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メッセージ  作者: けせらせら
38/39

中川響子 4-10

 わずかに開いた窓の隙間から、冬が近づいてくることを知らせる冷たい風が窓から吹き込んでくる。

 浅川はその風の冷たさに目を覚ました。リビングからは掃除機の音が聞こえている。

(美鈴か……)

 身体を動かした瞬間、ズキリと肩の辺りに激痛が走る。浅川は右手を額に当て、昨夜のことを思い出そうとした。

――浅川!

 ゆっくりと記憶が戻ってくる。

 あの後、倉田が飛び込んできて、二人で香織と中川響子の二人を抱きかかえ、炎のなか地下室を出たことを思い出す。その後、病院に行ったことまでは憶えている。だが、その後は……

 掃除機の音が止まり、ドアが開いた。

「起きたのね」

 美鈴が浅川を睨んでいる。その表情から美鈴が怒ってることがはっきりと伝わってくる。

「……おはよ」

「何バカなことしてるのよ! 死んだらどうするつもりなの!」

 美鈴の怒鳴り声に浅川は首を竦めた。

「ひょっとして……昨夜のこと?」

「そうよ!」

「なんで知ってるんだ?」

「何言ってるのよ。お兄ちゃんのこと迎えに行ったのはこの私なのよ! 憶えてないの?!」

 そういえば病院で治療を受けた後のことを覚えていない。やはり久々に「力」を使い、疲れていたのだろう。

「……ごめん」

「まったく……いい加減にしてよ!」

 そう言った美鈴の目に涙が浮かんでいるのが見えた。「もう私の家族はお兄ちゃんしかいないんだからね」

 美鈴にとって血のつながりはなくても、自分だけが唯一の肉親なのだ。

(肉親か……)

 美鈴は知らないことだが、浅川には4歳年上の兄がいる。母親が美鈴の父親と再婚する前に家を出て行方がわからなくなってしまったが、おそらく今でもどこかで生きていることだろう。

 そして、兄にもまた自分とは同種の力がある。

 母は『伊吹の民』と呼ばれる一族の末裔だった。その力を浅川も受け継いでいる。浅川は右手に『命を吸い取る力』を受け継ぎ、兄は左手に『命を与える力』を受け継いだ。今まで浅川がその力を使ったのはほんの数回に過ぎない。

 15年前、香織を助けたのは兄かもしれない。一度、死を迎えた者が一族の力によって『生』を受ける事によって『死者の姿』を見ることの出来る力を得る。そのことは母に何度も聞かされたことだ。兄はその一族の宿命に逃れたくて家を飛び出した。

「でも……本当に無事でよかった」

 美鈴が自分に言い聞かせるように言った。「3人目の被害者の中川響子さんも無事だったんだってね」

「うん」

「犯人は死んだって聞いたけど?」

 ちらりと美鈴が浅川の表情を伺うように言った。美鈴も浅川の右手に秘められた力のことは昔から知っている。きっと昨夜、何があったかくらいのことは想像がついていることだろう。

