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傭兵in異世界  作者: キリサキ隊長
傭兵の逃走劇
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傭兵の再会

雪山が暑いってどないやねん!

それはそうとお付き合いくださいませ

『伏せて!』

「くっ........!」


響いた女の声に反応してヤチヨ先生が俺を巻き込んで伏せる。俺たちが地面に身体をつけるのと機関銃の音が轟くのはほぼ同時だった。


ガガガガガガガガ!!

「ぐぎゃあ!」

「グエェ!」

「うぁ!」


弾丸が土埃や火花を撒き散らしながら辺りを蹂躙する。被弾して倒れる敵の悲鳴や容赦なく降り注ぐ弾丸の中で俺はようやく冷静さを取り戻してきた。

どうやら俺たちの後ろにはガンシップのような飛行物体がいるらしい。ローターの騒がしい音がそれを教えてくれた。


「........すまん先生。目が覚めた」

「........っ、このバカ!死んだらどうするんだ!」


手加減なしのビンタがとんでくる。避けることも防ぐことも出来たが、俺がバカなのは否定できないので甘んじて受けたが、痛すぎる。ビンタなのにバキッと鳴った。

耐えかねて悶えていると、ガンシップから何かが降りてくる音がした。数は3つ、いや3人と言った方が良さそうだ。


「傭兵、無事かい?」


ビンタの痛みで転げ回っているところに1人の女が声をかけてくる。俺のことを傭兵と呼ぶ人物は1人しかいない。


「大佐........」


そこにいたのは紛れもなく俺の雇い主、イツキ大佐その人だった。いつもの軍服に青白い髪、頭に乗せるような危なっかしい軍帽に無駄にデカイ胸、違うところはその手には薙刀があることか。それでも彼女は最後に顔を会わせたその日より何も変わってはいなかった。


「オデたちもいるぞ!」

「忘れてもらっては困るな、斬崎刃人!」


さらに後ろから多数の飛翔体が敵に向かって飛んでいく。今度は命中こそしないものの、敵を後退させ視界から一掃した。敵を追い払った飛翔体がはミサイルと矢だったが、この組み合わせにも見覚えがある。

射点に目を向けるとそこには2人の男がいた。

1人は細くて緑が基調の軽装服、腰に巻いた毛皮と頭のモフモフした帽子、鉈のようなショートソードが2本と弓が特徴の男。もう1人はそれとは真逆で恵まれた体躯に重装甲、その手には身の丈ほどもある大型ランチャーを装備していた。


「キルオン、クレイグまで........!」

「どうしたジント、いつになくヤバいじゃねぇの」

「らしくないな........」

『私達もいm........』

『『いるよ~』』

『最後まで言わせてください!』


続いてスピーカー越しの声が聞こえる。この声と丁寧語、間延びしたハモり声もまた知っているものだった。


「お嬢ちゃんもか........」

「それにニールちゃんにネールちゃんまで........」


あのガンシップに乗っているのはお嬢ちゃんことアリス中佐とオペレーター姉妹、ニールとネールのようだ。多分あのガンシップはお嬢ちゃんが操っているんだろう。

あまりの超展開に俺と先生は唖然とするほかなかった。いるはずのない、来るはずのない仲間がここにいるのがわからない。

唖然としている間にあっという間に敵が消えていく。大佐に薙ぎ払われ、キルオンに射抜かれ、クレイグに吹き飛ばされ、お嬢ちゃんに蜂の巣にされていく。その場を制圧するのに1分もかからなかった。


「アハハハハハハ!!素晴らしい!流石はマクリル様が追い求めた神の器ですね!」


敵が全て消えたところに今度は心底面白いと言わんばかりの笑いと共にヒューがひょっこり現れる。今まで隠れていたようだ。


「貴様........っ!」

「そんなに身構えないでください、今回は手を引きましょう」

「逃げる?無理だな、この場でバラしてやる!」

「ではご自由に。また会うことになるでしょう」


そう言ってヒューは小石をこちらに放ってくる。構わずにライフルの引き金を引くが、弾丸が小石に当たった瞬間、なんと小石が爆発した。強烈な爆音と煙が辺りに撒き散らされる。不意を突かれて全員が爆発に対する防御を行う。お陰でそれが殺傷能力のないスモークグレネードであることに気づいたときにはヒューに逃げられていた。


