傭兵たちのミッションスタート
........長くなってしまいましたがご容赦を。
それではどうかお付き合いくださいませ
「........以上が作戦概要だ、何か質問ある?」
「なんというか、燃える作戦ですな大佐殿!」
「うむ、これなら突破できそうですね」
午後7時、日没直後の本部のテントにて作戦の説明がなされた。大佐の説明が終わると各自がそれぞれ思うことを口にする、かくいう俺もこれがほんとに大佐が立てた作戦か疑うほどである。
「しかしまあ、パラシュート降下とは考えたな」
この作戦の課題はいかにしてあの古城に入り込むかだった。城へと通じる陸路は一本道の石橋しかない。そんなところをノコノコと歩いていこうもんなら集中砲火は免れない。加えて城の回りは障害物が一切なく、極めて見通しがいい。航空機で近づくことも考えたが、直接乗り付けるのは困難だ。
そこで大佐が考えたのがパラシュート降下である。古城から2000m上空から黒く塗ったパラシュート降下し、闇夜を利用して古城に侵入しようと言うのだ。中に中庭のようなスペースがあるらしく、そこを制圧してからそこに本部を置き換える。火力は俺がいる限り問題ないので、侵入の点さえクリアされれば概ね完璧な作戦と言える。外からの増援も考えられるのでいっそのこと守りやすい古城の中に本陣をおこうと言うのだ。
しかし俺は同時に疑問に思っていた部分を大佐に尋ねた。
「大佐よ。1つ聞くが、このチーム編成はマジで言ってんのか?」
「マジだけど?」
「........さいですか」
俺が疑問に思っていたのはこの作戦の各員の役割分担である。といっても、突入してマクリルを止める実働部隊と前線には出ないバックアップチームの2つしかないのだが。
チーム割りとしてはバックアップチームがヤチヨ先生とニールとネールで、アタックメンバーが俺、キルオン、クレイグ、大佐、お嬢ちゃん、それに????となっている。
........途中までは感心してたのにここだけでその感情は吹っ飛んでしまった。なんだよこれ........、見ればキルオンはチーム割りまで見ていないらしくケロッとしているがクレイグの方は資料のチーム割りを見て複雑な表情をしている。........クレイグよ、上官とはいえ迷ったら言いなさい、それで死ぬのはお前かもしれんよ?
「まあいいよ、100歩譲って大佐が出るのはわかるよ?大佐の薙刀は強かったし。ま、大将が出るのは考えもんだがな」
「人手は多い方がいいでしょ?」
「まあな、だがよ........お嬢ちゃんまで出るってのはどういうことだ?」
「えっ........あ、ホントだな」
ここでキルオンはようやくチーム割りに目を通して話をつかんだ。と同時に一気に不安そうな顔になる。........無理もない、お嬢ちゃんだもの。
「お兄さん、私が戦うのがそんなに不思議ですか?」
「不思議どころの騒ぎじゃねぇよ。どう見てもお前さんはバックアップだよ」
「フフン、甘く見てもらっては困りますね。今の私はただのひ弱な女の子ではありません!」
そう高らかに声を上げ、上着を颯爽と脱ぎ捨てる。その下には無機質な灰色の鎧のようなものに上半身を覆い尽くされたお嬢ちゃんがいた。どちらかと言えば人の骨格のようなフレームである。........それでも鎧の胸の部分が真っ平らだった。
「アリスちゃん、いきなり服脱ぐなよ」
「キルオン、よく見てください。これぞ私が作り上げたパワードスーツ、名付けて『アーマードヴァルキリー』です!」
「「「お~」」」
その場にいたもの全員がどよめく。まさかそんなものをこさえてたとはな、道理で寝不足みたいな顔をしてるわけだ。........だが達成感に満ちた清々しい顔をするお嬢ちゃんを見て、突っ込むのは野暮だと思った。
「だがよ、それほんとに大丈夫か?この前のヘビーなんたらみてぇにはならねぇよな?」
「そんなはずはありません、これは完璧に戦えます!お兄さん、試しに私に1発パンチをお願いします」
「え、やだよ」
「そこをなんとか!」
やたらと必死である。殴られたがる女の子とはいささかどうなの?と思うところだが、あまりに必死なので1発だけぶち込むことにした。
「ソイヤァ!」
「ふん!」
ガシィィィ!
