傭兵たちと小さなモフモフ
思い付いたから書きました。
おまけ章なので多目に見てください
それではどうかお付き合いくださいませ
「........うぅ、んぬ」
あー、布団って素晴らしい。この寒い時期には出たくなくなるのは俺だけじゃないはずだ。きっと冬場のせいで学校や勤め先に遅刻しかけた人もいるだろう。何が言いたいかと言えば、........2度寝したい。
しかしこのときは少し様子が違った。
(........?)
何だ?いつもより布団があったかい。まるで俺の他にもうひとつ熱源が入っているかのような........。
寝ぼけた状態で布団のなかをまさぐる。といってもあるのは俺の身体だけなんだがね。
モフ
ん?何?今のモフって。とりあえずもう一度触ってみる。
モフモフ
おぉ、モッフモフだ。なんだか知らんがモッフモフだ。だが俺はそんなに毛深くはない。........じゃあこれは何か?そう思ってから俺が覚醒するまでは速かった。........手かもっと速く気づくべきだった。俺は慌てて布団をはねのける。
「何だこれ........」
「Zzz........」
俺の腹の上には謎の白いモフモフが乗っていた。寝息のような音と、わずかに上下に動いている様から生き物らしいということはわかるがそれ以外はなにもわからん。どうやって入ってきた?
「どうしたもんかねぇ........」
「きゅ........」
あ、起きた。
白いモフモフは狐だったらしい。らしいと言うのは、俺の知っている狐とは少しばかり違うようだったからだ。まず小さい、一抱えほどのサイズだ。バレーボール1つ分の大きさといえばいいだろうか。そしてその身体の割には尻尾がデカイ。今は座っている体勢だが、底部にあるはずなのにその先端が頭より高いのだ。たぶん俺が触ったのはこの尻尾だろう、モフモフというよりはモフモフモフである。
「........」
「きゅー♪」
それにしても........愛らしい。顔は狐というよりは、そのサイズも相まって仔猫のような愛嬌がある。つぶらな目と目が合う。ちくしょぉ........目を合わせられねぇ。
「きゅー........」
グゥ~~........
「........クッ、アハハハ!」
どうやら腹が減ったらしい。素直なのはいいねぇ、好きだぜそういうの。
「確かに朝飯時だ、なんか探しにいきますか?」
「きゅっ!」
眠気も吹っ飛んだし、朝っぱらから面白い出会いがあるとはな。今日は何となく面白くなりそうだ。
ーーーーーーー
朝飯を食った俺たちはその足で尋問局の施設まで向かう。特に何もなくても足を運ぶ決まりになってたし、誰かしらがいるので入り浸るようになっていた。
「おはよーさーん」
「やあおはよう、傭兵」
「おうジントか」
「「おはよ~」」
そこにはいつもの通り、大佐をはじめとした直轄の連中であるキルオン、ニールとネールがいた。と言ってもどいつもこいつも特に何かする訳でもなくぐたっとしてたりと自由極まりない。........大佐は朝から書類との格闘で涙目だが。
「おん?ジント、そいつぁ何だ?」
「こいつ?知らん」
「きゅ!?」
狐が「そんな!?」みたいな顔をするが知らないもんは知らん。
「かわい~」
「貸して~」
「きゅー!きぃゆぅ~!!」
狐は今俺の肩にぶら下がる形でしがみついているのだが、跳び跳ねて捕まえようとするニールとネールを相手に大暴れで抵抗する。やめてください痛いです。
「やめときなお嬢ちゃんたち。その子が嫌がってんぞ?」
「むぅ~」
「刃人、ずるい~」
むくれながらも引き下がる2人は置いてあったぬいぐるみで気を紛らわす。クリスマスでもらったクマとウシのヤツだ。
「しかし傭兵。その子は本当にどうしたんだい?」
仕事をしていたはずの大佐から声がかかる。どことなく「仕事しなくて済む!」みたいな生き生きした顔をしてる。........サボると副官さんが怖ぇぞ?
「わからん。朝起きたらいた」
「きゅー♪」
「むぅ........羨ましい」
おやぁ?大佐の顔が不機嫌になっていくぞ?変なもんでも食ったかね?
