傭兵の赦し
更新遅れましてすんません。日をかけた割には大したものじゃなくてすんません。
それではどうかお付き合いくださいませ
「やめろぉ........やめてくれぇ」
何も見えない、ただあるのは暗闇だけ。だがそれでも容赦なく聞こえてくる........断末魔が。ある者は泣き叫び、ある者は怒号を発し、またある者は大切な者の無事を願い、苦痛の果てに死んだ。長く聞いていなかった、そしてこの世で最も聞きたくなかった音が今俺を取り囲んで支配しようとしている。........俺はこの結末を知っている。そしてこのあと何があるか、俺がどうなるかも........。そこまで思考がたどり着いた時、俺は再び意識を手放した。
ーーーーーー
「........うあああ!!」
唐突に視界が白く塗りつぶされ、眩しさに目と頭に痛みが走る。そこで俺はようやくさっきまでのは夢で、自分は今目を覚ましたところなんだと気づいた。
........ここはどこだろうか、どうやらさっきまでいた部屋ではないらしい。マクリルや他のやつもいないし長いテーブルもない。
辺りを見回してみると、いくつかわかったことがある。ここはどうやら俺が最初に通された部屋のようだ。俺の荷物がひとまとめにしてあるのと、そこに仙里が寝ているのを見た。俺は今の今までベッドに寝かされていたようだ。そしてもう1つ、ここには俺と仙里以外にもう1人の人物がいた。
「Zzz........」
こいつだ、あの時もいたフードの人物。いびきっぽい息づかいとコックリコックリと上下する頭から、寝てるらしいことはわかった。........誰なんだろうかこいつ、どことなく会ったことがある気がするのだ。声もそれっぽい気がする。
「........むぇ」
なんとも間抜けな声を出して、そいつは起きた。首がカクンっとなったのは中々面白い。何事かと回りを見回すそいつと目が合う。........いや影になってるから目が合ったかはわからんけども。
「お、起きたのか!?」
「うぉ!?」
いきなり肩をガシッと捕まれてガクンガクンと揺さぶられる。お、思ってたよりもパッションなヤツだなこいつ!
「よ、よかったぁ~~!あたしはてっきり死んだかと........」
全力で荒ぶるフード。そのあまりの荒ぶり方にフードが段々とずり落ちていく。........正直言葉がでなかった。なぜならフードの下には、見覚えのある、しかしここにいるはずのない人物の顔があったからだ。
「........マジかよ、先生.....なのか?」
目の前には赤髪に八重歯のヤチヨ先生が、目に涙を浮かべつつ笑っているのが映っていた。........どうやら本人は興奮のためかフードが取れたことに気づいてない。このまま見なかった事にしようかと思ったくらいだ。
「先生、ヤチヨ先生だろ?」
「........え?あ、しまった!」
もう一度声をかけたところで現状が飲み込めたらしい。とにかくやらかしたと顔が青くなったり赤くなったりする。........見ていて楽しい。
いや今はそんなことはどうでもいい。問題は何で先生がここにいるかということだ。というか可能性は1つしかない、スパイだ。
「........そうだよ、あんたの考えてる通りあたしは裏切り者だ」
「........そうかい」
「あんたがあたしと会ったのはごく最近だけど、あたしはあんたがこの世界に来てからずっと見てた」
なるほど、道理で俺のことが敵に筒抜けな訳だ。それにしても全く気づかせなかったとは驚きだぜ、視線も気配もなにも感じなかったぞ?
