傭兵と待ちわびた報せ
はい、サボっておりましたすみません。
学校が始まってしまいましたが、どうかお付き合いくださいませ
「........」
「来ちまったなぁ........」
「キルオンか」
眼下に広がる景色を眺めていると、後ろからキルオンに声をかけられた。
その俺の下には大きな湖が広がっている。生い茂る森の中にぽっかり空いた穴の中の水溜まりという方が正しいかもしれない。そして俺たちの目はその湖のほぼ中心にあるものに向けられていた。
「こういうのを雰囲気出てるっていうんだろ?」
「確かにな、いかにもラスボスの居城って感じだ」
目線の先には城があった。半径5㎞はあるその湖の中心にあってもその威容が衰えないほどの厳めしい城である。
「........あれが、最終決戦の場というわけか」
「お、クレイグじゃあねぇか」
「よぉ、お疲れさん」
「フン、お前たちもな」
「ま、これが最終決戦かどうかはわからんよ?」
野郎3人で並んで城を眺める。見据えるのは城だけじゃなく、その先にある戦いだった........。
ーーーーーー
それが伝えられたのは3日ほど前、呼び出されてお馴染みのメンバーで円卓を囲んで集まった時だった。
「大佐殿ォ、しっぽを掴んだってマジですかい?」
「ホントか大佐ぁ!」
「フフン、ボクは嘘はつかないよ?」
「........ホントでしょうか 」
「なんで疑われるのさ........」
調子こそいつも通りだが、回りの空気はキルオンの第一声から張り詰めたものとなっていた。無理もない、最終決戦ないし1つの節目の戦いになるだろうことは間違いないのだ。
「まずこれを見てほしい」
そう言って机に数枚の写真が置かれる。そこにはとても広く青い湖と、そこに浮かぶ古城が写っていた。
「ここはグレーゾーンの南西部、ウィーズよりに位置する場所にある景色だ」
「グレーゾーンって俺らが逃げたときのあそこだろ?あんときはスクラップ置き場みてぇな場所だったような........」
「グレーゾーンって広いんだよ。それこそあんたが思ってるよりずっとな、だから放置されてるんだよ」
首をかしげる先生に耳打ちされ、俺の些細な疑問は吹き飛んだ、ちょっと恥ずかしい。
「敵の指揮官........マクリルと言いましたか、その男が潜伏しているのがここなのですか?」
「その通りだよクレイグ、こらを見てもらえればわかると思う」
写真の下のもう1枚の写真を見ると、そこには城へと通じる一本道の橋の入り口に立つマクリルとおぼしき姿があった。やたらと鮮明で近くから撮られてるが、多分ガーンズ謹製ステルスカメラポットのおかげだろう。ガーンズの科学は世界1ィィィ!!
「確かにお師匠だな」
「........なんかムカムカしてきたぞ、この写真燃やしていいか?」
「やめてよ」
「うーん、見たところ1人みたいですけど........」
「ホントだな、護衛とかいるもんじゃねぇのか?」
「本来ならばあり得ぬ。1国の将ともあろうものが........」
「それなんだけどね........」
さらに別の写真が出される。........いや、正確には図だった。中心が真っ赤なその写真はいかにもサーモグラフィのそれだった。城の部分が真っ赤である。
「熱源探知の結果、すでに相当数の人員や物資が運び込まれてるようなんだ」
「ん~?おかしくねぇですか?オデはあんまり見たことねぇからよくわからんけども、普通こんなに真っ赤になるんですかい?」
「人だけなら、ないわな。だが、稼働して熱を発している機械類があるとしたらどうだ?」
「それこそあり得ない話なんだよね。この古城に何かしらの設備をおいた記録はないし、ウィーズは機械を生産できないから」
「........俺たちの知らない秘密兵器を隠しているのか?」
........勘弁してくれよな。何を隠してるのか知らんけども、サクッと片付けたいもんだぜ。
「大佐よ、今もここにマクリルはいるのか?」
「うん、ここを出たのは確認されてない。それと『獣おろし』の最後の1人も後に確認されたよ」
確かに、話ながら指で指された写真には白髪長身の枝のような男、ヒューが写っていた。
ここまで揃ったらもう決まりだよな。
「........で?大佐の方針は?」
「これだけじゃ決め手に欠けるからね、現地に行ってみようと思う。そして確認がとれたら間髪入れずに攻めるよ」
「何だ?やけにイケイケだな」
どちらかと言えば慎重派の大佐が今回は珍しく前進あるのみと言ってる。他のみんなも気になってるようだ。
「傭兵の話だと、人間が創造神を身体に宿してもそう長くは生きられない。そうだね?」
「ああ、仮にマクリル本人が依り代になったとしても持って1日だな」
「逆に言えば死ぬまでの間に行動されたら容易にこの世界は破壊されかねないというわけだ」
「なるほど........つまり、先に叩いて召喚をやめさせる必要があるわけですね?」
「そう、そのために出来るだけ近くに展開して一気に片をつけたいんだ」
「........了解しました」
「作戦の指揮は今回は全部ボクがやるからね。できれば皆の力を貸してほしいんだけど、........どうかな?」
大佐が俺を見つめる。返答を促してるのはすぐにわかったが、その行動に意味はないのがわからんかねぇ........。
「一体誰に聞いてんだよ?依頼はこなすさ、死なないうちはな」
「なら、オデもダチのために戦うだ」
「キルオンがやるなら、わ、私もやります!」
「国の危機を前に指をくわえて見てる訳にはいかんな」
「みんな........ありがとう、絶対に成功させよう!」
「「「「おー!」」」」
ーーーーーー
そして今に至るわけである。あれから2日で俺達は情報収集と作戦立案を終わらせた。あとは大佐が作戦の微調整をして俺らに示してくれるのを待つだけだ。その間、俺達はこうしてのんびり決戦場を眺めているわけである。
「........誰も、死なねぇよな?」
「さあ?答は終わってからだな」
「激戦必至の戦いが予想される。お前たち、死ぬなよ........」
「やってやる、やってやるんだ!」
「そうだ、やらなきゃ死ぬんだ、やるしかねぇのよ!」
「愚問だったか........」
「クレイグよ、俺らについて学ぶことはまだ多いようだな?」
3人でゲラゲラと笑いながらそれぞれの決意を確かめあう。この調子なら3人とも最後まで戦えるだろう。精神的には問題ない。
「ああ、傭兵たち、ここにいたのか」
後ろから声をかけられて振り返れば、そこには本作戦の最高指揮官様がいらっしゃっていた。........大佐もホイホイ歩き回っていい人でもないんだがね?
「作戦が決まった。今からブリーフィングを始めるから来て」
「おっと、もうそんな時間か」
「そうと決まれば駆け足だ!」
「........フッ」
呼び出された俺達はそれぞれ城を一瞥して踵を返す。湖は西からの日の光で赤く染まっていた。........もうすぐ夜が来る、俺たちにとって最も長い夜が。
最終章は長い、王道ですね。
それではこの辺で失礼します。