いつぞやにやった鉄板をぶち抜く程度のパンチを放つ。もちろん寸止めの用意はできてたし、急所も狙わないパンチだ。だが、お嬢ちゃんは俺の予想に反してそのパンチを受け止めて見せた。しかも片手、直立姿勢で。
「ぶったまげたな、まさか止められるとは........」
「どうですか!これで『エセ厨二病技術者www』なんて言わせません!」
「お、おう........」
「誰だそんなこと言ったのは!オデがとっちめてやる!」
ホントに誰がそんなことを言ったのだろうか........。
「納得した?」
「ん?ああ、ここまでやられたら認めるさ。頼むぜお嬢ちゃん」
「はい!」
うん、いい笑顔だ。ファッションで巻かれた顔の包帯がなければさらにいい笑顔だ。........だがまだ言いたいことはあるんだよな。
ーーーーーー
「で、お嬢ちゃんのこともいいとしてだ。この????って何だよ!?」
これだ、これが1番怪しい。隣のクレイグも仕切りに頷いて俺を支持する。正直、初対面の指揮官から渡された作戦資料にこんな記載があったら俺は確実に作戦を降りる。それでも真面目にやってるのは俺が大佐がどんなやつかを知ってるからだ。いらねぇことしやがって........もったいぶってもいいことなんざ1つもねぇぞ?。
「ああ、それね。そろそろ来ると思うよ?」
「来る?」
来る、という単語が出てきたのとその音が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
バババババ........。
すると外から騒がしい音が響いてきたって音からしてどうやらこのテントの前にガンシップが来たようだ。
「待たせたな!お前ら」
「チェンジ」
「な、何だと!?」
入ってきたのはヤチヨ先生だった。いないとは思っていたが俺が見たい人じゃなかったので自然と言葉が出てしまった。肩透かしを喰らった気分だ。
「何がチェンジだ!あたしじゃ不満だって言うのか!?」
「あー........すまん」
「許さないかんな!女の子にそれは結構な暴言だぞ!?」
「え?男だろ?」
「ふっざけんなぁーー!」
先生をからかうのは面白いんだが、相手をするのもめんどくさいので、姿勢を低くして突進してくる先生をアイアンクローで止める。ムンズと顔面を掴まれた先生は1発でおとなしくなった。自分で蒔いた種はキチンと始末をつける、これ大事。
「お元気そうで~」
「イツキ~頼まれもの~」
続いてニールとネールのコンビが入ってくる。........どうやらバックアップチームは必要な機材なんかを運んできたようだ。
「えっと........どこ?」
「おじちゃんが持ってくる~」
「すぐそこ~」
「おーう、入るぞ~」
そして外から4人目の声がする。野太くたくましい声から、結構年のいった男であることはわかった。........?どっかで聞いたような。
「よっと、遅れてすまねぇなイツキの嬢ちゃん」
「お構い無く、むしろ退役したにも関わらずご協力頂き感謝します」
「マクリルの野郎には戦場でも世話になったからな。お礼参りの機会をくれてありがとよ」
「........マジか」
「おう!あんちゃんよ、よろしく頼むぜ!」
........また頼もしすぎる援軍が来たもんだ。黒光りする筋骨隆々のじいさん、いつもはピチピチのシャツに年季の入ったエプロンだが、今はゴツい鎧を身に纏い、背中にはバルカン砲とおぼしき重火器とバスタードソードを担いでいる。
紛れもなく定食屋『味おやじ』店主にして元ガーンズ軍大将、ガルシアであった。
「........頼もしすぎだろ」
「期待してくれんなよ?若ぇもんに負ける気はねぇがもう歳だからな、身体はガタガタだ」
「何を仰いますか、まだまだ現役でしょう?」
「おだてても飯しか出してやれんぞ?」
ガッハッハと豪快に笑う大将。老いてもなおこの胆力と鎧を身に付けても何ともない体力は、彼の全盛期は恐ろしいほど凄まじかったに違いないと想像させるには十分すぎた。
「ボス、ご無沙汰しております」
「クレイグか、元気でやってるか?」
「はっ、おかげさまで日々を生き延びております」
「まあ、そう堅くなるな。また前みたいにやろうや」
「お供いたします!」
「え?あんたら知り合いなの?」
クレイグと大将が意気投合してるのは珍しい、というより俺は今までこの二人が顔を会わせたのを見たことがなかった。........ボスって何だ。
「ボスは俺が新兵の頃の部隊長だった方だ」
「そうだ、なかなか筋がよくてな、手がかからねぇ良くできた兵だったぜ」
「恐縮です」
なるほどな、かつての上司と部下だったって訳だ。こりゃ期待せざるを得ないな。
「さて、役者は揃った」
大佐の一言でそれまでの和やかな空気は一変し、適度な緊張感のある空気になった。皆が真剣である。
「降下開始はフタマルサンマル、それまで全員ガンシップで待機、高速飛行状態からの降下だから繊細な降下が求められるが君たちなら何も問題ないと信じてる」
ここではいつもの空気は許されない、すでに戦争は始まっているのだ。ニールとネールでさえ園子とを理解し、決意のようなものを滲ませる目をしていた。
「作戦が始まったら言えないかもしれないから今、言っておくよ。........ここまでボクの理想に賛同してくれてありがとう、ボクは君たちを誇りに思うよ。だから........生きて明日に帰ろう!」
「「「おーう!」」」
大佐の掛け声で拳を天に向かって突き上げる。今、正式に作戦は始まった。
ーーーーーー
20時28分、そろそろガンシップが湖に入る。入ってしまえば古城の上まで2分ほどだ。現在の高度は約3000m、古城から2000m上空である。ここから降下して城に侵入、中庭を制圧するのが第1段階だ。
「........うまくできるでしょうか」
「アリスちゃん、心配ねぇだ。オデにできてアリスちゃんにできねぇことはねぇ」
「しくじったら俺らでカバーするさ」
「キルオン、お兄さん、ありがとうございます」
不安になるのも無理はない。普通のパラシュート降下より明らかに難易度が高いのだ。
『降下地点まであと30秒だ!準備はいいか?』
インカムから先生の声がする。このガンシップを操縦しているのは先生だ。聞けばヘリを飛ばす技術をスパルタで叩き込まれ、3日でこのレベルに到達したらしい。驚異的な成長だ。
余談だが、叩き込んだクレイグによれば、初日は何度も墜落しかけて俺の名前を呼びながら泣き出したそうだ。........頑張ったんだなぁ、と思いつつ爆笑してしまった俺は悪くないはずだ。
『来るぞ。........5秒前、4、3、2、1、降下!』
「行くぜ!」
全員が一斉にガンシップから飛び降りた。その様はまるで暗闇に落ちる光の様だった。
特攻野郎Aチームは面白いですね。私は映画版が好きです。熱源カット!
........失礼しました。それではこの辺で........。




