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実力S級の俺、配信切り忘れで「虚無顔でボスを瞬殺する姿」が全国放送されてた件。今さら「ただの荷物持ち」とは言えない 〜定時で帰りたいので、追放してくれてありがとう〜  作者: U3
第3章:S級昇格・ライバル対決編

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第44話 S級たちの狂宴

 東京大迷宮、地下91階層。

 ここは、人類が未だかつて足を踏み入れたことのない領域、『深淵』の深奥部。

 出現する魔物は、地上なら一匹で街を壊滅させる災害級ばかり。

 常識的に考えれば、一歩進むのに数日を要する死地だ。


 だが、今の俺たちにとって、そこは単なる「通勤路」でしかなかった。


「邪魔だァッ!!」


 轟音と共に、紫電が走る。

 S級探索者、ジーク・ヴァイス。

 彼が愛剣『雷切』を一閃させると、行く手を阻んでいた『アダマンタイト・ゴーレム』の群れが、紙細工のように両断され、断面から溶解して崩れ落ちた。


「硬いですね。……でも、私の剣よりは脆いです」


 続いて舞うのは、A級筆頭、高橋すず。

 彼女の『氷剣』が振るわれるたび、襲いかかる『フレイム・ワイバーン』たちが空中で凍結し、氷像となって地面に砕け散る。

 炎を吐く暇さえ与えない、絶対零度の制圧。


「ふんっ! どきなさい!」


 そして、S級ポーター、山田しずか。

 彼女は武器を持っていない。

 ただ、道端にあった家ほどの大きさの岩盤を引き剥がし、それを砲丸投げの要領でブン投げた。

 ズドオオオオォォォッ!!

