沙夜子
広い広間の空間に、本のページをめくる音と食器のぶつかる音。
それと、紅茶を入れる音だけが響く。
「先輩、お客さんていつ来るんですか?」
「なんだ?この間来ていたじゃないか」
そういうと、窓際の椅子に腰かけている宮野に先輩と呼ばれている少女が顔をあげた。
読みかけの本を栞を挟み、少々大きな音をたてて閉じた。
「骨壺婆の時に来ていたじゃないか」
「こ・・・・骨壺・・・・・・」
宮野の顔が引きつるのを見て、先輩は何かを思いついたように口元を歪ませる。
イスから立ち上がると、アンティークの戸棚に向かい歩く。
「ああ、君は骨壺婆が苦手だったな」
しごく楽しそうな声が、先輩の背中から聞こえる。
戸棚の奥から何かを取り出すと、顔だけを宮野に向け嬉しそうに笑った。
その笑顔に何かを感じた宮野は、一歩二歩と後ろに逃げる。
「何を逃げるんだ?」
「その笑顔は信用できません!!」
「まったく、信用できないなどとは心外だな」
そう呟いて振り返ったその腕の中には、茶色の壺が抱えられていた。
それを見た宮野は、声にならない悲鳴をあげ後ろの壁際まで逃げた。
「そそそそそ、それって・・・・・・」
「骨壺婆がくれたものだよ」
おもむろに壺に手を入れると、中から小さな白い破片を取り出した。
掌よりも小さなその欠片を、躊躇することもなく先輩は口の中に放り込んだ。
左右の頬がいびつに膨らむのは、口の中で転がしているからだろう。
十分に味わってから、軽い音をたてて噛み砕いた。
「せ、先輩が・・・・・骨を・・・・・」
「骨?あぁ、宮野君」
「これは飴だよ」
拍子抜けした宮野の顔を見て、先輩は満足げに頷いた。
「骨壺婆もこの飴を食べていただけなのだよ、君。それを周りがやれ人骨だ、などと騒ぐから」
「だからって、こんな壺にいれなくても」
「骨壺君という、れっきとした商品なのだが?」
「こ・・・」
「先入観は時として冷静な判断力を鈍くするものだ。君はまだ先入観にばかり左右されすぎだよ」
呆れたような、そんな顔を先輩はしてみせる。
そんな先輩に反論しようと宮野が口を開きかけた時、広間の扉が廊下側からノックされた。
「ほら、客人が来たようだ。カギは開いているから入ってきてくれたまえ」
その声に反応して、ゆっくりと扉が開く。
扉の前にいたのは、長い髪の毛を首の後ろでひと括りにした髪形をした、至極おとなしそうな女生徒だった。
二人を見ると、慣れた仕草でお辞儀をすると口を開いた。
「浦前沙夜子です。私の双子の姉妹を探してください」