「ああ、実行犯はね」

「実行犯?」

「そう……彼はただの実行犯だよ」

 浅川は身体を起こした。

「ちょっと! 起きるつもりなの? だめよ、大人しく寝てなきゃ」

「事件を全て終わらせなきゃいけないんだ」

 そう言って浅川はベッドから降りた。


   *   *   *


 午前6時20分。

 早朝の仙台駅の新幹線ホームにはまばらに人影が見えるだけだ。

 その一番端に白いロングスカートに白いジャケット姿の女が大きなトランクを脇に置いて、10分後にやってくる盛岡発東京行きの新幹線を待っていた。

 深くベージュの帽子を被り、大き目のサングラスをかけている。その女には左手が無く、ジャケットの左の袖がヒラヒラと揺れている。

 その女の背後にゆっくりと浅川が近づいていく。

「旅行ですか?」

 浅川が声をかけると、その女はちらりと後ろを振り返った。

「ええ……」

 女は煩わしそうに答えると、再び視線を正面に向ける。

「女性の一人旅ですか……いいですね。どこまで行かれるんです?」

「……ちょっと」

「ちょっと……どこまで?」

「あなたに言う必要はないと思います」

 女は冷たく言い返した。浅川は小さく肩を竦めた。

「そうですね。けれど警察には言う必要があると思いますよ」

「……警察?」

 女は振り返ると改めて浅川を見た。「どういう意味ですか?」

「もう終わりにしましょう」

「意味がわからないわ。何を言ってるんです?」

「自分が逃げ出すために何人を犠牲にすれば気がすむんです? 逃げ切ることなど出来ませんよ」

 浅川の強い言葉に女は唇をかみ締め、浅川の顔を睨みつけた。

「あなたは何を知っているの?」

「あなたが誰なのかを。そして、あなたも僕のことを知っているはずだ」

「さあ……私、あなたに会ったことあったかしら?」

「とぼけているつもりですか? それとも忘れてしまったんですか? けど、僕が何者なのか、なぜ僕がこの事件に関わったのか……そんなことはこの際どうでもいいでしょう。問題はあなたが全ての連続殺人事件の主犯であるということです」

「人違いなさってるんじゃありませんか? 私は――」

「安住桜さん……とでも?」

 浅川はポケットから早苗からもらった安住桜の写真を取り出した。「確かに顔立ちは似てますね」

「何を――」

「左手はどうしました?」

 浅川は視線を落とし、ひらひらと漂う女の左の袖を見つめた。

「……これは事故で――」

「それも嘘ですね」

 すかさずに浅川は言った。「あなたはその左腕とともにあなた自身の存在を消そうとしたんです。藤枝美月さん、それこそが一番の目的だったのではありませんか?」

 二人の間に一瞬、沈黙が流れる。やがて女はゆっくりとした動作でサングラスを外した。その強い意志の見える黒い瞳で藤枝美月はゆっくりと口を開いた。

「先生は何を知っているんですか?」

「僕のことを憶えているんですか?」

「ええ、もちろん。浅川先生のことを忘れるはずがありません。先生は私にとって特別な人でしたから。こんなところでお逢い出来るなんて思いませんでした」

 美月はちらりとホームにある時計に視線を飛ばしてから言った。「まだ少し時間がありますね。お話を聞かせてもらいましょうか。先生は何を知ってるんです?」

「初め僕は不思議でした。なぜ犯人は門脇妙子さんの身元を隠そうとしたのか。死体の身元を隠すことで自分に繋がる線を隠そうとする。それだけならば何も不思議じゃありません。それなのに一方で犯人はネットの掲示板に書き込みをして彼女の指を送ろうとした。これじゃやっていることがあまりにも矛盾している。けど、あれはただの伏線だったんです。犯人の本当の目的、それは第2の殺人の遺体を特定させないことにあったんです。

 門脇妙子さんの遺体の指紋を削ぎ取った指を送り、遺体もバラバラにして公園に捨てる。もちろんこれはDNA鑑定によって門脇妙子さんが特定されることを予想したものです。実際、警察は遺体を鑑定によって門脇妙子さんのものと特定し、マスコミはその犯行の異常性から、犯人が精神異常者である可能性を強く指摘するようになる。そして、次にあなたは自分と似た容貌を持つ安住桜に目をつけた。あなたは自らの指を警察に送り、自らの腕を安住桜さんの遺体とともに残すことによって、安住桜さんの遺体が自分のものと識別されるように仕組んだんです。門脇妙子さんの時とは違い、指からは指紋が、そして遺体のなかであなたの腕だけが綺麗な状態で発見される。警察はまさかその腕と焼けた遺体が別人のものとは考えず、その腕から遺体をあなたのものと特定してしまったんです。全てあなたの狙い通りにね。

