傭兵と疾風の断頭主
よく見たら今まで敵の武器がリーチの長いものばっかりだった........。まあ、カッコいいし仕方ないですね。
それではどうかお付き合いくださいませ
「........マジかよおい」
墜落したガンシップの残骸を眺めながら呟く。まさかあんな方法で撃墜されるなんて思っても見なかった。........怒られるかな、これ。
「........貴様が........」
「何!?」
途端に辺りの空気が変わった。憎しみ、怒りを凝縮した負の感情が俺の後ろから向けられる。........恐らくは俺たちを撃墜したデカイやつだろう。ゆっくりと振り向くと、案の定そいつがいた。
「お前は........」
「待ちわびたぞ。斬崎刃人........!」
こいつには見覚えがある。ネクロを助けに来た3人のうちの1人だ。ウォーガーよりはでかくはないがデカイ。あのときと同じさすがにジーンズタンクトップというラフな格好ではないが、相変わらず露出が多い軽装備な服装である。戦場に似つかわしくないとまで言えるほどだ。
そして何より目を引いたのは、身の丈ほどもある巨大な斧である、さっき投げてきたのはあれか。その刃には真新しい血が付いている、........あんなんでやられるとは、辛いだろうな。
「やってくれるじゃねぇか。こちとら死ぬかと思ったぞ」
「........それがしとしてはそれが望ましいがそれは困る。それがしは貴様を生け捕りにする必要がある........」
「生け捕りだと?」
「........そうだ、この戦は貴様の存在が招いたのだ........」
何だと?俺がいるから戦が起きる?バカ言ってんじゃねぇよ。たった1人の、それもただの傭兵のためにこんな馬鹿げた規模の戦が起こってたまるか。
「一介の傭兵ごときのために敵地に危険をおかして居座り続ける?寝言は寝て言え、起きて言ってんなら今すぐその口を縫い合わせてやる」
「........交渉は決裂か。........ならば、痛めつけてしまおう」
放つ気迫がはねあがり、さらにキツくなる。斧を槍のように構えて戦闘体勢をとる。斧だと思っていたが、先端に槍の穂先が付いていた。どちらかと言えばハルバートのようだ。
「........それがしはウィンゴ、【疾風の断頭主】である........。仲間の敵、討たせてもらう........!」
なるほど、この憎しみは敵討ちに燃えてるからか。まさか戦場で敵を討つなどという奴がまだいるとはな。その仲間を思う精神は尊敬に値するとさえ言えるってもんだ。
........だがよ、こっちもふざけた戯れ言を聞いたおかげで気分が悪いんだよ。さっさと片付けるか。
ーーーーーー
「カァッ!」
「ヌゥン!」
太刀とハルバートがぶつかり合い火花が散る。図体の通り相手にはパワーがある。身体強化でパワー差を補完してはいるが、素の状態だったらエライことになってただろう。
だが相手が恐ろしいのはそこだけではない。
「........」
「反則だろ、その図体でそのスピードは」
ウォーガーは火力ど防御力で戦うスタイルだったのに対し、ウィンゴは火力と機動力で戦うようだ。
そのスピードを活かされて追撃が非常に難しい。おまけに弾丸まで避けるもんだから銃はほとんど牽制にもならない。........何とかして動きを止めねぇとな。
「........その程度か?」
「どうだかな。その言葉は俺の死体に投げ掛けてやるんだな」
「........その減らず口、気に食わんな。命令さえなければ貴様を殺しているところだ........」
そう言い終わると同時にウィンゴは瞬間的に俺の前まで迫り、拳を振り抜き殴りかかる。すんでのところで強化した拳をぶつけて相殺するがめちゃくちゃ痛い。........まさに鉄拳ってやつか。
防がれたと見たウィンゴは今度は距離を一気にとり、ハルバートを振りかぶる。
「『アンガーズ・ウィンド』!」
ハルバートを一振りすると、その斬撃が無数の赤い衝撃波に変化し襲いかかってくる。野郎、やっぱり遠距離持ちかよ!
「この........くそ野郎がぁ!」
必要最低限のステップで避け、直撃コースは太刀で叩っ切る。ヤバイな、当たらなければどうということはないを実践されちまってる。それにしても........。
「わからんな、このまま戦ってればお前は不利になるだけだろ?」
「........ガーンズ軍の援軍など物の数には入らぬ。貴様もそれを見越しているはずだ。兵を退かせたのはそのためであろう........?」
「何だ、バレてんのかよ」
どうやらウィンゴは俺がガーンズ兵を退かせて防衛ラインを下げさせたことを知っているらしい。ウィーズ軍が後退の動きを見せたのを空から確認したときに指示を出して、その直後に俺たちが撃墜されんだからあまり時間はたっていないはずなのに。
「........周りがそれがしと貴様のみとなれば否が応でもわかるというものだ........」
「っへ!てめぇみたいな規格外の化けもん相手にしてこれ以上犠牲者を出すわけにはいかねぇんだよ」
「........将たる器としては見事、敵であることが惜しいほどにだ........」
「褒められても要求には応えてやんねぇぜ?」
「........されど我が同胞の敵、それがしとて見過ごすわけにはいかぬ........!」
「!?」
今度は完全に出遅れた。一瞬で目の前まで迫った拳が、俺を盛大に殴り飛ばす。解体クレーンの鉄球をもろに食らった気分だ。........くそったれ、骨が何本か逝ったぞ。
『斬崎、なぜ我らを使わん!』
『そうだよ、このままじゃやられちゃうよ!』
『戦わせろ!こんなところで無様に死ぬなど許さんぞ!?』
(るせぇ!スッこんでろ!)
相手が望んでいるのは俺への復讐だ。その場に援軍を呼ぶのは非常に無粋な話である。長いこと生きて、どんな手を使っても生きる戦い方をするようになった俺にさえ、それくらいの礼儀と誇りは持っているつもりだ。
(だからこそお前たちには頼れねぇんだよ........)
『隊長........』
『貴様........』
(わかってるさ、俺だってお前たち背負って戦ってんだ。負けることはあっても絶対に死にはしない、それが俺のやり方だ)
仲間を説得している間も、当然追撃が来るわけで、痛みに悲鳴をあげる身体に鞭打って回避する。
「........なぜ避けなんだ........?」
「........あ?」
「........なぜ避けなかったと聞いている........!」
「別に避けなかった訳じゃねぇよ。ただお前が速かった、そんだけだ」
「........」
「........で?気は晴れたか?復讐者」
「........!それがしを愚弄するか........!」
「さて、お遊びも終わりだ。そろそろ本気で応えてやる」
身体に力を込め、身体強化を限界まで行う。あんまりやり過ぎると身体に負担をかけるし、この状態だから長くは持たない。短期決戦だ。........しかしそれは思わぬ形で邪魔が入ってしまった。
『お兄さん!援護します!』
「........何だと!?」
辺りにスピーカー音声が響く。声がした方向を見れば、そこには見覚えのあるデカイ影が複数。
「『ヘビーブレイカー隊』!」
お嬢ちゃんこと、アリス中佐率いるロボット部隊が後方からのっしのっしと向かってくる。それに比例して俺の頭の中はどんどん凍りついていく。........マズイぞ、ウィンゴ相手じゃあ。
「........目障りな........!」
「しまった........!」
やっぱり水を差されたウィンゴはヘビーブレイカーに向かって突っ込んでいく。ありがたいはずの援軍が今回ばかりは最悪の展開を招いてくれた。
アリス中佐は若いのです。それがいけなかったのです。
それではこの辺で失礼します




