傭兵、軍門に降る
長くなってしまいました。というかセリフが多くなってしまいました。飽きずに読んでいただければ幸いです。
それではどうかお付き合いくださいませ
「お嬢ちゃん!無事か!?」
「........んっ....んぐ。ケホッ、ゴホ!」
落とされたお嬢ちゃんのところまでどうにか歩み寄る。同時にアサルトアーミーたちに他のパイロットたちの救出も行わせ、陣へと返してやる。1機だけ無事だったヘビーブレイカーのパイロットは恐怖のあまり気絶していた。........無理もないか。
「おにい...さん...」
「おう、そうだ俺だ!よく耐えたな、頑張ったぞ!」
「う...うぅ、ヒッグ........ごめんなさい。ごめんなさいぃ........」
おいおい何でそこで泣くんだよ、何で謝るんだよ。そこは普通生きてることを喜んだりするとこじゃね?
とりあえず話を聞きたいんだが、なかなか泣き止んでくれなくて、ものの5分の間俺は黙ってお嬢ちゃんを抱き締め続けていた。
「........止められてました。お兄さんの仲間の人から」
「だろうな。止めるよう言ったし」
「でも、ホントは私達が戦わなくちゃいけないのに、何でお兄さんだけが死ぬ思いで戦ってるんだろうって........」
「そりゃ、仕事だからだよ」
傭兵ってのはそういうもんだ。金さえもらえてればどんな戦場でも文句を言わずに戦う、軍人の代わりに犠牲になるのも仕事のうちだ。
「なのに私は勝手に出ていって、全然役に立てなくて、挙げ句の果てに私のせいでお兄さんは........!」
「あー........なるほど、お前はそこを気に病んでるわけだ」
なかなかいっちょまえの事を言いやがる。........だが、ちょいと履き違えてるな。
「お嬢ちゃんよ。お前は軍人の仕事ってなんだと思う?」
「........国のために戦う、ですか?」
「さあ、何だろうな?正解なんざ知らん」
「えー........」
戦う意味なんて人それぞれだ。軍人ひとつをとってもそれを構成する人の数だけ意味があると思う。
「それも正解だろうが、俺は国のために生きる事だと思う」
「生きる、ですか?」
「国を守るのが一般的な軍人の勤めだ。だが、死んでどうなる?」
「あ........」
「死んだらすべて終わりだ、職務放棄と何ら変わらんよ。だから軍人だから戦うな、軍人だから生き延びろ」
「でも........」
「お前も軍人の端くれなら大局的に物を見ろ。片や未来ある期待の技術者、片やどこの馬の骨とも知らぬ流れの傭兵。取るならどっちだ?」
「それは........」
言葉に詰まるお嬢ちゃん。........ここまでの繋がりを作っちまうとは、これ帰るときとかどうしよう。
「ま、若いんだから悩めや。とりあえず、帰ろう」
「........!はい!」
そのあと、なんとかお嬢ちゃんのヘビーブレイカーを再稼働させて陣へと帰投した。........これからどうしたもんかな。
ーーーーーー
お嬢ちゃんを返したあと、医療キャンプへと向かう。拳1発でボロクソにされちまったし、投降する前に傷くらい治しておきたい。向こうで戦闘になったら面倒だし。
「........先生、いるか?」
「何さ?ってどうしたんだ!?ボロボロじゃないの!?」
「あー........手強いのがいてな、何とか撃退したんだが、いい一撃をもらっちまったぜ」
先生は少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに治療を始めてくれた。細かい傷が次々と消えていく。相変わらずいい腕してる、薬が。
グリッ!
「あだっ!」
「アンタ、あたしに会うたびに失礼なこと考えるな。あたしの腕がいいからに決まってるだろ?」
「すんません痛いです」
「謝るんならよし!」
わお、この人マジ豪快。
「はい次、胴体治すからそこに寝て」
「あ?わかんの?」
「折れてるんでしょ?さっさとしろ」
「ういうーい」
言われた通りに近くのベッドに横たわる。するとヤチヨ先生は胴体にペタペタとコード付きの........何て言うのか知らんが白い薄っぺらいのをつけ始めた。
「なにこれ」
「さあ?何でも身体に特殊な電波だかなんだかを当てて治癒力を上げるんだって。この国の技術もすごいよな」
「違いない」
「まあ、あんた自身の治癒力も込みで1時間もあれば完全復活するだろ」
骨折が1時間で治るとは、いい世界に来たもんだ。
「なんか悩みでもあんの?」
「........先生、あんた察しよすぎだろ」
一応顔には出ないようにしてたんだがな。この人は心を読めるとでも言うのか?
「察しがいいついでに、何で悩んでるか当ててやろうか?」
「........やってみな」
そういうと腕を組んでうなり出す先生。考える先生のしぐさを見ながら、これはなんと言うんだったかと考える。悪どい........じゃなくて、あざといか。そんな感じがする。
「わかったぜ!」
「........何だと思う?」
「どっちにつくか悩んでる、とか?」
「........っ。半分正解だ」
嘘だろ、ホントに心が読めるのか?
