傭兵と殺したがりな女の子
コープスパーティーやってたら思い付いたので書きました
楽しんでいただければ幸いです
それではどうかお付き合いくださいませ
「........」
「♪~」
異常だ。俺が敵の気配を追って走り、ひときわ広い最上層の広場について最初に思ったのはこれだ。目の前には一人の女の子がいる。紫のオニユリか何かがあしらわれた着物を纏った黒髪おかっぱの女の子。目元は前髪で隠れているがその機嫌はとても良さそうだ。大きな人形と戯れてるが、こちらに気づいてないくらいだから有頂天と言ってもいいだろう。
それだけならまだ分からんでもなかったが、回りに目を向ければそれがとても異常なのがわかった。
幹の最上部であるらしいこの場所は上を枝や木の葉で覆われているが、そのあり得ない密度のおかげで日の光はほぼ入らない。そんな場所なのに手元が見える程度には明るいのは回りに配置された夥しい数の蝋燭のためだろう。百物語なんかやったらマジで何か出てきそうな雰囲気だ。
「あら?」
相手がこちらに気づいた。何をするかと思い入れ身構えるが彼女はそんなことはお構いなしに、まるで道端でお隣さんに会ったかのように喋りだした。
「こんにちわ、あなたは誰?」
「........斬崎刃人、傭兵だ」
「へぇ........あなたが噂の.......」
俺噂になってんの?
「俺の方は名乗ったんだ。あんたの名前も聞かせてくんな」
「そうね、ワタシはネクロよ。よろしくね刃人?」
「........」
何とも不思議な女の子だ。ここにいるってことは敵と見て間違いないんだろうが、警戒している感じはまるでないしいたって友好的だ。........だがそれが見せかけであることはわかっていた。こいつからはとんでもないぐらい『死』というイメージが送られてくる。一体どんなやつなんだよ?
「そうだな。知り合ったついでに1つ聞こう。ここは何だ?」
「ワタシのお庭。興味を持ってくれたなら嬉しいわ」
そう言って笑顔になるネクロ。その顔はとても誇らしく、自信に満ちたものだった。なるほどお庭ね........。確かに回りにはいろいろな花や植物が咲いている。クロユリ、スノードロップ、クワ、スイレン、トリカブトetc…。花は詳しくないが、かなりの種類があるし丁寧に扱われてるのはわかる。しかしその花が根を下ろしているのは........。
「狂ってやがる........」
死体だった。この広場には死体が散乱している。白骨に成り果てたものや、腐肉がついているもの、まだ新しい死体まである。横たわっているものがあれば磔にされているものもある。おかげで腐臭がとんでもないことになっている。おまけに様々な殺され方をしたらしく、キレイに五体満足の死体もあれば、頭や腕のみの死体まである。中には死んだあとに傷つけられたものまであった。まるで死体の博物館だ。ホント良い趣味してるぜ........。
「ひどいわ。あなたもこのお庭を理解してくれないのね?」
ネクロの声が冷たくなる。同時に回りにざわざわと不穏な空気が漂い始める。
「どうして理解してくれないの?このお花たちも、ここにいる人たちもこんなにも美しいのに........」
死体を美しいと言うのか。これがネクロフィリアってやつか、初めて見たな。
「理解できないのが普通だと思うがね........」
「普通って何?ワタシが美しいと思うものは人と少し違うからいけないの?」
「........」
「答えてよ刃人、人と同じものを美しいと思わなければいけないの?」
とても悲しそうに思いのうちを語るネクロ。確かに自分の感性を否定されるのは堪えるだろう。だがこれじゃあ........。
「お前さんがどんなものをどう思おうが勝手だし、そこに俺が介入する権利はない。だがな、これは死んだ者への冒涜だ。お前にそんなことをする権利もない。そうだろ?」
「うるさい!皆ワタシを否定するから悪いんだ!」
回りの緊張感がさらに高まる。感情の高ぶりだけでこの緊張感て........。化け物かよ。
「ねぇ........。あなたは人の魂を見たことある?」
何だ藪から棒に。
「ないな。見えるものでもないし。存在を信じてはいるが」
「魂はね、とっても綺麗なんだよ。素敵に光ってて暖かいの。なのにその持ち主は皆冷たい........」
「........」
