中川響子 4-2
朝起きてインターネットを確認するのが癖になっている。
浅川はVAIOノートを広げると、いつものサイトにアクセスし、掲示板を眺めた。もちろん犯人のあの書き込みがないこと確認するためだ。
だが、今朝、そこを見て浅川は愕然とした。
(まただ)
つい先日とまったく同じ書き込みがそこに表示されている。
倉田はすでに気づいているのだろうか。
そう思った時、部屋の電話が鳴り響いた。それが倉田からの電話だと浅川はすぐに直感した。
――おい! 第一発見者!
浅川が電話に出ると、倉田の大きな声が聞こえてきた。
「何ですか?」
――例の書き込みだ!
「それなら僕も今見たところです。やはり安住桜は第3の被害者なのかもしれません」
――いや、そいつは違うな。
「違う? どうして?」
――昨夜、国見で一人の女が行方不明になった。
「何ですって?」
――被害者は中川響子。やはり22歳のOLだ。深夜に家族にコンビニに行って来ると言って出かけたまま帰らなくなったそうだ。ただ身体的な特徴はこれまでとはちょっと違っている。身長が151センチで体重が48キロ。血液型もO型だ。
「そんな……」
――だが、今回は目撃者がいる。
「本当ですか?」
これまでほとんど証拠らしい証拠を残さない犯人が犯行を目撃されるなどということは想像もしていなかった。
――近所に住む学生が中川響子と話している男を目撃しているんだ。
「学生から話を聞いたんですか?」
――今、行ってきたところだ。身長は180センチ前後、眼鏡をかけ、痩せた感じのする30過ぎの男だったそうだ。
大柄な男。それは香織が言っていたのと一致する。
「それじゃ安住桜は?」
――今回の被害者とは見ていない。もちろん、また犯人から身体の一部が送られてくればはっきりするかもしれないがな。
電話を切った後、浅川はそのままの姿勢でぼんやりと考え込んでいた。
(何か変だ)
浅川の頭のなかで、いくつもの疑問が渦を巻いている。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
振り返ると、いつの間にやって来たのか美鈴がすぐ後ろに立っている。
「また書き込みがあった」
「書き込み? それじゃ3人目の被害者が?」
美鈴は目を丸くした。
「ああ、だが、何かおかしいんだ」
浅川は美鈴に背を向けると、部屋からジャケットを持ってきた。
「どうしたの?」
「ちょっと出かけてくる。確かめたいことがあるんだ」
「今日って香織さんが来る日じゃなかった?」
「ああ……そうか……」
浅川はすぐに電話の受話器を取ると、香織の携帯電話の番号を押した。何度か呼び出し音が鳴った後、香織が電話に出た。
――はい……また何かあったんですか?
「ああ……また行方不明者だ……インターネットの掲示板にも書き込みがあった。中川響子というOLだそうだ」
――ひょっとして……また指が?
「まだ送られてきてはいない。けど、書き込みがあったということはいずれそうなる可能性が高いだろうね」
――そうですか。
さすがに香織も暗い声を出した。
「その後、何かヴィジョンを見た?」
――いえ……今のところは……
「そう。それで悪いんだが、今日の予定を明日にしてもらえないかな?」
――それは構いませんが……浅川さんは何を?
「ちょっと調べておきたいことがあるんだ」
――わかりました……何か見たら連絡します。
「よろしく頼むよ」
そう言うと浅川は電話を切り、ジャケットを羽織った。