「うーんそれにしても見たことねぇなぁ。狐か?」
「多分。俺もこんな愛くるしい狐はみたことないんだが?」
「確かに可愛らしいな」
うーん、動物のプロフェッショナルであるキルオンですら見たことないのか。........何なんだこいつ。
「おはようございます」
いきなりドアが開く。出てきたのはクレイグだった。まるで畑違いなんだが、何でここにいるんだろうか?
「お前なにしてんの?」
「む?斬崎刃人か。次の作戦はイツキ大佐の子飼いであるお前たちにも参加してもらうからな」
「クレイグ大尉には実戦部隊との連携のための窓口になってもらっているんだ」
「ふーん」
「そういうわけだ。次の作戦でもよろしく頼む........ん?」
「........何だ?」
「お、お前........そ、それは」
何やら驚愕した様子で指を指してくる。その指先にいるのは「え?何?」みたいな顔をする狐。
「モフモフではないかっ!!」
「うお!?」
いきなりでかい声を出すクレイグ。マジで不意を突かれたので俺たちはビクッとなる。........モフモフ。
「おぉ........モフモフだ、モフモフだぞぉ」
「な、何だよクレイグ。怖ぇよ」
「な、なぁ斬崎刃人、頼む。それをモフモフさせてくれ。頼む!」
「........だとよ?狐の小僧」
「きゅ........」
「........嫌だとよ」
「馬鹿な!?」
あまりの必死さに回りの皆はドン引きである。ニールとネールなんかぬいぐるみを抱えながらソファの影から様子を伺っている。バレたら殺されると言わんばかりに必死に隠れていた。
「もうダメだぁ........おしまいだぁ........」
一方フラれたクレイグは、この世の終わりのような顔をしていた。膝をついてその場に崩れ落ちているか意外だな、あのクレイグが此処までモフモフに興味を示すとは。
(なあ小僧。ここは俺に免じてモフモフさせてやってくれ)
(きゅー........)
(頼むよマジで)
(........きゅ!)
「やってやんよ!」みたいな顔をする狐の小僧。........そんなに嫌か、固い決心をしなければならんほどか。俺が寝ぼけてモフモフしたときは何も抵抗しなかったのに。
「なぁ........クレイグさんや?」
「........ナンダァ?」
「ヒェ」
「キュ」
まるで地の底から聞こえてきたかのような低い声。その場にいた者は俺を含めて最初は誰がこの声を発したかわからなかった。
「あー、何だ........。この小僧が少しだけならモフモフしていいと言っている」
「........ナニィ?」
「な、な?狐の小僧」
「きゅ........きゅー!!」
「かかってこんかい!」とでも言うような素振りで尻尾を向ける狐の小僧、お前ってやつぁ........漢だぜ!
「では、お言葉に甘えさせていただこう........」
いつの間にか元の雰囲気に戻ったクレイグ。その顔は命がけの戦場に立つガーンズの古強者そのものだった。........いやお前らモフモフに命懸けすぎだろ!
モフ
「おぉ........」
モフモフ
「う~~む........」
モフモフモフ
「ぬぅうぉぉぉ~~~~!!」
モフモフモフモフモフモフ................