「........な、なぁ。あんたはあたしをどうするんだ?」
「あ?」
どうするって何をさ........あー、もしかして裏切り者には死を、とか考えてるのか。そうだな、何もしないわけにもいかねぇな。
「それはあんたの裏切りについてか?」
「........うん」
「そうだなぁ........確かに俺が今ここでトラウマを抉られたのも言うなれば先生、あんたのせいだからな」
「........」
「........裏切りの代償、払ってもらおうか?」
「ひぅ...!」
わざとドスの効いた低い声で言ってみる。余程怖かったのか短い悲鳴をあげるヤチヨ先生。この人がしおらしくしてるのは思えば初めて見るかもしれない。目をぎゅっと瞑ってプルプル震えている。覚悟ができてるなら容赦する必要もない、というわけで俺はヤチヨ先生の脳天めがけて........。
「そぉい!」
ガスッ
「ぎゃんっ!」
渾身のチョップをかましてやった。
「いったぁ~~~っ、何すんだこのバカ!」
「やかましい先生だな、これでチャラにしてやるってんだよ」
「え?」
まあ確かに軍事作戦の関係者の情報漏洩なんて大それた裏切りをチョップ1つでチャラにするなんて俺自身も聞いたことがない。
だが、俺が軍人なら軍に拷問にかけられるとか辱しめられるとかあるかもしれないが、今までの敵の動きを見るからに先生は本当に俺の情報しか流してなかったようだ。たかだか1人の傭兵の情報が漏れたくらいで軍が動くとも思えないし、事実迷惑を被った俺がチャラにすれば問題は解決すると思う。........まあ軍にバレたらどうなるかわからんけども、まだバレてないっぽいからいいか。
「ホントにこんなのでいいのか?あんな事やこんな事とかするんじゃないのか!?」
「あんな事やこんな事やそんな事はせんよ。むしろ一体何をされると思ったのかね?ん?」
「え。そ、それはだな、........えっと....とにかくひどいことだ!」
顔を真っ赤にしながら答える先生を眺めながら思わずクックッと笑いがこぼれる。まあどうせ録な事じゃないんだろうが、今はとにかく先生が面白かった。
「あー、めんどくせぇからこの話は終わりだ。はいやめやめ!」
「お、おう........」
「で?俺はどうなるんだ?」
「うーん、わからん」
わからんって........。まあ、記憶が不本意ながら全部復活してしまったお陰で奴さんが何がしたいかはだいたいわかった。........全くしょうもないことのためにずいぶん回りくどい事をしてくれたもんだ。
「あ、そうだ。これだけはあんたに言っとかなくちゃいけないわ」
「なんぞや」
いきなり先生がかしこまりだす。口調こそいつものままだが、真剣な様子なのは一目ではっきりとわかったのでこちらも一応真剣に聞く体勢をとる。........一体何の告知をされるんだ?
「あたしは確かにあんたを、斬崎を裏切ってたけど。あんたが好きだって言うのだけはホントだから」
「お、おう........」
「と、とにかく!そこんとこだけよく覚えとけよ!じゃあな!」
よく赤くなる顔だなぁと感想を抱いてるうちにヤチヨ先生は言いたいことを言い放ってから走って部屋から出ていってしまった。........うーむそりゃありがたい話なんだけど、どうしたもんか。裏切りのせいでヤチヨ先生に対する好感度は若干下がったのが現状だ。まあ今んとこは頑張ってくれとしか言えない。
別に俺だって全く無関心な訳じゃない。色恋の1つや2つ、恋愛歴0の俺としては気にならないはずがない。
『じゃあすればいいんじゃねえの?』
『私たちならいいわよ別に』
『むしろ失恋までしてこい』
『フラレる痛みまで学んでこいや!』
出たな、お節介野郎ども。毎度毎度手厳しい言葉が俺の心に突き刺さるんだがね?
『誰が野郎よ!』
『おめぇがうだうだしてっからだバーロー』
『さっさとヤチヨ先生なりイツキ大佐なりとくっついちまえよ!』
(やめて!俺のメンタルはもうボロボロなんですけど!)
相変わらずの言いたい放題っぷりである。てかなんだよ!大佐とは付き合いが長いだけだろ!いい加減にしろよ!
『はぁ........これだから隊長は』
『刺されちまいな!』
『バカ野郎この野郎!』
(........ヒドス)
仲間内からも心を痛め付けられた俺はそのま不貞寝を決め込むことにした。ちなみに、仙里のやつは寝てるもんだと思ったらチラチラとたまにこちらを見ていた。........何なんだよお前は。
レポートやテストが終わった俺にもう怖いものなどないわ!........と思いたいですね。
それではこの辺で失礼します