 中川響子は橋口義男を犯人とするための材料ですね。全ての犯行を橋口義男にかぶせ、そして橋口義男までも焼き殺そうとした。橋口の家の地下室に爆弾を仕掛けたのはあなたですね」

 浅川は一気に喋った。

「でも、何のために私がそんなことを?」

「あなた自身の存在を捨て去るためにです。あなたが今のまま藤枝美月として存在する限り、お父さんの管理から逃れることが出来ないと考えたからではありませんか?」

「それなら父を殺せばいいことでしょう?」

「ところがあなたはそうはしなかった。あなたはお父さんを憎んでいながらも、その反面、誰よりもお父さんを愛していた。以前、お話しましたね。あなたとお父さんは良く似ている。だからこそ、あなたはお父さんを殺せなかった。その代わりに、あなたはあなた自身の存在を殺したんです」

「すばらしいわ。でも、ほんのちょっと違ってますよ。確かに私は父を愛しています。私という人間の原点のような人ですからね。でも、父を殺さなかったのは愛しているからじゃありません。あの人は生きることで、苦しみを味わうことになるんです」

「どういう意味ですか?」

「いずれわかります」

 美月は初めて微笑んだ。

「おや、笑いましたね。逮捕されることなど怖れていないということですか?」

「まさか。相手が誰であろうと、捕まることは一番私が恐れてることです。私が何より怖いのは『自由』を失うことですから……いえ……失うという言い方は間違ってますね。私は今までだって『自由』でいたことなど一度もないのですから」

「自分を哀れんでるつもりですか?」

「とんでもない。そういうのは一番嫌いなことです。先生だって知っているでしょ? でもね――」

 と、美月一旦言葉を切ってからさらに続けた。「私は死んだ彼女たちを哀れむつもりもありませんよ」

「門脇妙子が丸山修の婚約者だから?」

「ふふ……先生は私が彼女に嫉妬していたと思っているのですか? まさかそれで彼女を殺したと?」

「違うでしょうね。あなたは愛のために理性を失う人じゃない」

「それってひょっとして褒めてくれているのかしら? 確かに丸山修を誘ったことは事実です。でもね、私は彼に何の期待もしてなかったですよ」

「それではやはり彼女が不倫をしていたからですか?」

「ふふ……」

 美月はまた小さく笑った。「そんなことまで調べているんですね」

「やはり彼女と掲示板上で言い争いをしていた相手というのはあなたなんですね?」

「いいわ、教えてあげます。確かに彼女を知ったのはあのホームページからです。ただの愛人として利用されているだけなのにも関わらず、彼女はそれが『純愛』だと信じ込んでいました。私は彼女という人間がわからず、実際に彼女のことを調べました。そして、彼女の全てを知ったんです。彼女は丸山修という恋人がいながら、妻子ある男との関係を続けている。彼女の愛情は矛盾しているんです。それはつまり彼女の存在そのものが矛盾していることになると思いませんか?」

「それで丸山修に近づいたんですか」

「彼女の気持ちが知りたかったの」

「価値観など人それぞれです。あなたの思うことだけが正しい『愛』の形というわけじゃない」

「そうね。でも、私はそれを不快に感じてしまった。だから彼女に私の踏み石になってもらうことにしたの」

 涼しげな表情で美月は言った。いくぶん顔は整形しているものの、その気高い表情は学生の頃と変わっていない。

「安住桜は? あなたの身代わりですね」

「そうよ。私はずっと彼女のような人を捜していました。彼女がいたからこそ、私がこの計画を実行に移せたんです」

「容姿があなたにわりと似ていて、人付き合いが少ない。彼女が姿を消しても誰も捜さないと考えたんですね」

「彼女はずっと自分自身を否定していました。たいした行動力も無く、心のなかではいつも恋人が帰ってくるのを待っている。あまりにも弱すぎます。彼女の存在は、以前、死のうとして死に切れなかった私自身を思い出すんです。だから私が彼女に代わってあげたんです」

