中川響子 4-1
国道を走るバイクの音が聞こえる。
黄色のジャージ姿の中川響子はコンビニから出ると、大きな月の浮かんだ空を見上げた。
響子の自宅と、コンビニとは目と鼻の先だ。オシャレに気を使う年頃であっても、ほんの数分コンビニに来るために着替えるのも面倒くさい。
秋も深まり次第に夜の空気も冷たくなっている。今年はいつにも増して寒くなるのが早い気がする。
(寒ぅ)
響子は身体を震わせ、コンビニ脇の路地から家に戻ろうとした。
その時――
「あの――」
突如、背後から声が聞こえ、響子は思わず足を止めて振り返った。
グレイのセーターを着た長身の男が親しげに近寄ってくる。どこか感じの良さそうな雰囲気がする。
「私?」
「はい――」
男は近寄ってくると響子の前に立った。
「なんです?」
こんな深夜にナンパのはずはない。しかも、自分は上下ジャージ姿という恰好で色気を誘うような雰囲気はどこにもない。
だが、男の言葉は響子を驚かせるものだった。
「もし良ければこれからドライブに行きませんか?」
「ええ?!」
この男は何を言っているのだろう。こんな深夜にジャージ姿の自分を見てナンパなど普通は考えられない。そもそも化粧をして街を歩いていても、滅多にナンパなどされたことがないのだ。自分自身が男から見て、特別な感情を持たせるような容姿でないことは響子自身よくわかっている。それほどスタイルがいいわけでもなく、目も小さくて化粧栄えのしない顔だということは自分が誰よりわかっている。
すぐ横を近所の学生が、響子たち二人を横目に通り過ぎていく。響子はその学生が通り過ぎた後、男に話し掛けた。
「何言ってるんですか?」
「だめですか? ドライブに行きましょうよ」
男はなおも執拗に迫った。
「あなた、誰なんです?」
「ねえ、ドライブに行きましょう」
男は同じ言葉を繰り返した。見た目は紳士風だが、その様子がどこかおかしい。左手をぎゅっと握り締め、まばたきもせずに響子を凝視している。
(なんか気持ちわるい)
初めは男の容貌から、良い雰囲気に見えていたが、それが次第に逆に不気味に思えてきた。
「私、そんな気ないですから」
そう言って響子は小さく頭を下げると男から離れようとした。その響子の腕を男は背後からぐいと引っ張った。
「ドライブ行きましょう」
「ちょ、ちょっと止めてください」
男の力は強く、響子の身体はぐらついた。そこを男が背後から抱きしめた。
「行きましょう」
同じ言葉を機械的に繰り返す。まるで精巧に作られたロボットのようだ。
「いや! 誰か――」
声をあげようとした瞬間、その男の右腕が響子の口を封じた。濡れたハンカチのようなものが口もとを塞ぐ。
「さあ、行きましょうよ」
「うぅぅ」
響子はその腕のなかで必死になって逃れようと暴れた。だが、男は響子の抵抗などまったく気にもしない。
路地から見える国道を何台もの車が通り過ぎていくのが見えた。
(助けて)
それが声になることはなかった。ぐっと伸ばした腕から次第に力が抜けていく。