「あたしの勘もなかなかだろ。惚れ直してもいいんだぜ?」
「安心しろ、それはない」
「このぉ........」
手をワキワキさせながらプルプル震え出す先生。今にも襲いかかってきそうなんだが、どうやら俺が怪我人であると言う分別はあるらしい。
「で?残り半分は?」
「........言わねぇよ、デリケートな話だからな」
「あんたがデリケート........プッ」
「........何がおかしいのかね?」
「いやいや、あんた長生きらしいし悩みなんて無さそうだな~と」
「放っとけ」
こんな調子で、完全復活するまで1時間駄弁ってた。ホントに1時間たったら全快したんだから恐ろしい。
「んじゃ、俺は行くわ。あんがとさん」
「じゃな、といってもまたすぐに会えるだろうけどな」
「?」
「気にすんな!」
バシン
「........フッ、そうだな」
背中を1叩きされ、俺の陣へと引き上げる。出来る限りの準備は整えておかなけりゃな。
少し胸のつかえがとれて足取りが速くなる。おかげでヤチヨ先生の呟きを俺は聞き取れなかった。
「........大丈夫だ、裏切るのはあんただけじゃないから」
ーーーーーー
「うぉーい、誰かいるか?」
「いたら悪い?」
うわ、今1番いてほしくないのがいたよ。どうしようかね?しらばっくれて逃げるか?
「静かにね。今ニールとネールが寝たところだから」
「おっとこりゃ悪い」
見れば姉妹そろって仲良く昼寝をかましている。 おや、よく見ると涙の痕がある。誰だこんな小さい子を泣かせたのは。
「外、出ようか。話があるんでしょ?ボクもあるし」
「あ?そうだな、ここだと起こしかねないからな」
こそこそと陣を出ると夕日が赤くなっていた。........もう時間もないな。
ガシッ
「え」
「傭兵........生きてた。本当によかった........!」
後ろからいきなり抱き締められ、泣き出される。あのな、心配してくださったのは有り難いんだが、大きいお胸が当たってるんで放してください死んでしまいます。
「........傭兵、君撃墜されたでしょ?」
「う゛」
いきなり痛いところを突かれる。まあ、泣かれた時点でバレてると思ってたが........どうやって言い訳しようかな。
「こっちは大変だったんだよ?ニールとネールが『刃人が死んじゃった』って目を真っ赤にして大泣きしてたんだから」
「........マジか」
........俺今日何人泣かせりゃいいのさ。
「ガンシップはいいよ、もう1機あるし。傭兵が生きてればそれでいい」
「........そりゃありがてぇな」
「で、傭兵。まだ言うことあるよね?」
「え」
「まだあるよね?」
「........もしかして、もう知ってたり?」
「さっきアリス中佐から聞いた」
マジかい、どう言おうか考えてたのに全部水の泡とは。しかも事態はまるで好転してないんだけど........。
「大佐は、俺を引き留めるか?」
「傭兵はどうするの?」
「俺は........降る」
「そう........」
意外とあっけない返事が返される。........心のどっかでは、大佐に引き留められるのを期待してたんだけどな。
「ボクじゃ止めたところで傭兵には敵わないし、仕方ないよ」
「止めちゃくれんか。ドライだな」
「ボクはね、軍人なんだよ。傭兵と国を天秤にかけるなんてできないよ」
「........だろうな」
どうやら大佐はちゃんとわかってるらしい。説得の必要もないのは楽で助かる。........殴り倒す必要もないらしいし。
「でも、今生の別れは寂しいから........今だけは抱き締めさせて」
「........了解」
後ろからかかる力が強くなる。大佐が何か言ってるが聞こえないし聞きたくない、聞いたらきっと決心が鈍るだろう。今の俺にできることは大佐にされるがままになることだけだった。
「1人の女として、行かないでって言えないなんて........非力だなぁボクは、........うぅ」
ーーーーーー
時間は深夜、丁度日付が変わる頃である。俺はゴッドクレーター中央に未だに居座り続けるウィーズ軍の障壁の前まで来ていた。いつものように4次元コンテナを背負い、その下にお気に入りのコートを着る。いつもと違うのは陣笠を被って顔を隠してるところだ。
ホントならとっくに補足されて集中砲火を浴びててもおかしくないのだが、特に何もなくここまでこれた。........ホントに組織ぐるみで俺を捕まえに来たってのかよ。
『........隊長、本当にいいのか?』
(あ?)
『後悔...しないの?』
(俺1人で何とか出来るんなら安いもんだろ)
『敵の罠だとは思わんのか!?』
(そんときゃ戦士らしく、どでかい死に花の1つでも咲かせてやるさ)
『........あの小娘には生きろと言いながらよくもそんな口がきけたもんだのぉ』
(未来ある若者と、生きすぎた老害を一緒にすんなよ)
『1人ではたかが知れているぞ?』
(そんときのためのお前らだろ?期待してるぜ)
『相変わらずの減らず口ね。いいわ、見届けてあげる』
仲間とひとしきり喋ったあと、全力で声を出して名乗る。
「斬崎刃人だ!約束通りここまで来たぞ!今すぐに俺を連れてこっから出ていきやがれ!」
この中で傭兵が語る考え方はすべて私の独断と偏見で構成されていますご了承ください。
ところでこの章をどこで区切ろうか迷います。........もう先が読めた方とかいるんですかね?感想お待ちしています。
それではこの辺で失礼します