「左腕を犠牲に?」

「ええ。私の腕に残った傷は私にとって何よりも恥ずかしい汚点ですからね。それで私自身を捨てることが出来るならすっきりして良いと思って」

 美月は左腕をそっと上げると、存在していない左手首に視線を向けた。

「中川響子は? なぜ彼女を選んだんですか?」

「あれはあの男が選んだの。私じゃありません」

 美月は再び浅川に視線を戻した。

「橋口義男がですか?」

「ええ、まさかあの男を連れて逃げるわけには行きませんからね。私の別れの言葉を聞いてあの男は代わりの存在を求めたんです。けど、私の代わりなど捜してもいるはずがない。きっと適当にあの女を選んだんでしょ。でも、あの女、助かったそうじゃないですか」

 美月は軽く笑った。

「彼女に対しても罪悪感はありませんか?」

「べつに」

 美月の答えは素っ気無かった。

「橋口義男までも殺そうとしたのはなぜですか? 彼に全ての罪を被せるため?」

「あの男は私のために存在していたんです。私に対する忠誠心に気づくまで、彼は自分自身の存在意義を認められずに放火を繰り返していた。私という存在があったからこそ、彼はこれまでまともな人間として生きてこれたんです。その私が姿を消せば、彼はただの危険な存在に過ぎません。私は皆さんの危険を回避したかったんです。私だってムダに人が死ぬことを望んでいるわけじゃありませんからね」

「あなたのためなら誰が命を落としても笑ってられるのに?」

「人は誰でも他人を犠牲にして生きているものです。それにちゃんと気づくかどうか、その違いだけです。むしろそれを意識している人間のほうが素直だと思いますよ」

「不思議な人ですね。そこまで他人を自分の捨石に出来るとは」

「先生こそ不思議な人だわ。ずっと前から思っていたんです。先生ってすごく優しい反面、『死』の香りがする。だから私、先生に憧れていたんです。でも、今は私に対する殺意も感じます。私を殺してくれるんですか? それならそれで構いませんよ。ひょっとしたら私は死んで初めて自由になれるのかもしれない」

