傭兵と太刀
今回の話は読まなくてもいいやつです
それでも読むって方だけどうかお付き合いください
「........あのさぁ、傭兵」
「何ぞや大佐」
お昼前のこの時間、大佐が早すぎるお疲れの声を俺に投げ掛けてきた。大佐が『あのさぁ』で会話を始めたときは仕事がめんどくさいときだって事が最近わかった。何をするかと言うととにかく駄弁る、昼飯の時間になるまでひたすら駄弁るのだ。毎度毎度副官さんに怒られてるってのに懲りないねぇ。
「今日は髪を結んでないんだね?」
「ん?ああ、そうだな。変か?」
「いや。珍しいなぁと思って」
「あっそ」
俺の髪は男としては非常に長い。腰まで届くかってぐらい長い。だから普段は後ろで1本に結んでいる。........実は今朝起きたら布団の隙間にヘアゴムが入り込んで取れなくなったことはこの際言わないでおこう。
「........」
「........」
会話が途切れたな、大佐がそわそわしだした。そんなに話題がないなら諦めて仕事しろよ........。
「そ、そういえば!傭兵はいつもその刀持ってるよね。非番の時も腰にさしてるし」
強引に話題を作ったな、そんなに嫌かこの仕事。他誌かにデスクワークが飽きるってのはわかるけど。仕方ねぇ、乗ってやるか。
「これ?これは俺の思い出であり、業の象徴だからな」
「へー、興味あるね。よければ聞かせてもらえるかな?」
「........血生臭い傭兵の昔話なんだが、そんなに聞きたいか?」
「聞きたいね。ボクはもっと傭兵の事が知りたい」
「はぁ........。質問はあとで受け付けるからまずは黙って聞いてくれ」
そう言って俺は思い出話を始めた。
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(ここからは傭兵の独白になります)
自分で言うのもなんだが、俺は過去を大事にする男だ。悪く言えば過去に縛られてるといってもいい。自分が犯した罪も、過ちも、そのためにどれほどの命が死んでいったかも、俺は忘れることが出来ないんだよ。
この太刀はな、俺の初陣の時から共に戦場を駆け抜けてきた生涯の相棒だ。刀身は何度もダメになってるが、柄や鍔は当時の頃から代えてない。
不思議だと思うだろ?俺の世界でも銃が武器の主流だ。ナイフとかの近接戦闘術ももちろんあるが、現代で太刀なんて時代錯誤な武器を使ってるのは多分俺だけだったろうな。
なんで使い続けてるんだ?って顔してるな。こいつの刀身にはな、死んでいった仲間の形見が使われてんだ。ネームタグはわかるだろ?もちろん100%って訳じゃないが、死んでいった仲間の物すべてがこの刀身の中に活きてるんだよ。
........もちろん、誉められるようなことばかりじゃねえさ。ただ戦場で敵を斬っただけじゃない。仲間を守るためと言えば聞こえはいいだろうが、そのために俺は裏切ろうとした仲間を斬ったこともあったし何の罪もない一般人も........子供すら斬ったこともある。こいつには仲間の戦士の魂だけじゃなくて、俺に理不尽に殺されたやつの怨念も宿ってんだよ。
だから俺は太刀を捨てられない。俺の足元にある、自分の業が積み上げてきた骸に報いるためにもな。例えこいつのせいで死ぬことになっても、俺はこいつと一緒に死ぬことを選ぶだろうな。
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「........こんなとこかね。ほれ、質問があるなら言ってみ?」
「........傭兵はさ、後悔はしてないの?」
「少なくとも今はしてねぇな。その時はすることもあるけど、生きるために振りかざした刃だ。生きてりゃとりあえず間違ってはいなかったと思ってる」
「ふうん........。強いんだ、傭兵は」
「バカなだけだ。もしも賢かったらこんな単純に割りきれねぇで発狂してただろうよ。だから戦争とかいさかいを起こすんだよ人間は。賢いから」
「........」
「幻滅したろ?血生臭い昔話なんざ」
「いや?信用するに足る人間だと改めて思っただけだよ?」
「あ?」
「だって人を殺してもその事実から目を背けないで正面から向き合える、それって優しい人にしかできないと思わない?」
「........大佐よ。お前俺よりバカだろ?」
「な、なんでそうなるのさ!?」
『昼飯の時間だぁ!!』
その時、建物内の至るところに取り付けられたスピーカーから野太くて厳ついおっさんの声が響いた。なんでか知らんがこれがここのお昼の合図である。
「お、飯だ飯だ!大佐、先行ってるぜ~」
「ちょ、待て傭兵!逃げるな~!」
ホント、バカでもなけりゃあんな考えはできないわな。あんなおめでたくも、理想的な発想は........。全く、羨ましいったらないねぇ。
次はキャラクター紹介とかやろうかと