傭兵の休息
勢いで書きました。
傭兵の休息は悲鳴から始まる........
それではどうかお付き合いくださいませ
「あだだだだだっっ!!!」
「うっさい。静かにしろ!暴れんなよ!」
「いやだぁぁ!痛いのは嫌ぁあああ!!」
「先っぽだけだから!痛くないから!」
「嘘だ!あそこの人は悶え苦しんでたじゃねぇか!」
「優しくするから!」
「寄るなぁ!」
ネクロを葬ったあと、陣まで帰ってきた俺は医療キャンプまで足を運んだ。流石に錫杖で抉られた足で戦場には立てないので、早めに処置を施して戦線に復帰するのだ。それに、細胞分裂がアホみたいに行われる俺の治癒能力は桁が違うので人よりすぐに直るのも利点である。
で、やって来たキャンプにいたのが俺が出したオールメディックとヤチヨ先生だった。それだけなら普通の医療キャンプだったんだが、周りから激戦区の野戦病院みたいな呻き声や唸り声がする。一応病院なのに「痛い........死にたくない........」なんて声がするんだから恐ろしい。
ここにいてはいかん、そう思った俺はそそくさと出ていこうとしたら、先生に見つかってしまい、冒頭に至る。ニヤニヤしながら傷を眺める先生の処置は正直恐すぎる。
『大丈夫ですよ隊長。ヤチヨ先生はあれでも立派なお医者さんです』
『この軍は彼女のおかげでいまだに死人が出てないといっても過言じゃないです』
「........マジか」
「どうだ見たか!もっと誉めてもいいんだぞ?」
オールメディックの評価を聞いて適度にある胸を張りながらドヤ顔をかます先生。........信用ならねぇな。
『まぁ........少し大雑把ですけど』
ほれ見たことか!
「スピードを取っただけだ!死んでないんだからいいだろ!?」
「いいわけねぇだろ!」
「........!隙あり!」
「........え?」
見れば傷口にヤチヨ先生が薬を塗りつけている。........ああ、痛みが、痛みが上ってくるぅぅ........。
「あんぎゃああああああ!!」
ーーーーー
「ゼェー........ハァー........死ぬかと思った........」
「死ななきゃ何も問題ないよ!」
畜生ォ........なんでこの人こんな元気なんだよ。なんか未だに傷がジクジクと........痛くない。
「え?治んの速くね?」
見れば傷口は完全に塞がっており、もう痕もほとんど残ってない。いくらなんでも速くねぇか?
「あたしの薬とあんたの治癒能力の相乗効果ってやつだろ。ここまで速いとは思わなかったけどな」
「どんな薬を塗ればこうなるんだよ........」
「患部に塗るとそこの部分の細胞に変化して傷を速く塞ぐ薬だ。まだどこにも出回ってないんだぜ?」
あれか、一昔前に俺の世界で話題になったナンタラ細胞みたいなもんか。やっぱりこの世界はすげぇな。
「........って、なんで先生はどこにも出回ってない薬を持ってんだよ?」
「ん?そりゃあたしが作ったからだよ」
マジか、薬も作れる先生か。人間性に問題はあってもその手腕は折り紙つきって訳だな。
「........なんか失礼なことを考えたろ?」
「い!?」
「ハハーン、図星だな?あんたはあたしに隠し事なんて出来ないんだぞ?」
にしし、とイタズラを考え付いた子供のように笑う先生を見ながらこの手合いは慣れないと再認識する俺だった。
「........で?答えは決まったか?」
「何?」
「この前の答えだよ!」
「あ........」
やっべーすっかり忘れてた。覚えてたけど考えないようにしてた。........あかん、先生がジト目になっていく。
「ま、わかってたけどな」
「........え?」
「あんたは意外と自分に厳しいからな。どうせ自分に恋愛する資格はない、とか考えてるだろ?」
「なんでわかんだよ........」
「んー........女の勘?」
「マジかよ」
自慢できることではないが俺は俺の中に渦巻く魂よりも多くの人を殺してきた。それはその数の人生を、友情を、夢を、恋愛をすべて無許可で強制終了させたことに他ならない。そんなことをして生きてきた俺が、果たしてずけずけと人並みに幸せを追い求めていいものだろうか?
