度お馴染み『獣おろし』の変身である。いきなりやって来たのは初めてだが。
「大佐、来るぞ!」
「任せて!」
相手取るのは最後の獣、相手は未だ未知数だが、このコンビで遅れをとるとは思えない。
「では........いきますよ」
5月末なのに未だに五月病気味です。ああ、何もしたくない........。
それではこの辺で失礼します。