 岩塊がボウリングの球となり、迫りくるオーク・キングの大軍をまとめて彼方へと吹き飛ばす。


「ヒャッハー! アタシのステップについてこれる!?」


 戦場の隙間を縫うように駆けるのは、B級ダンサー・山本ゆき子。

 彼女は攻撃力こそ彼らに及ばないが、その変則的な動きで魔物を翻弄し、同士討ちを誘発させている。


 そして、その中心を突き進む白銀の巨影。

 巨大化したフェンリル、ポチだ。

 その背中には俺が乗っている。


「……ひどいな」


 俺、鈴木悠作は、仲間たちの暴れっぷりに半ば呆れていた。

 これは攻略ではない。災害が災害を蹴散らして進んでいるだけだ。

 だが、俺には俺の仕事がある。


「五右衛門、回収モードだ。取りこぼすなよ」

『合点でヤンス、旦那! 食材の墓場でヤンスねぇ!』


 俺はポチの背中から飛び降り、戦場を滑るように駆け抜けた。

 俺の役割は戦闘ではない。「後始末」だ。


 ジークが切り裂いたゴーレムの残骸。

 その中心核である『魔導コア』が地面に落ちる前に、俺はスライディングで接近し、素手でキャッチして五右衛門に放り込む。


 すずが凍らせたワイバーン。

 氷が砕ける一瞬の隙に、ナイフを振るい、最も美味な『尾の肉』と、素材価値の高い『火炎袋』だけを外科手術のような精度で切り出す。


 しずかが吹き飛ばしたオーク・キング。

 空中に舞う武器や防具を、五右衛門が展開した「捕食アーム」が次々と絡め取っていく。


「……よし。全部拾った」


 俺は再びポチの背中に飛び乗った。

 所要時間、コンマ数秒。

 俺たちが通り過ぎた後には、塵一つ残らない。

 完璧なSDGsだ。


 95階層、96階層、97階層……。

 階層を下るごとに、魔物の密度と強度は増していく。

 だが、S級たちの勢いは止まらない。むしろ、深層の濃密な魔力を浴びて活性化しているようだ。


「ははは! 楽しいですねマスター! これぞ修羅の道!」

「悠作さん、私、新しい魔法を思いつきました!」

「いい負荷ね。プロテインが欲しくなってきたわ」


 戦闘狂たちの狂宴。

 だが、さすがに99階層に到達した頃には、全員の肩で息をする音が大きくなっていた。


 99階層、『冥府の門』。

 最下層への入り口を守る、広大な広場だ。

 そこには魔物の姿はない。ただ、圧倒的な威圧感を放つ巨大な黒い扉がそびえ立っているだけだ。


「……着いたか」


 俺はポチを止めた。

 扉の向こうからは、禍々しい気配――スタンピードの元凶であり、師匠が挑んだであろう「何か」の気配が漏れ出している。


「突入しますか、マスター」


 ジークが剣の血を振り払いながら問う。


「いや」


 俺は首を横に振った。


「その前に休憩だ。……お前ら、腹が鳴ってるぞ」


 俺の指摘通り、静寂に包まれた広場に、グゥゥゥ……という音が四重奏で響いた。

 S級といえど人間だ。これだけの激戦を連戦すれば、エネルギーは枯渇する。

 特に、脳と筋肉への糖分供給が限界に来ているはずだ。


「最後の戦いだ。万全の状態で挑む」


 俺は五右衛門を下ろし、簡易キッチンを展開した。


「今日はガッツリ系で行くぞ。……カロリーの暴力だ」


 俺が取り出したのは、巨大な豚の肩ロース肉の塊。


 『レッド・ボア』の上質な赤身と脂身が層になった、3キログラム級のブロック肉だ。


「『バーベキューポーク』を作る」


 本来なら時間をかけて低温調理するものだが、今は時間がない。

 そこで、俺は魔法を使う。


「しずか、この肉を叩け。繊維を壊して柔らかくするんだ」

「任せて。……ふんッ!」


 しずかの掌底が肉に炸裂する。

 衝撃が内部に浸透し、一瞬で肉質が柔らかくなる。S級マッサージだ。


 次に、フォークで無数に穴を開け、タレに漬け込む。

 タレは、ケチャップ、ウスターソース、蜂蜜、醤油、そしてたっぷりのニンニクと、燻製パプリカパウダーを混ぜた特製BBQソース。

 これを五右衛門の「時間加速・圧力鍋モード」に放り込む。


 数分後。

 味が中心まで染み込んだ肉を、高温のフライパンで焼き上げる。


 ジュワアァァァァァッ!!


 脂が爆ぜる音。

 肉の焼ける香ばしい匂いと、ソースの甘辛い香りが広場に充満する。

 表面をカリッと焼き固めたら、蓋をして蒸し焼きにし、余熱で火を通す。


 焼き上がった肉塊を、厚切りにする。

 断面から透明な肉汁が溢れ出し、ピンク色の肉が顔を出す。

 その上から、煮詰めたソースをたっぷりとかける。


「飲み物はこれだ」


 俺はミキサーを取り出した。

 疲れた脳には、即効性のある糖分が必要だ。

 バニラアイスクリーム、牛乳、そして板チョコを割り入れる。

 さらに、隠し味にピーナッツバターをスプーン一杯。


 ガガガガッ!


 ドロリとした褐色の液体が出来上がる。

 グラスに注ぎ、ホイップクリームとチェリーを乗せる。


 『チョコレート・ミルクシェイク』。


 アメリカンダイナーの定番にして、悪魔的なカロリー爆弾だ。


「「「いただきます!!」」」


 全員が肉に喰らいつく。

 ナイフなどいらない。手づかみで、厚切りのポークにかぶりつく。


「……んんっ!!」


 ゆき子がのけ反った。


 「柔らかっ! なにこれ、噛まなくても解ける! ソースが濃くて最高!」


 甘辛いBBQソースが、豚肉の脂の甘みを極限まで引き立てている。

 しずかのマッサージのおかげで、筋っぽさは皆無だ。

 口の中で肉がホロホロと崩れ、濃厚な旨味が広がる。


「……力が、湧いてきます」


 ジークが無心で肉を貪る。


「消費した魔力が、脂と共に補填されていく……。この野性味、闘争本能が刺激されます」


 すずは、シェイクをストローで吸い上げた。

 ズズッ、ズズズッ。


「ん〜っ! 甘いです! 脳が痺れるくらい甘くて冷たいです!」


 濃厚なチョコレートとバニラの甘み。ピーナッツバターのコク。

 それが、肉の脂っこさを中和するのではなく、さらなる満足感へと昇華させる。

 しょっぱい肉と、甘いシェイク。

 交互に口に運べば、永久機関の完成だ。


「はぁ……。生き返るわね」


 しずかも豪快にシェイクを飲み干す。


「糖質と脂質とタンパク質のコンボ……。普段なら悲鳴を上げるところだけど、これからの戦いを考えれば、これくらいが適正ね」


 足元では、巨大化したままのポチが、肉塊をバリバリと骨ごと噛み砕いている。


 「ガウッ!(もっとくれ!)」とシェイクのボウルにも顔を突っ込み、口の周りをチョコだらけにしている。


「……よし。食ったな」


 俺は最後の肉を胃に収め、立ち上がった。

 満腹感と共に、体の芯から熱が生まれる。

 恐怖はない。不安もない。

 あるのは、満ち足りた充足感と、それを脅かす敵への闘志だけだ。


「行くぞ。……この扉の向こうで、全てを終わらせる」


 俺たちは『冥府の門』の前に立った。

 ジークとすずが剣を構える。

 しずかが拳を握る。

 ゆき子がステップを踏む。

 ポチが低く唸る。


 俺は五右衛門から、一本の鍵を取り出した。

 師匠のリュックに入っていた、古びた鍵。


 ガチャリ。


 鍵穴が回り、重厚な扉が地響きを立てて開き始める。

 溢れ出す瘴気。

 その奥から、何者かの嘲笑うような気配が漂ってきた。


「……お待たせしました。デリバリーの時間だ」


 俺は不敵に笑い、暗闇へと足を踏み入れた。

 S級たちの狂宴は、まだ終わらない。

 ここからが、メインディッシュだ。


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