「死を望みますか? 死は『無』であって、決して自由になることとは違いますよ」

「それでも束縛ではないわ」

「ずいぶん死を軽んじているんですね」

「先生は死を重く見すぎているんじゃありませんか? 人間、誰でも死ぬものです」

「ええ、『死』は万人に訪れるものです。それでもそれを万人が受け容れられるわけじゃない」

「やっぱり先生って面白い人ね。最後に先生に会えて楽しかったわ。さあ、どうやって私を殺してくれるの?」

 美月のその瞳はまるで挑戦するかのように浅川にまっすぐに向けられた。

「確かにそういう気持ちがあったことも事実です。でも、気が変わりました」

「え?」

「あなたのことは警察に任せることにしますよ」

 美月はその言葉を聞いて眉をひそめた。

「あら、私を助けてくれるの?」

「助ける? 違いますね。あなたは生きて法によって裁かれるべきです。僕が裁くべきじゃない」

 新幹線の到着を告げるアナウンスがホームに流れる。ピクリと美月の眉が動いた。

「私が素直に捕まると思いますか?」

「死を選ぶつもりですか?」

「言ったでしょ。私にとって一番怖いのは束縛されることだって。残念です。先生とはもっとゆっくりお話したかったわ」

 美月の口元に微かに笑みが浮かんだ。

 新幹線がホームに飛び込んでくる。その瞬間にゆらりと美月の身体がホームに向かって動いた。

 だが――

「そこまでだ!」

 美月の身体を倉田の大きな手がぐいと引き戻した。その横を新幹線が滑りぬけていく。

「離して!」

 若い刑事と警官が駆け寄ってきて、もがく美月の両腕を掴んだ。やがて諦めたように美月は動きを止めた。

「なぜ僕がここに来たかわかりますか?」

 美月の顔を覗き込みながら浅川は訊いた。

「さあ……なぜ?」

 浅川はポケットのなかから焦げた一枚の切符を取り出した。

「これがなんだかわかりますか? 橋口義男が最後まで大切に持っていたものです。新幹線の切符ですよ。彼は最後まであなたと一緒にいたかったんですね」

「あんな男にまで私は束縛されていたのね」

 美月は大げさにため息をついてから小さく笑ってみせた。

「彼はあなたを必要としていたんです。きっとあなたのお父さんもあなたを誰よりも必要としているのかもしれない。それをあなたは束縛と感じた」

「口がうまいのね」

「あなたは自由ですよ。これまでも、そして、これからもね」

「それは小さな空間での話でしょ。私が求めているのはそんなちっぽけなものじゃないわ」

 美月は鋭い視線を浅川に向けた。

「ええ、わかっていますよ……けどね、誰であろうと完全な自由のなかで暮らす人なんていないんですよ。皆、狭い空間のなかで自由を勝ち取ろうとしているんです」

「先生もその一人?」

「もちろん」

「ふふ……それじゃ私も自由を勝ち取ってみせるわ。大きな自由をね。私の言っていることがわかりますか? 私は誰も殺していないんですから」

 美月は不敵に微笑んだ。

「そこから先は署で訊かせてもらいましょう」倉田が美月に言った。「連れて行け」

 倉田の合図を受け、美月は警官に挟まれて去っていった。

「これからが大変ですね。彼女が言ったように、全ての事件で直接手を下したのは橋口義男です。彼女が主犯であったことを立証するのは難しいですよ」

 美月の後ろ姿を見送りながら、隣に立つ倉田に浅川は声をかけた。橋口義男が死んだ今、藤枝美月は事件の全てを橋口のせいにすることが予想される。

 その時こそ――

(この手で藤枝美月に罪を償わせなければいけない)

 浅川はぎゅっと右の拳を握り締めた。

「ああ……それでも彼女の存在こそが犯罪の証拠にはなる。何としても起訴して有罪にしてみせる」

 倉田は力強く言った。

「がんばってください」

「おいおい、他人事みたいな言い方だな」

 ジロリと倉田は浅川を睨んだ。

「ええ、他人事ですよ」

 浅川はそう言って微笑んでみせた。その浅川の表情に倉田も口元を緩ませる。

「そういや、さっき警察に匿名で藤枝宗一郎についての告発状が届いたらしいぞ」

「告発状?」

「藤枝宗一郎が県議という立場を利用して行った不正行為が全て書かれているそうだ」

「それじゃ……彼女が?」

「――だろうな。よほど身近にいる人間じゃなければ手に入れられないような資料までも同封されていたそうだ。いずれにしても藤枝宗一郎はこれからかなり苦しい立場に追い込まれることになるだろうな」

「そういうことですか……」

 美月がさっき言っていたのはこのことなのだろう。だが、これは本当に父親を貶めるためにやったことなのだろうか。むしろ、美月が宗一郎に一人の父親としての人間性を求めての行動のようにも思える。そして、それは美月なりの父への愛情表現なのではないだろうか。

「ところで昨夜の女性のことだが――」

 倉田は改まって浅川を見た。

「香織さんのことですか?」

 やっかいな仕事が残っていたことを浅川は思い出した。まだ倉田には、香織が特殊な力で事件について教えてくれていたことを説明していない。

「説明は……出来るのか?」

「どうでしょうね。藤枝美月を起訴する以上に難しいかもしれません」

「……そうか。なら仕方ないな」

 意外にも倉田は香織のことを深く聞こうとはしなかった。「身体は大丈夫なのか?」

「ええ……別になんともありませんよ」

「無理はするなよ。昨夜だって一人でタクシーに乗って帰ったそうじゃないか」

「わかってます。美鈴からも無理しないよう言われてますから」

 それを聞いて、とたんに倉田は視線を落とした。

「そうか……美鈴ちゃんか……よろしく言っておいてくれ」

 倉田はわずかに俯きながら言った。


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