「だからワタシは魂をもらうの。とっても暖かくて綺麗な魂をワタシの物にするのが私にはとても幸福なのよ?しかも死んだら誰もワタシを否定しないし」
「そんな話をして何だと言うんだ?」
「わからない?ワタシはあなたの魂が欲しくてたまらないの。これまでのどの魂よりも」
........これあれだよな。これからお前を殺すって言われてんだよな?恥ずかしい話だが何か告白されてるみたいでむず痒い。
「お断りするさ、俺はまだ死にたくねぇし」
死んだら大佐にあの世で殴られそうだし。
「そう........。あなたは賢そうだからわかってくれると思ったのに」
そう言うとネクロはそばに突き刺してあった錫杖を取る。死体に刺さっていたのか、その先端は血で濡れていた。
「魂はね、極限まで追い詰められるとそれだけ美しくなるの。だから........散々苦しんでから死んでね?」
「笑わせるなネクロよ。俺は死なん!」
ーーーーーーー
いやいや、なかなかどうしてやるじゃないかこの子。相手の錫杖は両の先端がとがってる上に長いため、その戦術は槍っぽい。太刀とはいえリーチが不利なためやりづらいこと極まりない。........畜生め、長物は反則だろ。
「お前は!『獣おろし』を知ってるか!?」
「何よ!?いきなり」
力任せに錫杖を弾き距離を取る。足元が悪いのがすごい腹立つ。
「お前は『獣下ろし』を知ってるか?」
「知ってたら何だって言うの?」
「あいにく情報が欲しくてな。お前だってウィーズの兵士だろう?」
「そんなことはどうでもいいじゃない。ワタシは今とっても不機嫌なんだけど?」
「ほう、こりゃまたどうして?」
「せっかくあなたを苦しめて魂をもらおうって言うのに、そんなに余裕なのが気に入らないの」
ああ、なるほどね。まぁ思い通りにいかなければ不機嫌にはなるわな。
「まあ怒るなよ。俺はとにかく駄弁って楽しくしたり楽しいことを想像してねぇと闘えねぇんだよ........。」
「?」
「だって、闘いに集中しちまうとな........。それはもう虐殺になっちまうんだよ........」
「........!?」
「煽ったのはお前さんだ。当然........死ねるよな?」
そう言って少しばかり殺気を放つ。かつての戦場では殺気も出しっぱなしだったが、仲間に「味方なのに殺されそうでヤバい」といわれて以来抑えるようにしている。確かに抑えてからの戦いかたと比べると、抑える前は戦闘というよりは虐殺に近いって言うのは言われたし思った。
「くっ........行きなさい!」
ぶつぶつと何かを呟いて錫杖を掲げるネクロ。すると錫杖の先端から光がいくつか飛び出し、回りの床に吸い込まれる。いや、正確には床に横たわってたものに吸い込まれた。
「........ァァァアアア!」
床に横たわっていた死体に回りの土が集まっていき、そこには下層にいた1つ目の土くれ化け物がいた。やっぱりこいつの手先か、数は........5か。強いて違うのは身体に花が咲いていることか。
「はぁ........」
だが、少しばかり足りないな。この程度の雑兵では。
「カァッ!」
太刀を横に薙いで一回転する。その斬撃は衝撃波を作り回りの化け物を薙ぎ払い、その余波は本体であるネクロに向かう。錫杖で受けるが受けきれず、体勢を崩して尻餅をつく。
「行くわよ!」
使役する化け物が通じないとわかると、今度は一気に踏み込んで高速の突きを連続で叩き込んでくる。魔法で身体強化しているのかその攻撃は人間、ましてや華奢な女の子が放つものとは思えないほどキレとパワーがあった。
あえて乗ってやることにした俺は太刀で同じことをして相手の突きをすべて相殺する。ネクロの驚愕の顔が少し見ものだった。
「信じられない........。これがカメルやウォーガーに苦戦していた斬崎刃人なの?」
「やはり........貴様は『獣おろし』か」
「そうよ。........改めて名乗るわ」
互いに構え直す。お互い本気になったって訳で、こっからはホントに気が抜けない。
「ワタシは『獣おろし』の一人、【屍然姫】のネクロ!今度は本気でいくわ!」
名乗りをあげると同時にネクロがお馴染みの紫のモヤに包まれる。さぁて、仕切り直しといきますか........!
ようやくチートっぽくなりましたな
ホントは傭兵が一番人間離れしている設定です
それではこの辺で失礼します




