占術師 烏丸
宮野は閉まった写真部のドアを、ぼんやりと見つめていた。
公家が言った言葉が、頭の中を回っていた。
――七竈君は君を気に入っているようだね
本当にそうなのだろうか?
先輩の側には、ただ今自分しかいないだけで。
もし、彼らが居たならば。
そう、ここに彼らが居たならば、彼の言葉はきっと変わっただろう。
先輩にとって、自分は必要な人間なのか?
先を歩く先輩の背中を見ながら、宮野は考えていた。
【ボクは先輩の名前すら知らないんだ】
初めて会ったときから、先輩はあくまで【先輩】でしかなかった。
名前すら知らない。
【ボクが追いかけている先輩は、本当にボクの先輩なのか?】
そんなことをふと思う。
「宮野君?」
「え?」
「どうした?アキに何か変なことでも言われたのかい?」
「え?あ・・・いぇ。その、先輩がボクを気に入ってるって・・・・」
「ほぅ。アキもよく分かっているな」
「え?」
「私はね、宮野君。初めて君たちに会ったとき、ほかの3人はあまり興味がわかなかったんだよ」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべながら先輩は続ける。
いつの間にか先輩は立ち止まっており、夕日の差し込む廊下に二人が対峙している形になる。
「君はとっても興味深いんだよ。なにせ、怖がりのくせに、怪異に首を突っ込みたがる。挙げ句の果てに自分が怪異に巻き込まれ、友人3名が犠牲・・・・あぁ、この場合は犠牲ではなく“被害者”の方が良いかな?になった。でも、君は今こうしてここに居る」
「だから、私は君に興味があり気に入っているんだよ」
そう言って先輩は再び歩き出した。
さっきまで差し込んでいた夕日の色が、今は濃い朱色になっている。
――あぁ、あの日もこんな色だったな
夕日を見ながら、宮野は歩く先輩の背中を追いかけた。
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ガラリ、と開かれた扉に座っていた人影が顔を上げた。
部屋の中は薄暗く、人影の顔も分からない。
否、人影は顔にヴェールのようなものを被っており、部屋が明るくとも見えなかっただろう。
「あら、やっと来たのね。と言っても、早い部類だけれど」
「アキを早々に巻いてきたからな」
「ふふ。アキ兄様も、貴女にかかれば赤子同然ですものね」
ヴェールの下から、凛とした女性の声が聞こえた。
その声は艶を多く含み、とても同じ学生とは思えないほどだった。
「宮野さん、アキ兄様に会った感想は?」
「え??あ・・・・変わって、ますよね?」
「ふふふ。アキ兄様が変わっているのは、最初からなの。さぁ、用事を言ってちょうだい。待ってるだけではつまらないもの」
「そうせかすな。これが、私の用事だよ烏丸」
先輩が取り出したのは、A4の用紙に『浦前沙夜子』と書かれたものだった。
「あら?これって願書ではなくて?」
「あぁ。あそこでは何かと手に入るので、困ることはないよ」
「そうね。浦前沙夜子・・・・・・どこかで聞いたことがあるわね」
そう言って目の前の女性――烏丸は机の横から水晶を取り出した。
占術部部長、烏丸。
先の事件の時にも、先輩は彼女を頼っていた。
彼女の占いは百発百中。
「だめだわ、邪魔が入る」
そう言った時、後ろでドアが開いた。
「七竈君、吉野君!写真を解析したよ!!そして、我が愛しの妹揚羽よ!!」
入ってきたのは久家だった。
「騒がしいのが来たな・・・・。で、アキ。なにが分かった?」
「この写真で加工されていたのは、人物の横ではなく人物そのものだったよ」
「人物?」
「そう!これを見てくれたまえ」
久家が机の上に出した写真を見た瞬間、宮野は引きつった悲鳴を上げた。
そこに写っていたのは、体がいびつに歪んだ少女だった。
肩がボコリ、と異様に膨らんでいる。
「これ・・・なんですか・・・?」
「分からないよ、でも・・・・・」
「人面瘡かなにかか?」
先輩が言う。
「いえ、それにしては瘤が大きすぎるわ」
「そうだね。何かは分からないが、故意的に隠していたことは確かだよ」
久家がそう言った時、スピーカーから音楽が流れた。
「あら、もぅこんな時間?」
「本当だね。七竈君達はどうするんだい?」
「帰るさ。ということで、アキ」
「ん?」
「宮野君を送ってくれ」
人面瘡(じんめんそう、人面疽)は、妖怪・奇病の一種。体の一部などに付いた傷が化膿し、人の顔のようなものができ、話をしたり、物を食べたりするとされる架空の病気。薬あるいは毒を食べさせると療治するとされる。




