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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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縄跳び

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/09/06

 

 隣に住むお爺さんが縄跳びを買った。

 聞けば運動をするためだと言う。


「最近太っちゃったから」


 そう口にするお爺さんの身体はガリガリに痩せていた。

 去年の暮、溺愛していた奥様が亡くなってからほとんどご飯を食べていないから。

 そのくせ、ふらふらと辺りをぼんやりした顔のまま歩いている。


「縄跳びって痩せるんですか?」

「さぁ。だけど身体を動かさないと」

「なら、散歩で良くないですか?」

「散歩。そう。散歩ね」

「そう。散歩。結構頑張っているんですし。それを続けるだけでも良くないですか」


 一日、ぼんやり外を見ていたり、ふらふら外を歩いていればおしまいのお爺さんと違って私は忙しい。

 一週間の内、五日間は働いているし、時には五日以上だって働く。

 ようやく取れた休日だって資格の勉強をしないといけない。


 一緒に散歩なんて出来るはずもなく。

 お爺さんの不自然な行動を監視する義理もない。


 だから。


「縄跳び。頑張ってくださいね」


 心にもない事を口にするだけ。

 した後悔と言えばくだらない問答をしてしまったということくらい。


 分かっていたよ。

 お爺さんが縄跳びをするつもりなんてなかったこと。

 分かっていたよ。

 あれがきっと、お爺さんの無意識なSOSだったかもしれないこと。


 袋も買わないで抜き身に縄跳びを持つ。

 そんな行動をしていれば誰だって不自然に思う。

 そうでなくとも何をするか聞いてしまう。

 話の種に。

 きっと。


 数日間。

 お爺さんを見かけなかった。


 数日後。

 お爺さんの家の隣にパトカーが数台止まっていた。


 朝の電車に飛び込まない。

 死んだ場所は持ち家である自宅の中。

 お爺さんなりの優しさなのだろうと思った。


 だって、近所に住む私がしなくちゃいけないことはたった一つ。


「去年の暮に奥さんが亡くなってからずっと元気がないのは知っていましたけれど」


 この一言を警察に言うだけだから。

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― 新着の感想 ―
最初は、そうなんだ……と思いながら読み進めて、途中で「えぇ……(´;ω;`)」と。 終わり方もなんだかせつないですね。 短い中にぎゅっと詰め込まれていて面白かったです。 小雨川蛙さん、ありがとうござい…
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