「きゅ!?きゅきゅ!きぃゆぅ~~!!」
モフモフしまくるクレイグと、モフモフされまくる狐の小僧。その図は罰ゲームでひたすらくすぐられる様なある種の拷問とさえ言えるようなものだった。心なしか小僧もぐったりしている。........おや、目が死んだ。これが噂のレイプ目ってやつか。
「........今の俺の心は、今日の快晴のごとく澄みわたっている........」
「ぎゅ~........」
「........お疲れ小僧」
「きゅ」
俺が狐の小僧を労う間、周りの半ば空気と化していた者たちは声を揃えてこういった。
「「「「何だこれ........」」」」
ーーーーーーー
「結局、お前がなんなのかはわからなかったなー」
「きゅ~♪」
「お前は人の腕の中でさも当然のようにくつろぐな」
結局あのあと、クレイグは少しだけと言うのを無視してモフモフしまくったために強制退場。やけくそなのか知らんがオープンになった狐の小僧はニールとネールを筆頭にモフモフされていた。
日が暮れて解散になった今は、俺の腕の中で今まで失った生気を取り戻さんばかりにくつろいでいる。ぬいぐるみを抱えるような図の俺は帰る最中に幾度となく変な人に向けられる視線を向けられていたたまれなかった。
「ただいま戻ったぞい~」
「おうあんちゃん!戻ってきたか!」
「大将、今日は俺手伝った方がいいのか?」
「そうしてくんな。久しぶりにしっかり営業するからな!」
そういえばこの定食屋『味おやじ』がここ最近まともに営業してた記憶がない。だから俺は今まて割りと暇だったんだがね。
「んん?あんちゃん、そいつぁ........」
「あ?大将こいつ知ってんの?」
「ああ、俺の記憶に間違いがなけりゃそいつぁ『仙狐』だ」
「『仙狐』?」
意外なところに答えがあった。.......仙狐って何だ?
「何だそれ?」
「ガーンズとウィーズの国境辺りに少しだけいる生き物だ。とても知能が高いらしくてな、数の少なさと賢さのおかげで今まで見つかった数はほとんどないらしいぞ」
........とりあえずとてと珍しいヤツだってのはわかった。だがそんなヤツがなんたって首都キューカズの、しかも俺の布団の中にいたんだ?
「本来なら山に帰してやるのが1番なんだが........」
「そうか........小僧、明日お前を故郷に帰してやる。短い付き合いだったな」
「きゅー!?」
帰してやると聞いた途端に抵抗しだす小僧。え?帰りたくないとでも申すか。
「ガハハ!どうやらそいつに好かれたらしいな。そうなりゃ話は別だ、あんちゃんと仙狐で決めるんだな」
「うぬぬ........。お前はどうしたい?」
「きゅ!」
元気な声を上げて、俺によじ登り始めた。こっちのことなどお構いなしに器用かつダイナミックに俺の頭まで到達すると、これまた器用にそこで寝始めた。........そうですか、そういうことしますか。
「........だとよ」
「なるほどな!中々個性的な表現の仕方だなぁ。だったら名前でもつけてやったらどうだ?」
「名前ねぇ。確かにいつまでも小僧って呼ぶ訳にもいかねぇしな」
はて、名前ねぇ。どうしたもんか、名前をつけるってのはくそ長い人生の中でも初体験だ。
「仙吉........とか?」
「悪くねぇと思うぞ?」
「きゅ~........Zzz」
「いだだだ!!」
唐突に頭に爪をたてられた。え?何?嫌なの?そんな無言の抵抗を示すくらい嫌なの?........どうすりゃいいのさ。
「仙太!」
ザクッ
「コン助!」
ザクッ
「狐次郎!」
ザシュッ
「........」
「…あんちゃんよぉ、大丈夫か?」
痛いです、とにかく痛いです。これ絶対頭から血が出てるだろ。大将なんかいつの間にか店の奥から救急箱取ってきてるし。........そんなに気にくわないなら自分で申告しろよ!寝ながら都合よく爪立てんなよ!なんか途中から切り裂いたような効果音が聞こえたよ!
「うーん........仙里」
........シーン
あれ?採用ですか?もう何も考えずにポロっと出てきただけなんだけどこれでいいのか?
「お前の名前は仙里になるけどいいか~........?」
「Zzz........きゅ~........♪」
「決まりだな、あんちゃんよぉ」
中々厳しい戦いだった。名前をつけるのがこんなに大変とは、全世界のお父さんお母さんその他諸々には脱帽である。
「あ~、それとだ。今日は店やんなくていいぞ」
「え?俺クビ!?」
「違わい!そんな頭からドクドク出血してるやつを厨房にたたせられるか!」
「な........に.....?」
「言わんこっちゃねぇ、倒れやがった........」
貧血で倒れたらしい俺はその後、朝まで仙里と一緒にぐっすり寝てたそうだ。
かわいい動物は狐と猫がツートップです。
次点はウサギ。
それではこの辺で失礼します