いいはずがない。だから俺は戦い続けるのだ。戦いで罪を重ねた俺は戦いで死ぬしかない。だから俺は生かされているのである。この事は俺の中の連中もよくわかってるはずだ。
「あーもー!煮え切らないな!」
「あ?........ぐぉ!」
思考に耽っていた俺を引き戻したのは衝撃だった。何かが前からぶつかって俺を倒す。見れば俺はヤチヨ先生に押し倒されていた。
「あんたがどう思ってようが関係ない。あんたはあたしの気持ちに答える義務があるんだぜ?」
「だがよ........」
「あーうるさいうるさい!こうなったら否が応でも考えさせてやる!」
「?」
「既成事実でも作っちゃえば、少しは考えるだろ?」
「何だとォ!?」
この先生、強行手段に出やがった!てかやめて、マジでやめて。第一俺童貞だし!先生あんたも顔が赤いぞムリすんな!
「気持ちよくなっちゃえよ。難しいことは考えないでさ........」
「うあ........おぅ........」
耳元で先生が囁く。普段とはまるで違う、静かで甘い囁きに、理性が吹き飛ぶかと思われた瞬間、救いが来た。
「傭兵、お見舞いに来たよ!」
「足の穴は塞がったかー?」
「「モグモグ........」」
何ともフリーダムな援軍が現れた。 まさに最高のタイミングで現れてくれたが、よく考えたらこのタイミング最悪でもあるじゃねぇか!
「よ、傭兵?先生?何してるのかな?」
「あー、........オデたちは外にいた方がよかったか?」
「モグモグ........ゴクン。お~これが噂の~」
「ムグムグ........ゴクン。修羅場ってやつなのか~?」
........確かに修羅場で間違いない。このまま大佐たちが来なかったらおっ始まってた可能性大だし。そんなことよりまずはこの状況を取り繕わなけりゃあな。先生も予想外の展開にフリーズしてるし。
「あー........こいつぁな。先生が盛大にスッ転んだもんだから受け止めた結果こうなったんだぜ。OK?」
「「「「........」」」」
あれ?もしかしてヘタこいた?これじゃ誤魔化せてない感じなんでしょうか?
「そ、そうかい。お互い怪我がなくてよかったよ。ヤチヨ先生も気を付けてくださいね?」
「........ハッ!そ、そうなんだよ。薬こぼして滑っちゃってな!アハハハハ!」
「ほっ。オデは心配したぞ........。白昼堂々何やってんのかと」
「なんだ~違うのか~」
「昼ドラじゃないのか~」
何とか誤魔化せたらしい。キルオンよ、ほんとにすまん。........後でニールとネールにはどこでそんな言葉を覚えたのか問い詰めにゃあならんな。
「さ、さぁーて怪我も治ったし?任務に戻るぜ、キルオン、ニール、ネール、行くぞォ!」
「あ?いやおい!ケガはいいのか刃人ー!」
「「おやつをください~」」
半ばやけぎみにキャンプを出る。復活したんだからさっさと働かないと怒られるよな!
ーーーーー
「........邪魔したな?」
「あはは、なんのことやら」
「とぼけなくてもいいぞ?イツキ大佐も斬崎を狙ってることくらいわかるぜ?」
信じられないよ、まさかヤチヨ先生がライバルだったなんて。というか先を越されてたし。
「ま、いつまでも言い出せない大佐には負ける気がしないけどな」
「こっちこそ、そんなお子さま体型には負けませんけど?」
「うぐぐ」
あ、気にしてたらしい。
「とにかく!あたしは諦めないからな!」
「ボクもですよ?では」
それだけ言ってキャンプを出る。........とはいえボクが出遅れてるのも事実なんだよね、どうしようかなぁ........。
ねんどまつレポートラッシュはなかなかどうして辛いですな
それではこの辺で失礼します




