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メッセージ  作者: けせらせら
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門脇妙子 1-5

 どう考えるべきなのだろう。

 浅川は薄暗くなった部屋のなかで、改めて門脇妙子の写真を見つめ思案を続けていた。

 香織ははっきりと門脇妙子の写真を指差した。5分の1の確立。ただの偶然と言ってしまえばそれまでのことだ。それでも香織が見たものがただの夢でない可能性は高い。

 実際、浅川は徳永香織の力について、かつての友人と同じような極めて優れた観察力を元にした幻想である可能性があるのではないかと考えていたところがある。

 自分でも無意識のうちに、その場に残された状況を瞬時に読み取り、そこから真実を導き出す力。だが、それがあまりに無意識のうちに行ってしまうため、それを補うために幻によって答えを見つけ出す。

 それが徳永香織の力の正体かもしれないと想像していた。

 だが、その説で今日の話は説明出来るのだろうか。

(いったい僕は何を求めているんだ?)

 香織が知っているのは、掲示板に書かれた言葉と新聞やニュースで報道されている限られた情報に過ぎない。それなのに、香織は自らの見た幻のなかで門脇妙子の顔を見たと言っている。

(香織は門脇妙子を知っている?)

 まだその可能性は残っている。門脇妙子の写真を選んだことも、どこかで浅川の行動や写真の特徴から無意識のうちに、それが他の写真と違うことを感じ取ったのかもしれない。

 だが、今ではその考えこそがあとづけの理屈に思えてくる。

(彼女は本物の能力者なのか? 本当に死者の姿が見えるのか?)

 浅川は右手を額に当てた。

 もし彼女が本物の能力者で、昨夜見たものもただの幻ではないとなれば事件を解く大きな手がかりになるのかもしれない。

 その時、突然部屋に灯かりがついた。振り返ると美鈴が立っている。ちらりと時計に目を向けるとすでに午後6時を過ぎている。

「お兄ちゃん、何してるの?」

 美鈴が声をあげた。

「なんだ……美鈴か」

「なんだ、じゃないわよ。どうしたのそんなぼんやりした顔して……今日、香織さんが来る日だったわよね。もう帰っちゃったの?」

「ああ、おまえずいぶん遅かったじゃないか」

「心配してくれてるの? 私なら大丈夫よ」

 美鈴はそう言いながら浅川の前に座るとテーブルに置かれた写真を指差した。「この写真、何なの?」

「事件の被害者かもしれない人の写真」

「え? 事件の被害者って……あの?」

「ああ。昨日、倉田さんが来て、行方不明になっている女性の写真を置いていった」

「これ、みんな行方不明者なの?」

「いや、行方不明なのはそのなかの一人。ほかは僕の知り合いの写真だよ。おまえ、どれが被害者の写真かわかるか?」

「えー、そんなのわかるわけないじゃないの」

 美鈴は口を尖らせた。

「そうだな。普通はわからないよな」

 真剣な口ぶりの浅川に美鈴は不思議そうな顔をした。

「どうしたの?」

「彼女はそのなかから行方不明者を当ててみせたんだ」

「彼女って……香織さん?」

 美鈴は訊き返した。

「ああ。彼女は事件の被害者の姿を夢で見たと言ってるんだ……いや……夢というよりもヴィジョンと言ったほうがいいんだろうな」

「ヴィジョンか……それじゃ死んだ人の姿を見る力だけじゃなく、そういうことをキャッチする力もあるってことなのね」

 それほど美鈴は驚いてはいないようだった。以前から美鈴は香織にそういう力があると確信しているようだ。

「まだはっきりと言う事は出来ないけど、その可能性はあるのかもしれないね」

「お兄ちゃん――」

 美鈴が言いかけた時、部屋の電話が鳴り出した。浅川がすぐに立ち上がり電話に出た。

――浅川さん!

 慌てたような香織の声が聞こえてきた。その声の雰囲気から何か起きたのだということが感じられる。

「どうしたの?」

――今……また……あの女の人の姿を見たんです。

 香織の声が震えている。

「どこで?」

――今、部屋にいたら……急にまわりが公園になって……

「公園? どこの公園かわかる?」

――すぐ近くに大きなドームのようなものが見えました。

「ドーム? 仙台スタジアム?」

――ええ

「それじゃ――」

――ええ……たぶん、あれは七北田公園だと思います。そこの花壇にあの女の人が……捨てられて……でも、その身体には首がないんです……

 後は言葉にならなかった。

「わかった。香織さん、どこにいるの?」

――家に……

「それじゃ、そこにいなさい。僕が今から公園まで行って確かめてくる」

 浅川が電話を切ると、その様子を見ていた美鈴が声をかけた。

「いったいどうしたの? 香織さん?」

「ああ、彼女が再びヴィジョンを見たと言ってる。行方不明になっている門脇妙子が公園に捨てられているところだそうだ」

「それじゃ――」

「彼女の言っているのが本当だとすると、門脇妙子はすでに死んでいることになる」

 首を切られた死体。想像しただけで背筋が寒くなる。

「どうするの?」

「行って確かめてくるよ」

「警察へは?」

「確認した後で電話する。彼女の言葉を疑うつもりはないが、それだけで警察に連絡するわけにもいかないだろう」

「それじゃ私も――」

 そう言って美鈴が立ち上がろうとする。

「だめだ! おまえはここに残れ。何かあればすぐ連絡する」

 そう言うと浅川は美鈴を残し部屋を出た。


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