ーーーーーー


「ジョニー........」


ヒューが撤退し、この場が安全になると俺はジョニーを埋葬し始めた。先生や大佐たちも何も聴かずに手伝ってくれている。

思えば俺はこの男の事を何も知らない。ジョニーという名前とほんの少しの素性と........本当にそれだけしか知らなかった。


「何で........お前が........」

「傭兵、その........ジョニーさんは」

「戦友だ。最も、俺はやつの事を何1つ知らなかったがな」


志に賛同した、たったそれだけのためにジョニーは俺の代わりに死んでいった。遺言さえ遺せずにだ。

理想に殉じる、その行為はしばしば神聖視され称えられる。だが俺はそうは思わない。理想を叶えるのに犠牲を払ってはいけないのだ。


「誰かを死なせちまうような理想なんて........」

「........ジント、まさか投げ出すのか?」

「犠牲ありきの理想なんていらねぇよ」

「お前ッ........」


クレイグに胸ぐらを捕まれる。身長差で地面から足が離れ、目の前には怒りにまみれるクレイグの顔、だが俺の中には恐怖はなかった。いや、何もなかった。


「俺はジョニーという男がどんな男だったかは知らない。だが、彼の死を悔やんでばかりで歩みを止めようと言うのなら........俺がここでくびり殺してやる!」

「ハッ、軍人にはわかんねぇだろうよ」

「何だと........!」


胸ぐらを締め上げられる。ギリギリと音をたて首がしまるが許しを乞う真似はする気はない。


「ぐっ...お前らは、いいよなぁ........。お前らの戦いは、お前らの為じゃねぇんだからよ!」

「お前ッ........我ら軍人を愚弄しようというのか........!」

「クレイグ!やめて!」


大佐に仲裁に入られ、解放される。咳き込みながら新鮮な空気を貪る。この場にいる全員に「どうしたんだこいつ」みたいな顔をされる。


「........お前らは自分で戦う理由を定めない。護国のため、家族のため、忠義のため........」

「それの何がいけねぇんだ?」

「俺は傭兵だ。戦う理由は俺が決め、その責任も俺が請け負う。今回だって大佐の理想に俺が求めるものがあったから協力したまでだ。俺は俺についてきたやつを生かす義務がある」

「そこまで背負い込む必要は........」

「あるんだよ。それが軍人おまえら傭兵おれたちの違いだ」

「........お兄さんはバカですか!」


それまで黙っていたお嬢ちゃんが爆発した。これまで聞いたどの叫びよりもデカイ声だった気がする。


「それじゃあジョニーさんは無駄死にじゃないですか!もうあなたに投げ出す権利なんてありません!」

「........」

「........アリス中佐の言う通りだよ。確かに君は生かさなければいけないかもしれないけど、もう彼は死んでしまったよ」

「................」

「取り戻せないなら~」

「進まなくちゃ~」

「だが........人を死なせる理想など........」

「ならお前は彼の覚悟を否定するのか?」

「!」

「んだ、そいつは好きでお前についたんだ。死ぬ覚悟なんて出来てたはずだぜ」

「俺は........」

「........ジョニーは言ってたよ。『例え夢半ばで倒れても俺が平和な世の礎になれたなら、あの世で教え子に自慢できる』って」


許されるか否かの問題ではない。問題なのは実際に俺の元で理想に殉じた男がいることだ。俺は戦えるのか、戦っていいのか、この理想を貫いていいのか........。


「ぐっ?!」


俺は思考の途中で意識を手放してしまった。


「........いいのですか?大佐殿」

「今の傭兵ははっきり言って何もできないよ。とりあえず連れて帰ろう」

「そうですね。ここは寒いですし」

「時間をかけて頭を冷やせばいいよ~」


それではこの辺で失礼します~

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