追い詰められる傭兵たち
特に言うことがないですが、どうかお付き合いくださいませ
「傭兵だ!まだ生きてるぞ!」
「裏切り者め!死んでもらうぞ!」
レイチェルと遭遇してから翌日の斬崎一行、ただいま全力疾走中。森を抜けて山岳地帯に入ったはいいが、レイチェルに足止めを食らったのがまずかったのか敵に捕捉されてしまった。後ろからエネルギー弾がビュンビュン飛んでくる、容赦の欠片もない追撃だ。
すでに日が落ちかけているのだが、敵に見つかってる状態では当然足を止められない。........夜間の行軍だけは避けたいところだ。
「このままノンストップはキツいぜ!なんか案はないか?」
「この先ごみ捨て場のようになっている。入り組んだ地形だからうまく敵を撒けるかもしれない」
「よし、それだ!先生、ちょいとすまんね」
「え?何?何なの!?」
地形を利用して隠れるには相手とある程度距離をとって逃げ込む必要がある。しかし先生はこのペースについてくるのがやっとの状態で、これ以上ペースアップはできない。
というわけで先生を小脇に抱えて全速力を出す。この人軽くて助かった........。
「ちょ!何この体勢!そこはお姫様抱っこでしょうよ!」
「うるしゃあ!そんなことしてられっか!」
両手が塞がるし、走る先生を流れ作業でその体勢にするのはなかなか辛い。
「アリスにはしたって聞いたぞ!えこひいきかコノヤロー!」
「それは関係ねぇだろが!」
「2人とも、痴話喧嘩はそのくらいにしてくれ」
「「違うわバカたれ!」」
喧嘩をしつつもペースをあげ続け、土煙をあげる勢いで山を駆け上がる。やがて山を上がりきって稜線に出る。そこには俺の予想を越えた光景が広がっていた。
「........すげぇ」
俺の目の前には火山の噴火口のような大きな円形の窪地が広がっていて、その中は粗大ごみ置き場のようになっていた。別にそこにあるものが珍しい訳ではないが、そのスケールのでかさに圧倒されてしまった。........だが気圧されてる場合じゃねぇ、こうしている間にもせっかく突き放した追っ手の声が聞こえてくる。とりあえず俺達はそのごみ捨て場に潜り込んで身を隠した。
ーーーーーー
「........どうにか撒けたな」
スクラップの中に隠れて敵をやり過ごすことに成功した。スクラップ置き場といっても、ここにはちょっとした湖があったり地面には草や花も多くはないが咲いている。色々な要素の地形に救われたといったところだ。
「しっかしまぁ、ここはウィーズとは思えねぇ場所だな」
辺りを見回しながら思ったことを口にする。ここにあるのは平たく言えば粗大ごみなのだが、中には発電機やエンジンのような物があったりする。つまりこの国にはないはずの機械が捨ててあったりするのだ。
「........ここはグレーゾーンだからな」
「グレーゾーン?」
「ここはどういうわけか異世界から物が漂着してくるんだよ。だから昔から気味悪がられて誰も近寄らないんだ」
「うむ、ここに入り込むと神隠しにあうなんて噂話もあるくらいだ」
そんな曰く付きの場所に紛れ込んだのか俺達........。そう思うとさっきの光景も恐ろしい物に思えてきたぞ。
「故にここはどちらの陣営も立ち入らない、どちらの領土でもないグレーゾーンというわけだ」
辺りはすでに日が落ち切っていて月明かりが唯一の光源になっている。月明かりに照らされた無機質はすべて灰色を浮き上がらせている。
ここには小難しい国同士の問題や互いの素性なんてものはないように思われる。敵か味方か、死ぬか生きるか、逃げ切るか捕まるか、そんな単純な線引きしかない。........なんか俺みたいだ。
「それにしてもあんちくしょう、俺らを置いてトンズラこきやがるたぁな........」
「あぁ........仕方ないと言えばそれまでなんだがな........」
「畜生ではあるわけだしね」
誰がうまいこと言えと........。
「ホントどこ行ったんだろうな、仙里は」
レイチェル襲撃の後、先生とジョニーを起こした俺は仙里がいないことに気づいた。最初は殺られたのかと辺りを探したのだが、仙里はおろか死骸すら見つからなかった。それに近くに仙里のとよく似た足跡があった。
この2つから、逃げたんだろうなという結論に達した。それなりにいい信頼関係ができてたと思うんだが、見捨てられたと思うとショックだ。
「くよくよしても仕方ないだろ。とにかく先に進もうぜ」
「鋭気は養えた。夜の闇に紛れて前進しよう」
「わかった........なら行くぞ、遅れるなよ!」
「残念ですがここまでです」
「「「!?」」」
突然上から声がした。反射的に上を向くとそこには黒いシルエットに2つの黄色い目が光っていた。........なんてこったい、まさか捕捉されてたなんてよ。
この辺で失礼します。




